第57話 散歩
「そういえば、ミアはもう海には行ったのですか?」
「いえ。私は……色々おいしいものを食べて回っていました」
「ああ、そうでしたか」
二人はそう話しながらビーチに向かった。
目の前に広がるのは、どこまでも続いているように見える青い海。光を反射させて、波がキラキラと輝いている。
そしてビーチではまだ生徒たちが遊んでいて、にぎわっていた。
「潮風が気持ちいいですね」
「そうですね」
お互いに何を話したらいいのかわからない。
まずフェリシアは海に興味がないし、少なくとも素直に海をきれいだと思えない。さらにこれはお互いに当てはまることだが、シンプルにお互いのことがわからない。フェリシアからすればミアのことにもあまり興味がないので、ミアから話を振られるのを待つだけになる。
話す話題は、ミアが気になったフェリシアのことだけになる。
「あの、普段は何をされているのですか?」
「普段、ですか?」
「はい。差し支えなければでいいのですが……」
普段は特に何もしていない。最近は引きこもっていたし、その前だって普段は狩りに出ていたわけで、それを言うわけにはいかない。
「それほど大したことはしていないのですが……最近では様々な国を回っていました」
「そうなんですね」
「ええ」
「外交関係ですか?」
「いえ、そういうわけではなく……聖王様の手伝いで」
「せ、聖王様!?」
ミアはとても驚いていた。当たり前だ。聖王は遠い存在で、いるかどうかもわからないくらい。そんな聖王を手伝うなんて、驚いて当然。むしろ、信じている方が不思議なまである。ただ、様々な要因からフェリシアが嘘をつく必要がないと判断して信じているのだろうが。
「そう。ちょっと色々あって……」
「やっぱりすごいですね、フェリシア様は」
「まあ……王女ですから」
どうしていいかわからず、フェリシアはただそれを認めてしまった。
「フェリシア様なら、王になっても心配いらないですね」
「え?」
ここでも王の話かとフェリシアは思ったが、続きがありそうだったのでしばらく黙って聞くことにした。
「色々言われているじゃないですか。誰が次の王になるのかって」
「そうね。まだ父上は元気なのに」
「そうですね」
後継ぎ問題は大事だが、まだ若くて元気なうちから次の話をされる王の気持ちもフェリシアは少し気になった。
「私の父上は、なんというか、フェリシア様が王に相応しくないと言い張っていて……でも、そんなわけがないってわかりました」
「あ……ありがとう」
「本当に、会うと印象が違いますね」
「よく言われます」
言われるというのは嘘だが、そういう風に作ってはいる。
「もっと、自由奔放で陛下が手に負えないような方だと思っていました」
「そうですか」
手に負えないほどではないというか、その辺はフェリシア自身がセーブしている部分があるのでそこまでではないが、全く違うわけでもない。
「王女として、できることはやっていきます。どうか、よろしくお願いします」
「え、あ……はい!」
フェリシアは話に無理矢理区切りをつけた。正直、話せば話すほど印象が崩れそうなのと、批判的なことしか飛び出してこないと思ったから。あと、ウィリアムが用有り気にフェリシアの方に向かってきていたからだ。
「フェリシア、来てたんだな」
フェリシアが視線を送ると、ウィリアムはフェリシアにそう声をかけた。
「あ……うん。補習もあったから」
「いや、そういう意味じゃなくて」
「ん?」
「海とか来るんだなって」
「ああ、そういうこと」
フェリシアといえば、部屋に引きこもるか、こっそり抜け出して狩りに出かけるかしかしていなかった。一緒に国を回った時も、観光なんて全くだった。そんな印象があるので、ウィリアムはフェリシアがここに来るなんて思っていなかっただろう。
「まあ……誘われたから。断る理由もなかったし」
「そっか」
ウィリアムはなんとなくフェリシアの心中を察した。
「それで、他に何か?」
「え?」
「それだけじゃないよね? ウィル」
ミアが空気を察してどこかへ行ったのをいいことに、フェリシアはウィルと普段と同じ感じで話を続ける。
「そうだな……明日、ちょっと時間ある?」
「うん。補習終われば時間あるんじゃない?」
「じゃあ、その時ちょっと話したい。浜辺で穴場見つけたから、そこで」
「わかった」
フェリシアはあえて何をとは聞かなかった。なんとなく、話そうとしていることは察することができるからだ。
「それじゃあ、また明日」
「うん」
二人は手短に話を済ませて別れた。
フェリシアはどこかに行ったミアを探して、海辺をさらに進んでいく。
そして少し進んだところで、海を眺めるミアを見つけた。
「ミア、ここにいたんですね」
「フェリシア様。もうお話は済んだのですか?」
「ええ。気を使わせてしまってごめんなさい」
「いえ。大丈夫です。私とはそれほど重要な会話をしているわけではありませんでしたので」
「そ、そうですか」
それもそれで、やっぱり少し申し訳なく思えてくる。
「あの、少し聞いてもいいですか?」
「何ですか?」
「その……ウィリアム様とはどのような関係なのですか?」
「あ……えっと……」
さすがに学年一の人気者のウィリアムのことなのでみんな気になるところだろう。
隠す理由もないが、フェリシアは一瞬言ってもいいものなのかと悩んだ。
「やはり、
「あまり、公表はしていませんが……一応、そのような関係です」
「そうなんですね。だからあんなに距離が近くて……」
「でも、そもそも、幼馴染ですから。家族ぐるみの付き合いですし」
「確かに、公爵家ですものね。すみません。深入りしてしまって」
「いえ。大丈夫です。いずれ公表されることですし」
これでもう引き下がれなくなった。そう思うと同時に、明日婚約破棄でもされたらどうしようとフェリシアの頭によぎる。
だがすぐにそんなことはないと理解する。だって、国王とその右腕の取り決めた話。そう簡単に変わるはずはないし、変わったとしてもいきなりウィリアムから言われるわけがない。
「……大丈夫」
「そうですか。なら、いいんですけど」
それからフェリシアとミアはしばらく海辺を散歩した。
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