GOKAKON!

ハヤシダノリカズ

第1話

「生まれてきちゃってゴ・メ・ン!」前を歩く小さな女の子が大声で歌う歌詞が耳に入って来て、オレはギョッとする。三歳くらいだろうか。少し前を歩くお父さんと五歳くらいのお姉ちゃん、隣を歩くお母さんという幸せの構図そのものがオレのすぐ目の前を歩いている。

「ちゅかあいくてゴ・メ・ン! 生まれてきちゃってゴ・メ・ン!」オレのすぐ前を歩いているその女の子は、どうやらこの二フレーズをずっと繰り返し歌っているようだ。急いでその家族を追い越す必要もないし、唐突に聞こえて来た小さな女の子が歌うポップなメロディにのせた懺悔が気になって、オレはスマートフォンを片手にその子の歌に耳を傾けて、幸せ家族の後ろをゆっくりと歩いている。


【生まれてきちゃってごめん 歌詞】と検索窓に入れてみると、なるほど、女児向けアニメの主題歌かなにかで、自己肯定と自身を鼓舞するような歌詞が並んでいる。少なくとも【恥の多い生涯を送って来ました】みたいな太宰的な生き様ベースの上にある『生まれてきちゃってゴメン』ではないのだな。我が子が『生まれてきてゴメン』と歌っているのを微笑みを浮かべて聞いている母親の顔も不思議だったが、その子が好きで見ているそのアニメ自体は明るくてポップなものなんだろう。『生まれてきちゃってゴ・メ・ン』という歌詞にネガティブな要素を感じさせない位に。


 いや、『生まれてきてスミマセンでした』という最悪の自己否定を、小さな女の子の歌う歌詞から思い浮かべてしまうオレの方がおかしいのだな。

『こんな歳にもなって、結婚ひとつ出来ない不出来な息子でごめんなさい。生まれてきてスミマセン』だなんて両親への思いが心によぎる。我が子からのそんな謝罪を喜ぶ親などいる訳がないので、そんな事を実際に口にすることはこれから先もないのだろうけど。


 オレは歩調を少し落とした。スマホの画面には目的地周辺の地図が表示されている。前を行くその家族との距離が少し開き、オレはなんとなくその家族を見送って、そして、右手にあるお寺の門を見上げた。開かれた門の内側の脇には小さな立て看板がある。【五感で婚活!GOKAKON!】と、そこには書かれており、その下には【男性用入口】とある。スマホのナビ機能を使わずに来たのは、注意事項として男性は決して女性用入口から入ってはならず、女性は男性用入口から入ってはならないと書かれていたからだ。オレはその看板の男性用という文字を何度も確認して、門をくぐる。

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