第49話 ドラゴン
「あれが……ドラゴン……」
フェリシアは港町上空で、向かってくるドラゴンを見てそう呟いた。
「大きいね、やっぱり。でも、面白そう」
すると、街の方に膜が張られていく様子が上空からよく見えた。
「これでよし……と」
本当に攻撃すればあんな膜では防ぎ切れないだろうけど、守っているという民へのアピールとドラゴンへの威圧をかけるという意味もある。まあ、街を守りたいのならやらないわけにはいかないが、攻撃されればおそらくあの膜を張っている人たちは死ぬだろう。
だからフェリシアはわざわざ広原で戦おうと考えていた。
「どうやって誘き寄せようか……」
ドラゴンの標的になる必要があるが、下手に刺激すると暴れ出して街に被害が出るかもしれない。
そう考えていると、フェリシアの姿を視界に収めたドラゴンは、フェリシアに向けて青い炎を吐いた。
「うわっ……」
フェリシアは咄嗟に浮上して避けたが、急に攻撃を仕掛けてくるとは思っていなかった。
しかもその威力はかなりのもので、当たっていたらどうなっていたことか……
「そういう感じね……なら……」
フェリシアはそう呟くと、ドラゴンに背を向けて広原の方に向かって飛んでいった。
ドラゴンはすかさず炎を吐きながらフェリシアを追う。
その途中で多くの街があったが、ドラゴンは一切目もくれずにフェリシアを追いかけていた。
「やっぱりか……」
ドラゴンの狙いはおそらくフェリシアだ。ドラゴンが飛んできた方向や現在フェリシアを取り巻く状況から見ると、相手はリードが恨みを買っている奴らだろうか。そう思うと心なしか、ドラゴンの模様がこの前の鷹たちに似ている気もする。
仮にそうなら、わざわざドラゴンが海を越えてやって来たことも説明がつく。
模様に関しては地域的にそういう柄になるということがあっても、種族も生息地も違うのに同じ模様になることに納得できない部分があるが。
「来い、ドラゴン」
広原上空で止まると、振り返ってフェリシアはそう呟いて隠していた分まで魔力を解放して強烈な気配を放った。
そのフェリシアの魔力に反応して、ようやく勝負が始まったかとドラゴンはフェリシアに向かって勢いよく炎を吐いた。
フェリシアはそれを横に動いてかわすが、ドラゴンはフェリシアを追いかけるように炎を吐き続ける。
炎はいつの間にかフェリシアが作っていた結界の壁にぶつかって消滅していく。それによってフェリシアは結界の強度を確認していた。
そしてドラゴンの周りを一周したところでフェリシアは避け続けるのを止め、右手を前に出した。
すぐに右手からは水が真っ直ぐ吹き出し、炎と正面から激突した。
自然界の理論で言えば、同規模の炎と水なら水が勝つ。それはこの結界内でも例外ではなく、フェリシアが放った水が押し切って勝利し、そのままドラゴンの方に向かっていった。
だがドラゴンも簡単に攻撃を浴びるわけもなく、浮上してかわすと一気にフェリシアとの間合いを詰めた。
「っ……!」
ドラゴンはフェリシアの上を取ると、一気に降下して、太くて鋭い爪を立ててフェリシアに襲いかかった。
なんとか魔法膜を張って防ぐが、ドラゴンはフェリシアをそのまま突き落とした。
地面までは行かずになんとか空中で体勢を整えたフェリシアだったが、空中戦において上を取られるということはとても不利だ。
視野の広さにも影響はあるし、それぞれ向かっていく時の消費魔力量、落下にかかる力によって強化される攻撃……とにかく不利なことばかりだ。ましてや、体格がこれほど違うのだから。
そして様々な面で有利を握ったドラゴンは、何かの魔法を発動させるように雄叫びを上げた。
そのすぐ後、広範囲でいくつもの雷撃を振り落とした。
たとえ不利な状況でも、フェリシアが電撃を避けられないわけではない。
フェリシアはその電撃の間を縫って円状に飛び回り、いつの間にか高度がドラゴンと同じところまで上昇してきていた。
これでイーブンにはなったが、有利になったわけではない。
ドラゴンはすかさず今度は口のあたりから光線を放ち、フェリシアを狙った。
かなり太い光線だったため、フェリシアはかなりの力を一気にかけて上昇し、光線をかわした。
「よしっ……」
光線をすぐに止められないドラゴンを狙って、フェリシアは直接魔力をかけて腕をもぎり取った。
痛みからか、ドラゴンは耳鳴りのようにも聞こえる甲高いうめき声を上げる。フェリシアは思わず耳を塞ぎそうになるが、そんなことしてもほとんど変わらないだろうと諦めて、一気にドラゴンに近付いていった。
そして無防備なドラゴンに蹴りを食らわせた上にそこで魔力による爆発を起こし、蹴りの威力と爆風によって今度はドラゴンが落下していく。
さらにフェリシアも太い光線を発射し、ギリギリ体勢を立て直していたドラゴンを消し去るように包んだ。
「やったか……? いや、まだか……」
魔力の反応が消えないこと、手ごたえがまだ薄いことから、フェリシアはドラゴンが仕掛けてくる次の攻撃への準備を整える。
落下したことによる煙で姿は見えないが、今度はドラゴンの力強い雄叫びが聞こえた。
痛みは堪えられたのか、腕が魔法によって復活したのかわからないが、もうあの影響はないようだった。なんというか、消費魔力と与えた影響が見合っていないようにフェリシアは思えた。
そんなことを考えている間に、ドラゴンの魔法が発動する。
「嘘だろ……!?」
そう呟きながらフェリシアは結界の天井部分に円状に広がった漆黒の渦を見上げた。
そしてその渦から大量の岩が炎を纏って落下し、フェリシアを襲った。
避ける隙間もなく降り注ぐ岩の間をなんとか身を捻ってかわすが、次第に範囲攻撃だったものが全てフェリシアに向かってくるようになり、とても避けられるようなものではなくなってきた。
魔法で防ぐ体勢を作っても防げる気が全くしないような威力を感じる。何もできることはないと思ってしまうような、どうしようもない絶望にも近いものをフェリシアは感じていた。
なんとか両手でシールドを作って防ごうとするが、防げたのはたった一つだけ。
だがそこで都合よく魔法が切れて、これ以上岩が降ってくることはなかった。
それでも安心することはできず、息が切れたところにドラゴンが再度光線を放ち、フェリシアは全く防御体勢を取ることができずに光線をもろに食らった。
「うがっ……」
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