第46話 ライアン王国
ライアン王国の城はクラッチフィールド王国の城に比べれば小さいが、それでもかなり大きい方の城だと思う。
ライアン王国自体、今のアリアノール領でも昔からある国なので、それ相応の力がある国だ。
「じゃあ、行こう。ここからは私が案内するから」
ノアがそう言い、フェリシアとアメリを先導しながら城に入って中を進み、王の部屋の前までやってきた。
いきなりというのはいくらなんでも急すぎるとも思ったが、ノアが帰ってきたということはいつの間にか城中に伝わっていて、それを聞いた王もそれなりに準備はしているだろうと予想して、フェリシアはその考えを無くした。
久しぶりに帰ってきたのもあるのか、ノアは周りの召使いたちにとても歓迎されていた。フェリシアは素直にノアは愛されているなと感じた。クラッチフィールド王国とも比べて、王位継承者のいざこざもなく、それを本人がどう思っているかは知らないが、少なくとも周りからの複雑な視線はないだろう。
フェリシアは少し羨ましく思った。
「ここがお父様の執務室」
ノアがそう言ってから扉をノックし、そのまま扉を開けて中に入った。
「お父様、ただいま戻りました」
「ノア、無事に帰ってきてよかった……」
王は元気なノアを見て安心したようだった。
「そちらがクラッチフィールド王国のフェリシア王女か?」
「初めまして。フェリシア・クラッチフィールドと申します」
「ああ。ライアン王国の王、リンウッド・ライアンだ。よろしく」
「よろしくお願いいたします」
フェリシアはリンウッドと握手を交わした。
「すまないね、娘が無理なお願いを。そしてこうして無事に連れ帰ってくれて、本当に感謝している」
「いえ」
「しかも魔法を教えてもらったとか」
「その点につきましては、私は何もしていません。具体的に教えたのはこのアメリでして……」
フェリシアはアメリにもこの場にいる意味を作った。
「えっと……?」
「あ、あの、アメリです」
「私の旅の仲間でして。私より教えるのが上手い上に、私は少し忙しくしておりましたので」
「なるほど。アメリ、あなたにも感謝するよ。面倒を見てくれてありがとう」
「い、いえ! ノア様は魔法のセンスが良くて、私の教えたことをすぐに習得できてしまって、私はそれほどのことはしておりません……!」
フェリシアはアメリも敬語が使えるのかと少し驚いた。この状況を考えればさすがにタメ口で話し始めるわけにもいかないだろうし、当然と言えば当然のことなのだが。
「そう謙遜しないでくれ。本来なら私がするべきことなのを……」
「お父様が教えてくれないから旅に出たわけではないです」
「そう……か。まあとにかく、二人には大変感謝している」
王にそう言われ、二人はお辞儀をして返した。
「それで、お父様」
「どうした?」
「二人、しばらくこの国にいることになったから」
「そうなのか」
「うん。ちょっと用事があって、それまで」
「わかった。城の開いている部屋でよければ使ってくれ」
「いいの?」
「ああ。すぐに用意できるのはそれくらいだからな」
「ありがとう、お父様」
お礼と言わんばかりに、王はフェリシアたちが滞在できるような部屋を用意した。
「ありがとうございます」
「いいんだ。もしよければ、滞在中もノアに魔法を教えてやってほしい」
「そのつもりです。……まあ、私に教えられることがどれだけあるかわかりませんが」
「それでもいい。君ほどの実力者と共にいることもいい経験になる」
「そうですか」
もうアリアノール領の国々にはフェリシアの実力は知れ渡っているようだが、フェリシアはみんな怖がったり王女のくせに野蛮だとかなんとか思われているものだと思っていた。まさかそんないい経験だなんて言われるとは思わなかった。
そして挨拶を終えたフェリシアとアメリはノアに案内され、用意された部屋に向かった。
その部屋は城の奥の方にある部屋で、本当に今は使われていない部屋のようだった。
ノアによれば、その部屋は王族が多かった時代……つまり、子供が多くて親族が多かった時代に使われていた部屋だという。今は親族が多いと権力争いだ何だと揉めてしまうことを避けるために子供は必要最低限しか作らず、それによって親族が少なくなったため、この部屋も使わなくなったのだとか。
使わなくなったとは言え、元は誰か王族が住んでいた部屋。さすがに部屋は広くて装飾も施されていた。さらに、使っていない部屋にしては埃一つない綺麗な部屋だった。急な話だったし、話が王に伝わったのはほんの今さっきのはずなので、普段からこういう使っていない部屋でもそれなりに掃除がされているということがわかる。
「どう?」
「うん。まあ……それなりに落ち着く」
「よかった」
明かりを消せば、という話だ。だが、普通の客間なんかに案内されるよりはマシだ。
アメリにも部屋を案内するためにノアが部屋を出ていき、一人になったフェリシアはどこか寂しさを感じていた。
「そういえば、リードと別れるのも久しぶりだなぁ……」
フェリシアはそう呟いた。
ナーちゃんが死んだあの日から、フェリシアはほとんどの時間をリードと過ごしてきた。離れていても、絶対に同じ城の中にはいた。フェリシアが国に帰るまでリードと離れるなんて、どれだけの時間になるかもわからないのに……とフェリシアは不安に思った。
「いや、あたしは……」
あたしは強いから、大丈夫。
そう言い聞かせて、フェリシアは軽く部屋を掃除した後ベッドに倒れ込んだ。
「ん……」
目を覚ますと、窓から眩しい光が差し込んでいた。
「朝……? まで寝てたの……?」
フェリシアがベッドに倒れ込んだのは昼だったはずだ。相当疲れていたんだな、とフェリシアは理解した。
確かにあの鷹たちを一気に殺した時は相当な魔力を消費したし、魔力増強剤でその場は乗り切っても、それは一時的なものなので魔力は全然回復し切っていなかった。
そんな中で休みたいと言うための理由が嘘でも思いつかなかったので、ここまで休み無しでやってきた。
体の疲れは魔法でどうにかなっていた部分もあったので、魔力が無くなってから急に感じるようになった。それが頂点まで達してしまったのかとフェリシアは教訓のように今回のことを振り返った。
だが今は全て回復し切ったので、もう大丈夫だ。
フェリシアが伸びをしながらベッドから立ち上がって扉の方に向かうと、扉の下に何か手紙が差し込まれていることに気付く。
それを拾い上げて中身を見ると、それはノアからのものだった。
『もし起きたら、中庭に来てほしい』
手紙にはそう書かれていた。
それがノアからの手紙だということは、紙に染み付いた魔力からも確認できるので、フェリシアは手紙の通りに中庭に向かった。
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