第53話 何がしたいの
「そういえば、アーサー魔力増えた?」
「そうですか……?」
「うん。やっと使えるくらいの量になってきたみたい。自覚ないの?」
「えっと……」
「絶対自覚ある量だと思うけど……」
「一応、気付いてはいます。ですが……母上が、それではまだ無いのと同じ、と」
「は……?」
アーサーは魔力が無いから国王にはなれないと言われ、劣った者として扱われ、王族なのに散々嫌味を言われてきた。その状況をどうにかしようと、認められるほど増える可能性は薄いが一定以上の魔力を得ようと無理矢理薬を使った。体への負担はかなりあるだろうし、その割にはちっとも魔力量は増えない。なのにやると決めたのは母・アッシュだったはずだ。
やっと普通に魔法を使っても問題ないくらいの魔力になって、当初の目的である多くはないが無いわけではないレベルにまで達したというのに……これ以上続けて何の意味がある?
フェリシアは脳内でそう考え、怒りが沸き上がってきていた。
「意味わかんない。何がしたいの」
「えっ?」
目的は達成された。これ以上魔力を持ったところで、そもそも使う場面がないので必要ない。
確かに多い方が評価されるが……
フェリシアは、そこで一つ可能性を考えた。目指すラインは一般に多いと言われるレベル。もちろん不可能だ。薬でやろうと思ったら、いつかのフェリシアのように大量に摂取して毎回中毒症状のようなものを起こし続けることになるだろう。
そしてその目的は、アーサーがフェリシアを超えて王位継承順位一位になること。なぜそれをしたいのかわからないが、今まで女王が誕生した例が少ないことなどからアーサーを国王にしたいのだとフェリシアは結論付けた。
「アーサー、気を付けてね」
「えっと……」
「あの人の許すレベルまで上げようと思ったら、その前に中毒になる。少なくとも体を壊す。魔力なんて、あっても危ないだけだよ……あたしが言っても説得力ないか」
「いや、むしろ姉上だからこそ説得力があります」
「そう?」
「はい。まあ、あっても日常生活じゃ役に立ちませんし、戦争が起きるわけでもないですし、必要性はあまりないと私も思っていました。今でもかなり体調は厳しくて……気を付けます」
アーサーはフェリシアの忠告を受け入れた。
「あっ、それでは、私はこれで」
そう言ってアーサーも、自分の部屋に戻っていった。おそらく、リードがフェリシアのところに戻ってきたからだろう。
「リード、おまたせ」
「いえ。邪魔してしまっていたらすみません」
「ううん。ちょうど話が終わったところだから」
「そうですか」
戻ってきたリードは、大きくて長い袋のようなものを持っていた。
「これ、いつもの服です」
「探してくれたの? ありがとう」
「いえ。てっきり戻っているものだと思っていたので、すみません」
フェリシアはリードが持っていた袋を受け取り、部屋の中に戻る。
「リード、ちょっといい?」
そして色々と聞きたいことがあったので、フェリシアはリードと部屋で二人きりの状況を作って聞こうと思った。
「これ、どこにあったの?」
「倉庫です。特殊素材でできているので、洗濯するにも外部に頼むことになって、一回外に出したんですが……その後どうなったか私に何も知らされなくて」
「でも、ここには帰ってきてたんでしょ? 何で誰も持ってきてくれてないかな……」
「それが……あまり近寄るなと指示が出ていて……ドラゴンソウルは危険だから、と」
「はぁ……」
やっぱりそれが起きていたか、とフェリシアは呆れた。
最初の一つだけでも色々言われたというのに、このドラゴンソウルでリーチがかかった。もう聖王たちも黙っちゃいない。ただでさえドラゴンは危険なイメージがある。
きっとイーノスならそんなことを言うだろうと、フェリシアはわかっていた。
「すみません。さすがに私も、独断で動くわけにはいかないので」
「大丈夫。予想してたからね」
「そうですよね」
リードもフェリシアならわかっているだろうと思っていたようだ。
「そういえば、あたしってどれくらい寝てたの? 短くないってことはわかってるけど」
「そうですね……三十日くらいでしょうか」
「あぁ……そんなに……」
「でも、アリアノール様が来て説明をしていただいて、そのおかげで混乱や状況の動きはありませんでした」
「そっか……それはお礼言わないとな……」
元々報告のためにライアン王国にいたが、おそらくもうその必要はないだろう。だが、お礼を言うためだけでも会いに行こうとフェリシアは思った。
「その前に、王のところか」
「そうですね。できるだけ早い方がいいと思います」
「じゃあ行こっか。あ、その前に着替える」
「わかりました。外で待っていますね」
「うん」
リードが部屋から出ていくと、部屋は静まり返る。なんだか寂しくて、切ない。
さらに、フェリシアは今まで気にしていなかったドラゴンソウルの強さを感じて、少し怖くなってもいた。
「早く着替えよ」
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