第45話 転移魔法
「ライアン王国まではどう行こうか……」
行くとは決めたものの、フェリシアもアメリもライアン王国には行ったことがない。結局歩かないといけないのかとフェリシアの頭によぎった。
「ノア、転移魔法使えたりは……?」
「あ、そうそう、フェリシア、ノア転移魔法使えるようになったんだよ、あの暴発して変なところに飛んだっていう」
「アメリ……それは言わない約束でしょ?」
「ごめん」
今まで触れないようにしてきたが、フェリシアたちの前にノアが落ちてきた時に暴発した魔法は転移魔法らしく、本当は隣の部屋レベルでの転移をしようとしていたらしいが、何の間違いかあんなところに……
「それはさておき、どれくらい使えるの?」
「どれくらいって?」
「何人くらい移動させられる?」
「試したことない……」
「二人はいける? 試してみて、そこから」
フェリシアがそう言って指差したのは、ほんの数歩先の地点だった。
「ミスったらアメリの転移魔法で戻ってくればいいから」
「わかった。やってみる」
転移魔法自体は練習すれば、最近年齢相応以上に魔力量が増えたノアならできるはずだとフェリシアは考えていた。
ちなみに最近急激に増えた理由はおそらくフェリシアの影響だ。フェリシアが魔法を使うことによって多くの魔力を浴びて、その影響だと考えられる。
「アメリ、練習台頼む」
「うん。ノア、頼むから失敗しないでよね」
「できるだけ頑張る」
自分で振ったからには引き受けないとな……とアメリは責任を負い、ノアとアメリで転移魔法の試験を行うことになった。
二人は一度フェリシアが指差した先まで小走りで向かい、そこでノアは転移魔法を発動させた。すると二人の姿は一瞬消え、すぐにフェリシアの隣に姿を現した。
「おーっ! できたぁーっ!」
ノアは魔法が成功すると、すぐに子供らしくそう喜んだ。
「よかった……変なとこ飛ばされなくて」
「できるようになったって言ったのはアメリでしょ?」
「言ったけど……言ったけど! 不安なものは不安なの!」
「まあ、わからなくないけど……」
「成功したんだからいいじゃん!!」
ノアがアメリとフェリシアに、少し怒った様子でそう言った。
「そうだね。でも、本番はここからだよ」
「……うん」
フェリシアの一言で、ノアは表情が急に真面目になる。
「あたしは飛んでいくから、先行ってて」
「じゃあ、入国審査のところで待ち合わせってこと?」
「そういうこと」
「わかった」
そしてフェリシアはふわっと空中に飛び上がる。
「それじゃあ、一番近い入国審査場で待ってるね」
「うん」
そう言って、ノアとアメリは転移魔法でライアン王国まで転移して行った。少し待っても戻ってくる様子がなかったことから、フェリシアはさらに高く飛び上がってとても目視では追えないような速度でライアン王国まで向かった。
言っていた通り、元々いた地点から一番近い入国審査場の前でノアとアメリが待っていた。
それを見つけると、フェリシアは直前で速度を落として軽やかに着地する。
「えっ、早っ……」
ノアが若干引いた様子でそう呟いた。
「魔力量は平気なわけ?」
「全然大丈夫」
「いやすごいな……やっぱり」
逆にアメリは冷静にそう納得していた。
「ノアがまさかここまで転移魔法を綺麗に使えるようになってるとは思ってなかったけど……これもアメリのおかげかな」
「ほんとに、アメリのおかげだと思う。コツみたいなのが段々掴めてきて……ほんとにありがとう、アメリ」
「それほどでもないよー。アメリはただ知ってることを教えただけだよー」
そうは言うものの、アメリはとても照れていた。
「それじゃあ、入ろっか」
いつまでもここで立ち話をしているわけにもいかないので、フェリシアたちは早速中に入る。
その時そういえばと気付いたのだが、アメリは一応魔物扱いだし、仮に人間と捉えられたとしても身分証的なものは何も持っていなかったということに気付いた。
色々と面倒なことになると予測できたので、フェリシアはどうしようかと少し考え、ノアとアメリだけ先に転移魔法で入国審査場を抜けた先に転移して待っていてもらおうと考えた。
ノアはわざわざ入国審査場を通る必要はないので、そうやって入ることは可能だ。
ノアもそう判断して、フェリシアの策を受け入れた。
そしてフェリシアだけ何事もなく入国審査場を抜け、先で待っていたノアとアメリと無事に合流した。
「いやぁ、危なかったー」
「気付いてよかったよ、本当」
「私も気付かなかったな……ごめんね、アメリ」
「いやいや、全然。自分でも気付かなかったくらいだし」
すっかり忘れていたことだが、国のシステムとして厳重にしなければならないところなので、最悪入れないといったことになったらそれは困るので、本当に気付いてよかったとホッとしていた。
「じゃあ、まずは王に挨拶しに行くか……どれくらいいるかわからないけど、ノアのおかげで滞在することになったわけだし」
旅行ではなく、ノアの招待というようなものに近いので、フェリシアは王に挨拶することが必要だと考えた。
「そうだね。じゃあ……」
ノアがどうしようかと考えていると、入国審査場の方から誰かがノア目がけて歩いてくるのが見えた。
「これはこれは、ノア様ではありませんか」
「えっと……?」
「私、この入国審査場の者です」
「そうでしたか」
わざわざ出てくるということはよっぽど暇人。役職としては上の方の人間なのだろうか。
「それで、何の御用でしょうか?」
「ええと、先ほどクラッチフィールド王国のフェリシア王女がいらっしゃったということで、もしよろしければ目的地までお送りしようかと思いまして」
「あ、そうだったんですか」
フェリシアはありがとうございますととりあえず言っておいた。
「それなら一ついいですか?」
「何でしょうか」
「城まで送っていただけますか? 全員」
「全員、ですか」
「はい」
さすがにこの人物の魔力量じゃ三人同時に転移させることは厳しいだろうが、一人なら可能だろう。一人できれば、そこからは全員でどうにかできる。
「今、三人で城に向かおうとしていたところで……」
「三人……ノア様と、フェリシア様と……そちらの方は?」
「私に魔法を教えてくださっているアメリです」
ノアに紹介され、アメリは少しお辞儀をする。
「審査場でお見かけした覚えはありませんが……」
「えっと、それには深い訳があって……でも、アメリが何もしないっていうのは私が保証するので、ご心配なく」
「ノア様がそう言うのなら、信じますけど……」
案外権力でどうにかなってしまうものらしい。その分責任は伴うが。
「それでは、転移魔法でお送りいたします。ですが、私では皆さまを一度にというのは……」
「それなら、私がどうにかするので大丈夫です。私だけ送っていただければ」
「わ、わかりました」
そしてその人物はフェリシアだけをライアン王国の城へと転移させた。それからすぐにフェリシアは元いた場所にその人物と共に転移魔法で戻った後、お礼を言ってから三人で一気に移動した。
おそらく今頃彼は驚きを隠せていないだろう。
そうとは思いながらも、久しぶりに帰ってきた城を見て、ノアはどこか安心した気持ちになっていた。
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