第3話 土屋美雨の場合3 成長しすぎ!?
サイが家族に加わってから、数日が過ぎた。
今日は梅雨の間の晴れだったので、サイが残念そうにしていた。私が家を出ても、雨が降らない事はたまにある。
学校から帰ってくると、サイに呼ばれた。
「美雨さん、おかえりなさい。こっち、こっちに来てください!」
「ええ、なーに? 水がほしいの?」
私が窓から出た瞬間、ぽつぽつと雨が降り出した。
「うーん、最高♪」
なるほど。サイは私の体質を利用して、雨を降らせたかったわけね。この体質が喜ばれるのはいいんだけど、なんだかちょっと複雑……。
サイは日が沈むと共に寝るので、夜が早い。こちらとしても、夜は窓を閉めたいので都合がよかった。
「うーん……」
仕事から帰ってきた母が、食事をしながら唸った。
「お母さん、どうしたの?」
「いや、サイ君なんだけどさ。あの子、どこかで見た事があるような、ないような……」
「どっちなのよ?」
「知り合いの子……? いや、違うなー。どこで見たんだったかなー?」
母は、サイの正体が気になるようだった。
そう言われると、私もだんだん気になり出した。私とサイは初対面のはず。でも母が知っているかもしれないという事は、私が物心つく前……もしくは母の独身時代。もしかしたら、アルバムに載っているかも!
後日、私と母の昔のアルバムを引っ張り出してきた。しかし、サイらしき人物はどこにも写っていなかった。
「……もしかして、お父さんの知り合いとか?」
私は、父が置いて行った昔のアルバムをめくってみた。今とは違う、色褪せたレトロな感じの写真。
その中に、サイはいた。
「……えっ!? こ、これ、サイ!? なんで、お父さんのアルバムに!? ……というか、これって……高校時代のお父さん!?」
うそでしょ!? なんで、サイがお父さんなの!?
いや、お父さんがサイなの!?
これは、先にお母さんに訊いてみるべき?
それとも、サイに確認してみるべき……?
母が帰ってくるのは夜。サイは夜には寝てしまう。
よし、先にサイに確認してみよう!
私は、アルバムを持って窓を開けた。
「ねえ、サイ──」
サイが生えてるプランター。そこには、サイではなく長身の成人男性が立っていた。
「お、お、お父さんっっ!?!?」
「えっ、お父さん? やだなぁ、僕はサイですよ」
どこからどう見ても父だったが、父の姿をしたサイは、しっかりとプランターに埋まっていた。唯一違うのは、髪の色だろうか。
「いやいやいやいや、何成長しちゃってんの。この間まで私と同い年くらいだったのに、成人しちゃってるよ。しかもお父さんだよ。どうなってんの、もうーー!!」
「もしかして今の僕の姿は、美雨さんのお父さんに似ているんですか?」
「似ているどころか、本人がいるのかと思ったわよ! しかも、これ見て! 以前のサイも、昔のお父さんと似ているのよ! 一体、どういう事なの!?」
慌てるように、先ほど見つけたアルバムを開いて見せる。
「本当だ、そっくりですね。まるで他人とは思えないです」
「だよね!?」
「美雨さんのお父さんって、今どうしてるんですか?」
「……わからないの。8年前に出て行ったきりで。何で出て行ったかもわからなくて」
「お父さんとお母さんは、仲が悪かったんですか?」
「そんな事ないよ。家では仲良かった。でも、そういえばお父さん、あんまりお母さんと外に出たがらなかった。その時は、仕事で疲れてるからかなって思ってたけど……」
私は、そこで言葉を詰まらせる。
「美雨さん。これは、僕の勝手な憶測なんですが……」
「なに……?」
「美雨さんのお父さんは、もしかして人型植物だったのではないですか?」
「え……ええええええぇぇっ!?!?」
ちょっと待ってよ! なんか話が飛躍しすぎてない!?
お父さんは、ちゃんと人間だったよ!? 足もあったし!
憶測がぶっ飛びすぎてるよ!!
「僕に似ていて、お母さんと外に出たがらない……。状況証拠でしかありませんが、そう思ったんです。それに、時々あるみたいなんです。人型植物が人間に憧れて、実際人間になってしまう事が」
「ええっ!? じゃあ、サイも人間になろうと思えばなれるの?」
「僕は無理です。人間になるには、同じ姿の人間の遺伝子をもらわなければいけないんです。ただ、その多くは”失敗作“として回収されてしまいます。僕は回収されるのは嫌なので、このままでいいです」
サイは、空気を重くしないよう配慮してくれてるのか、苦い笑みを浮かべた。
う、うーん……。
なんか、よくわからないけど複雑……。
お父さんが人型植物……?
これって、お母さんも知ってるの……?
ええい、仕方がない。
お母さんが帰ってきたら、思い切って訊こう!
と思った矢先、母が帰ってきた。
「ただいまー。あれ、美雨ー? 部屋にいるのー?」
「お、お母さん、おかえり。今日は早かったんだね」
「あら、サイ君のところにいたの? いつもサイ君が寝てる時間にしか帰って来れないから、私も顔が見たいわ。サイくーん♪」
母は、すぐにサイのところへ向かってしまった。
「わ、わー! 待って、お母さ……!」
「ただい……ま……」
一瞬だけ、母が固まった。そりゃあそうだよね、私でも驚いたもの……。
「おかえりなさい、お母さん」
サイは、いつものようににこやかに出迎えたが、
「た、た、
「お母さん、僕は……」
「この……8年もどこへ行ってたんじゃあーーーー!! 歯ぁ食いしばれーーーー!!」
母は、サイに殴りかかろうとした。
「お、お母さん、落ち着いてー!」
「お母さん、僕はサイです!!」
「よくも……よくも私たちを捨ててくれたわね! ずっと、ずっと待ってたのよ……。なのに今更、何しに戻ってきたのよぉぉ!」
振り上げた手は力無く下ろされ、サイの服を掴み揺さぶった。
「お母さん……」
泣きじゃくる母を、大きくなったサイは包み込むようにして、ポンポンと頭を撫でた。まるで、本当に父が母を慰めているかのようだった。
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