第2話

「ハイっ!それではみなさんお揃いのようですので、始めさせて頂きます。五感で婚活、ゴカコン、スタートです!」茶に染めたゆるいパーマ髪のいかにもチャラそうな男が前で高らかに宣言した。参加者からはまばらな拍手が生まれる。オレは少し大きめに手を叩く。

「司会はワタクシ、高宮トオルと」

「鈴木ユウコが務めさせて頂きますー」司会の男女が自己紹介をする。女性司会者の鈴木ユウコさんは襖のヘリからひょこっと顔を出して我々に手を振った。

「えっと、まず初めに注意事項をお伝えしますね」高宮トオルが話し始める。「えーっと、まずは、みなさんが通されたこの部屋の、このちょっと変な使い方……、っていうか、ま、この五感で婚活ゴカコンの肝になる部分なんですが。司会の我々が立っているこの縁側部分、今日はここから我々が皆さんをナビゲートいたします。そして、縁側というのはまあまあ狭いものですから、この襖で区切られた男性部屋と女性部屋の一番縁側に近い襖一枚を取っ払っています。我々司会の人間からどちらの部屋も良く見えるように、ですね。でも、ゴカコンの肝であります、先入観無しの男女の出会いという部分を大事にするために、その一枚開いた襖から向こう側を覗いたり、もしくは襖をしれーっと開けて向こう側を覗いたりは決してしないでください。そして、声を出す事も序盤では禁止します。視覚情報と聴覚情報を制限する事で見えてくる個性というのがあると思いますし、そして、その制限が解放された時の印象の面白さを楽しんで頂こう、巷によくある外見や年収なんかのプロフィールから入る出会いとは違う男女のキッカケをみなさんにご提供できたらいいなと私どもは思っております。とりあえず、覗き見と声出しは禁止です」高宮は覗き見のジェスチャーをしてすぐに腕でバッテンを作り、そして、人差し指を口に当ててウィンクした。


 高宮が言う通り、おかしな空間だ。襖を隔てた向こうの部屋には女性参加者がいるハズで、確かに向こう側には人の気配がある。でも、こちらの部屋にいるのは男性参加者ばかりだ。男性参加者はオレを含めて合計七名。その参加者はみんな一様に真っ白なTシャツを着ている。受付で参加費三千円を支払った際に渡されて、会場に入ったらすぐに着替えて下さいと言われたTシャツだ。真っ白なTシャツを着た男がずらり、座布団の上に胡坐を組んで座ってる。おかしな空間は不自然な統一性をもって、おかしな様相を一層増している。


 婚活という結婚に向けたスタートラインは時代と共に変化しているのだろうが、お見合いの延長線上にこのゴカコンという婚活はあるのだろうか。或いは、マッチングアプリの延長線上にあるのだろうか。

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