第51話 聖王アルフォンソ
「フェリシア様、大丈夫ですか?」
「……リード、ナイスキャッチ」
「よかった……」
フェリシアを抱きかかえたのはリードだった。
リードはこのことがライアン王国中に広まるよりも前にフェリシアが感じた危機感のようなものに勘付いてすぐに城を飛び出し、夜だったこともあって猛スピードでライアン王国に飛んできたのだった。
「何があったんですか」
「わかんない……けど、もう大丈夫だから」
フェリシアとしては、リードにリードのせいだとはとても言えなかった。死にかけていてもそれくらいの理性はある。
「とにかく、生きててよかったです」
「死にかけてるけどね」
「そ、そうですね……」
「まあでも、ドラゴンのソウルは手に入れた。魔力量は増えるし、回復量も増える。魔法を使ってもその瞬間に魔力が回復するから魔力切れなんてそう簡単には起こさない。これでもう、魔力増強剤はいらなくなる……あたしにとって、そこまで酷いことじゃなかったかな」
いずれドラゴンを倒すときは来ていたと思うし、これから必要になっていたことだろうから、いい機会だったと思っている。まあ、それが厄介なところからの刺客となれば話は別なのだが。
「でも、まだ魔力回復しきってないし、ソウルにも慣れてない。正直怠い」
「そうですよね。あとは私に任せてください」
「よろしく」
フェリシアがそう言ってリードがゆっくりと地上に降り立つと、ほぼ同時に別の人物が二人の近くに急に現れた。
「大丈夫か?」
「アリアノール様……」
「リード、状態は?」
「魔力切れです。ドラゴンのソウルでどうにか持ちこたえてはいますが……」
「そうか。何があったんだ?」
「私も今来たので詳しいことはわかりません」
アリアノールが来たことはわかっているが、フェリシアはもう疲れが酷すぎて喋ることも困難になっていた。
「なんとなく状況はわかるが……何でこんなことに」
アリアノールは自分の領地内で起こったことなので多少感じ取れるものがある。だからドラゴンが来たことも、フェリシアが倒したことも、周辺の状況などとも照らし合わせて確証を得てわかっていた。
「ん……?」
さらに周囲の状況を確認していたアリアノールは、その近くに転移してきた人物の気配にいち早く気付き、魔法で強制的に引きずり出した。
「うっ……な、何だよ……」
「お前こそ何だ。こっちの人間じゃないだろ? そもそも、人間じゃないか」
捕らえられた人物は、アリアノールの顔を見るや否や、一気に血の気が引いていった。
「どうした? 早く理由を聞かせてくれよ」
アリアノールにビビっていることは分かりきったことなのだが、アリアノールは舐め腐った様子でそう聞く。
「俺は……そいつに用があるんだ」
そう言って視線を向けたのは、フェリシアだった。
リードは視線に気付いて咄嗟にフェリシアを庇うように前に出る。
「リード、大丈夫だから」
フェリシアはそう言ってリードを退けて、おぼつかない足取りで捕らえられた人物の前に立った。
「お前が執着するなら、俺もお前に執着する。そいつのように、な」
「……やってみればいいじゃん」
「っ……覚えてろよ」
「執着するって言ってんじゃん」
「これは俺たちとクラッチフィールドの戦いになるぞ? いいのか?」
「国は関係ないでしょ」
やっぱり、こいつはフェリシアのことを知っている。他に恨みを買う線も見当たらないし、リードが関係していると考えるのが普通だろう。
「これはあたしとお前たちの戦い。国は関係ない」
個人的に懲らしめてやろうと思う程度だ。ただ、国を相手にした戦いとわざわざ言うということは、相手も国かその類の組織。相手にするには少し苦労しそうだ。
「待て待て。別の聖王が治める地域との戦いは俺が許さないぞ、フェリシア」
アリアノールはそう言ってフェリシアを止める。アリアノールはその相手がどこの人物なのかわからないが、揉め事はとりあえず避けたいと考えていた。
そしてフェリシアは、アリアノールに言われてしまえば諦めざるを得ないと思っていた。
「アリアノール!!」
そんな中、そんな大きな声が聞こえ、またその場に来客があった。
魔力量はかなり多い。アリアノールと同等程度。おそらく聖王か、その候補者。アリアノールを呼び捨てにしているので前者だと思うが。
「アルフォンソ……!?」
「ああそうとも。久しいな、アリアノール」
聖王アルフォンソ。名前はうっすらと聞いた覚えがある程度だったが、状況からしてもそうだとわかった。
確か吸血鬼だった。見た感じの種族も吸血鬼。
アルフォンソの領土に住むのは主に人型の魔物たち。吸血鬼を始めとした鬼類、サキュバス類、グール等々……
「何の用だ? もしかして、こいつはお前のとこの?」
「ああ。うちのがすまないね」
「どうせお前が指示したんだろ」
「そう決めつけるな」
聖王ほどの人物が発言するのにはそれなりの根拠がある。間違っていた場合、戦争が起きてしまうこともあるからだ。
今回も、アリアノールなりの根拠がある。まずドラゴンはそう簡単に用意できるものではないし、発見できても一般人に操れるわけがない。殺されておしまいだ。
でもそれに聖王が絡んでいるとなれば、全て実現可能になる。
「これはお前たちが始めたものだろ? お前の仲間のある青年がうちの幹部を殺した」
「お前らがこっちで悪さしてるからだろ」
今に始まった話じゃない。昔からアリアノールとアルフォンソは仲が悪いようだった。
「アリアノール、この際だから言うが、私たちは自分達の正義を貫く。仲間が殺されたことは許さない。覚悟しておけよ」
「ここでやり合うんじゃないのか?」
「お前らに有利すぎるからな」
攻撃を仕掛けるからにはそういうリスクもあると思うのだが……正直よくわからない。
「じゃあこいつは返してもらう」
そう言ってアルフォンソはアリアノールから仲間を奪い返して去って行った。
「なんかマズいことに……」
そう呟きながら、フェリシアはその場に倒れ込んだ。
「フェリシア様!!」
リードが駆け寄るが、フェリシアの応答はない。
「ね、寝てる……?」
どうやら、魔力切れを治すために眠ってしまったようだった。
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