第9話

「それじゃ、そろそろ再開しますか。鈴木さん、コットンの回収をお願い」そう言うと高宮は立ち上がり、「それでは男性参加者の皆さん、今からお一人お一人に、ナンバリングされたジップロックを一枚ずつお配りします。その中に、今着ているTシャツを脱いで入れて下さい」と言いながら近づいて来た。

「はぁ?」「なにそれ?」男性参加者は口々に言っている。察しが悪いヤツらだ。視覚を封じて、握手で触覚、質問の答えで聴覚とくれば、次は嗅覚に訴えるイベントだろう。このTシャツに少しばかりついた体臭で印象を測ろうという事だろう。いや、彼らもそれを察して言っているのか。自分で自分の体臭は自覚出来ないが、その自覚できないものを見ず知らずの異性に嗅がれるのだ。いや、マジか。


 でも、面白そうではある。そして、乗りかかった舟だ。オレは速やかにTシャツを脱いで簡単にたたみ、シップロックの中に入れて封をした。オレに渡されたジップロックは【6】とナンバリングされている。

「それではお一人ずつ回収していきます。その袋が誰のものであるかは本人と私だけが把握できるように、細心の注意を払って回収していきます。ですから、不用意に声を出さないようにお願いしますね。その袋を私に手渡す時に、ご自身のニックネームが書かれたネームプレートを私に見せて下さい。それで、各ナンバーが誰のものであるのかを私とご本人だけが知る状況に致します」

 全てのTシャツを回収し終えた高宮はまた縁側に立ち、その七つのジップロックを鈴木さんに渡した。そして、鈴木さんからは少し小さめのジップロックの束を渡されている。


「えーっと、五感で婚活というテーマですから、もう、みなさん察しがついていらっしゃると思いますが、それぞれの肌に密着していた、男性陣の白いTシャツ、女性陣の小さなコットンを、それぞれに嗅いで頂きます。女性陣にもTシャツを着て頂いても良かったんですが、女性の服装にはワンピースというものもありますからね。ですから、女性の皆さんには、ブラジャーと胸の間にコットンを仕込んでもらって、この会に臨んで頂きました」そう言った高宮の言葉に「キャー」という反応が向こう側の部屋から起こる。「ま、嗅覚でフェロモンを嗅ぎ分けるという趣旨ですので、どうか、ご理解のほどよろしくお願いします」高宮は至って真面目な顔と口調でそう言った。


「えーっと、世に言う変態的な行為と言うのは、その対象がどういった人物なのか、もしくは、その対象がどういったカテゴリに属しているのかを知った上での妄執ゆえだったりしますから、この、顔も素性も分からないままに、フェロモンを嗅ぎ分けて相性を探るという実験的行為に変態的な側面は無いと私は断言します」さっきまでのだらけた態度はどこへやら、キリっとした表情で高宮は言う。そして途端に相好を崩し、「ま、そうは言っても、あまりに変態的な行為は注意させていただきますし、その度が過ぎるようであればご退場願いますけどね」ニヘラッとした感じで高宮はそう言った。

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