第6話
「ちょっと巻きでいきますねー」立っては座り、座っては立ちを繰り替えす参加者に向かって高宮はそう言った。そりゃそうだ。七人対七人の組み合わせは四十九通り、女性一人がずっと立ちっぱなしで男性七人が順繰り回るというやり方であれば、効率はいいのだろうが、それだと、一人一人の声と手の印象を吟味するには至りにくいのだろう。高宮と鈴木さんは襖越しに声を張って握手の済んだ組み合わせとまだの組み合わせを確認しながら、割とランダムに参加者の肩に手を置いては相手と引き合わせている。
オレは今のところ、三人の女性と握手してきた。そのすぐ後に書いたそれぞれの感想を見直してみる。
アリサ 手-しっとり やわらかい ・質問「バンジージャンプを飛ぶまでにかかる時間は?」「二時間」と答えた声は高めのカワイイ系 (オレは『二秒』と答えた)
サキ 手-なんか力強かった ガシっとしたカッコイイ系か? ・質問「乗りたかった電車が目の前で発車してしまった。その時の気持ちは?」「ちょ、マジふざけんな」と答えた声は少し低めのおねーさん系 (オレは『ま、いっか』と答えた)
ヒナ 手―めっちゃちっちゃい ちょっと華奢すぎるかも ・質問「キャンプ場にて。しけっているのか薪や炭に火が付かない。さあ、どうする?」「近くでやってる人に種火を分けてもらう」と答えた声は少し幼く聞こえた (オレはよく乾燥した柴を探して拾ってくると答えた)
掌の触覚と聴覚の全てを襖の向こうに傾けて真剣に臨むというのは、馬鹿馬鹿しくも不思議と全員が愛らしく思えてしまう。美人だブスだと他人を断じてきた友人たちの全てが愚かに過ぎると思えるほどに刺激的な体験だ。
「ヒロシは何がいいって、顔がいいんだよね。そのキレイな顔があるから、大抵の事は許せちゃう」と、異口同音に言ってきた歴代の彼女の顔が浮かんでは消えていく。「アタシのカラダが目当てだったのね」と怒る女の気持ちがオレにはよく分かる。オレの顔が目当てで付き合いたがった女が沢山いたから。彼女たちとは相性もクソもなかった。彼女たちのグロテスクな内面を知るにつれ、オレの女性不信は募っていった。噂に聞いていたこの五感で婚活というイベントにオレが強く惹かれたのは、この顔に寄ってきたわけではない女と出会えると思ったからだ。
肩に手が置かれた。オレを見下ろす高宮の顔は少し疲れている。『大変ですね』と、声には出さないがオレは眉と目尻でねぎらいの表情を出そうと頑張ってみる。そして、すぐさま立ち上がり、襖の隙間へ手を差し入れに向かう。
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