第50話 諦め
光線をもろに浴びた影響は、体の表面よりも内部の方が酷かった。
本来なら服が焼け焦げてもおかしくなかったのだが、魔法の膜のおかげで来ている服は焦げ目がついた程度で、フェリシアはドラゴンの光線に備わっていた効果によって内部攻撃をかなり受けた。
元々の魔力量が多かったために魔力への耐性があって死ななかったが、本来なら死んでいるような攻撃だ。つまり、フェリシアは生きているので死ぬような痛みを感じたということになる。
フェリシアは感じたことがないような痛みによって意識を失いかけていた。それに伴って魔法の制御も不安定になり、飛行魔法が上手く働かず、フェリシアは落下していく。
そこに向かってドラゴンはさらにもう一発光線を放って、フェリシアを仕留めようとする。だが先ほど放ったばかりなので、その反動ですぐには撃てないようだった。
フェリシアも薄れる意識の中でそれを察し、どうにか意識を取り戻そうと思う。思っているが、思うように体が動かない。
もう……ダメなのかな……
そう思いかけたその時、フェリシアの中で温かい何かが目覚めた。
――フェリシア、諦めるな。俺たちがいることを忘れるな!
「っ……!!」
ナーちゃん……!?
――こっちもいるぞ。
アルマ……!?
フェリシアは二匹のソウルが進化して発動したことによって意識をはっきりと取り戻した。
――助けてやるから、負けるなよ。
「……やってやんよ」
そう呟いたフェリシアは先ほどまでとは違ったオーラに包まれていた。
「何なんだ、お前!!」
急に聞こえた声は、どうやらドラゴンのもののようだ。急に聞こえるようになったのはソウルのおかげか、今初めて脳内に語りかけて来ているのか……
「まだ終わってねぇからな」
「お前、それでも王女かよ」
「やっぱ狙ってたんだね、あたしのこと」
口が悪くなったのはソウルなのかそれが本性なのかわからないが、フェリシアが王女だと知っているということは、ドラゴンがフェリシアを狙ってライアン王国にまで来たのは事実のようだ。
「バレたなら仕方ねぇ。ここで殺す」
「殺すのはあたし」
そんな会話をしているうちにドラゴンの魔法は使えるようになり、やっと体勢を安定させられたフェリシア目掛けて再度光線を放った。
今度はやられないという強い意志を持ったフェリシアは、シールドで光線を受け止めようとする。
さっきまでなら無理だと思っていたが、なぜか防ぎ切れるという自信があった。
そしてその自信は現実になり、フェリシアは光線を受け止めると粉々に打ち破った。
「っ……!?」
光線が空中に散って粉々になって光が舞う中フェリシアはドラゴンに向かって行って、ドラゴンの直接攻撃を宙返りでかわしながらドラゴンの背に飛び乗った。
ドラゴンはフェリシアを振り落とそうと暴れ回るが、フェリシアはドラゴンを離さない。
「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねぇぇぇ!!!!」
どこかからドラゴンとは別の声が聞こえてきた。でもその声が発せられているのはドラゴン。
よく見てみると、フェリシアが掴んでいる部分の色や模様が変わっているように見えた。
「操られてる……?」
フェリシアは直感的にそう思った。
もうドラゴンの声は聞こえなくなり、暴走しているようだった。明らかに息遣いが荒くなり、フェリシアを殺そうとする。
最初からそうだったじゃないかと言われるかもしれないが、それだったら何でさっきはまともに話ができたんだ、ということになる。その時と比べたら今は全く別人のようだ。
「おい、このドラゴンを操ってるお前! あたしはお前の目的は知らないけど、攻撃してきたからには容赦しないし執着し続ける。覚えてろよ……!」
フェリシアは聞いているであろう人物にそう呼びかけた。予想ではリードの関係だと思っているが、確定ではないのでその辺は気付いていないふりをしておく。
「もう終わりだ」
そう呟いてフェリシアは背中側から超至近距離で光線を放った。
光線はドラゴンの胴体を貫いてとどめを刺そうとする。
操られている状態では、情報は向こうに筒抜けだ。その状況はどちらかが死なない限り変わらない。だからフェリシアはドラゴンを殺すしかなく、わざわざ威力が出る超至近距離で心臓を目掛けて光線を放った。
だがさすがドラゴンといったところか、体だけではなく、潰されたら死んでしまう心臓まで物理的に硬かった。
突き抜けた光線だけでは心臓を包むのみで、破壊できない。
「っ……!」
フェリシアは今しかないと限界に近い中で、光線で包んだ心臓に残った魔力をつぎ込んで心臓を握りつぶそうとした。
「うーっ!!」
硬い心臓を粉々に潰し、ドラゴンの命は消えた。
一方フェリシアは、魔力切れを起こして結界が破れ、本当に意識を失いかけていた。死ぬということを今まで生きてきた中で一番近くに感じた。
だがドラゴンはまだフェリシアを休ませる気はないようで、心臓が無くなって動けないはずなのに、操る人物の最後の意地かでドラゴンはどんどん高く飛び上がり、結界があった場所の外まで来ていた。
その途中でフェリシアは力尽きたように手を放してしまい、地面に向かって落下する。
どんどんドラゴンが遠ざかっていく中、フェリシアは本当に最後の力を振り絞って魔法を展開した。
成功すればドラゴンのソウルを手に入れられて生き延びる。失敗すれば魔力が切れて死ぬか、ソウルが暴走してバーサーカーになるか。一か八かの賭けだった。
フェリシアの発動させた魔法は、先ほどまでの結界の直径と同じ大きさの白い輪がドラゴンの周りに出現した。それからすぐに白い輪から無数の大きな棘がドラゴンを串刺しにし、ドラゴンの暴走を止めた。
ドラゴンはついに動かなくなり、少しすると消えた。
それを見届けたフェリシアは、静かに目を閉じた。
「フェリシア様!」
そんな声と共に、誰かがフェリシアの元に向かってくるのが気配で感じられた。フェリシアを殺してやろうだなんていう雰囲気はない。
その直後、フェリシアは誰かに抱きかかえられた。温かく優しい腕に包まれて、フェリシアは安心した。
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