第10話

「さぁ、フェロモンテストと書かれた用紙への記入は終わりましたね?」高宮が日差しの落ち着いた庭を背に立ちそう言った。


 男性陣のジップロックは1から7のナンバリングがされていたが、女性陣のジップロックはAからGまでのアルファベットが振ってあった。オレはそれぞれのジップロックの封を開けては鼻を近づけ、中のコットンのにおいを嗅いだ。もちろん、オレだけじゃない。車座に座った参加者の男性の中央に置かれたジップロックを手にしては中を嗅ぎ、また封をして、元の位置に戻し、別のものを嗅ぐという行為を参加男性全員が繰り返した。


 A 無臭 何も感じない △

 B 少し酸いにおい 少し不快か △

 C 祖父母の家のにおい 懐かしいが可も不可もない △

 D とても魅力的に感じる 甘いにおいとでも言おうか ◎

 E ありえない 正直言ってくさい △

 F ちょっと好きかも いいにおい 〇

 G 無臭 いや、微かにいいにおいのような気もする 〇

 オレは自分で書いたそれぞれの印象を見直して、そして、最後にもう一度、Dのジップロックに手を伸ばし、その中のにおいを確認した。

 他の参加者も同様の行動をしていたが、Dのジップロックの中のコットンのにおいを執拗に嗅いだのはオレだけのようだった。それぞれに自分にとってのいいにおいのコットンがあったようで、何度も同じジップロックを手にしたのはオレだけではなかったが。


「あー、男性のみなさん、女性のみなさん、そろそろいいですかね? 書き込んだ印象が変わる可能性がまだあるぞという方は手を上げて下さい」ちょっとだけ呆れたような声で高宮が言う。なるほど、女性側の部屋でも同じような光景が繰り広げられているのかも知れない。でも、挙手する男性参加者はいない。そして、誰からという事もなく、皆がパラパラと元の位置に座布団を戻して座り直す。


「はい。それでは、いよいよ、その香りの……、いえ、そのフェロモンの発信者を発表していきます。それでは鈴木さん、このメモの通りにそちらのボードに書いて下さい。僕はこちらのボードに女性陣のコットンの内訳を書いていきますので」高宮がそう言って、ホワイトボードにAからGのアルファベットを書き始めると、鈴木さんも女性部屋の前のホワイトボードに1から7の数字を書き始めた。そして、その横に参加者のニックネームか書き足されていく。


「わぁ」「えー」「きゃあ」という声が逐一女性部屋の方から聞こえてくる。「んふー」「ほぉ」「なーるほど」鼻息と感嘆と納得の声が上がるのは男性部屋だ。なるほどってなんだよ。

 A ミーナ

 B マリ

 C アリサ

 D マルコ

 E サキ

 F ヒナ

 G ユノ

 ホワイトボードに書き上げられたコットンの主の名を、さっき書いたフェロモンテストの紙の横に書き足していく。


 A 無臭 何も感じない △ ミーナ

 B 少し酸いにおい 少し不快か △ マリ

 C 祖父母の家のにおい 懐かしいが可も不可もない △ アリサ

 D とても魅力的に感じる 甘いにおいとでも言おうか ◎ マルコ

 E ありえない 正直言ってくさい △ サキ

 F ちょっと好きかも いいにおい 〇 ヒナ

 G 無臭 いや、微かにいいにおいのような気もする 〇 ユノ


 そうか。なるほどー。

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