第44話 嘘の説明
「そういうわけで、まとめると、この鷹の遅れて発動する魔法がかなり大きかったので、鷹を引き離してから魔法の影響を抑えるために色々したって感じですね」
翌日、フェリシアはギルドマスターのクルトにそう説明した。
もちろん全て嘘だが、クルトが相当な魔物の使い手でもない限り見破られることはないだろう。仮に魔物の使い手ならばフェリシアたちに頼む前に自分で解決しようとするだろうし、そんなギルドマスターがいると多少有名になっていてもおかしくない。
「なるほど……急に鷹が転移してきて、フェリシア様がいないと報告を受けて何事かと思いましたが……無事でよかったです」
クルトはそれを普通に受け入れたようだった。
「それにしても、やはり大きいですね」
「そうですね」
二人が話している間、鷹に繋がっている紐はリードに託していて、ギルドマスターの部屋から見えるギルドの中庭で待っていてもらうことにしていた。
距離はそれなりにあるが、その距離からでも見えるほど大きい。クルトはそれを見て改めて大きさを体感していた。
「逃げ出してしまったのはしょうがないことかもしれないですけど、とんだ迷惑って感じですね……」
クルトはそう零した。
せっかく新しい交通網ができたというのに安全が脅かされて開通できず、森を荒らされて、建物も壊されて、たまったもんじゃないという気持ちはわからなくない。だが、フェリシアは一国の後を継ぐ王女として何と応えたらいいのかわからなかった。
「これからどうするおつもりですか?」
フェリシアが困っていることを察したクルトはそう聞いて話を変える。
「ここからは……転移魔法でアリアノール様の城まで飛んで鷹を引き渡すつもりです。できるだけ早い方が私たちも鷹も負担が少ないと思うので、このあとすぐに発とうかと」
「そうですか。わかりました」
二人の話は終盤に向かっていく。
「本当に、ありがとうございました。来ていただけなければどうなっていただろうか……」
「いえ。私にとっても良い経験になりましたので」
この場合、キツネズミのソウルを舐めてはいけないという経験だ。
「それでは、失礼します」
フェリシアはそう言って、ギルドを後にした。
「フェリシア様、体調は?」
「大丈夫。薬も抜けたから平気」
「そうですか。なら、行きましょう」
リードはそう言ってフェリシアに鷹の紐を返すと、魔法の練習をしていた三人を集める。
一応三人には、クルトにしたのと同じ言い訳をしてある。
「ほんとはあたしが教えるはずだったんだけど……ありがとね、アメリ」
「フェリシアほどじゃないけど、アメリだって魔法の才能はあると思うんだよね」
「そうだね。アメリは魔法を論理的に捉えてると思うから、教えるのは上手いよ」
「論理的?」
「うん。その魔法はどうやってできているのか、どれくらいの魔力が必要なのか……とか」
「確かにそれは考えてるけど……当たり前じゃないの?」
「あたしは無意識に感覚で魔法やってるからねー。当たり前ってわけじゃないよ」
少なくとも、飛行魔法ができるかと聞かれて魔力使い果たして死ぬと答えるほど一瞬で頭が回る奴はそう多くないだろう。
「じゃあ、そろそろ行こう」
「うん」
そしてフェリシアが転移魔法を使い、五人はアリアノールの城に一瞬で転移した。
「やっと帰ってこれた」
「長かったねー、色々」
「色々? 実際あんたがやってことって……」
「まあ、何もしてないって言えばそうなんだけど」
アメリに突っ込まれて、ウィリアムはそう言った。したことと言えば宿を確保したくらいなのだが、それ以上にフェリシアの父であるクラッチフィールド王の機嫌を取っておいてくれたことはとても大きい。
「正直私たちにすることなかったし……しょうがないよ」
ノアがそう言い、二人が喧嘩になるのを防いだ。
「お戻りになられましたか、フェリシア様」
城に到着するとすぐにアーノルドがそう言って迎えに来た。
「無事で何よりです」
「ありがとうございます」
アーノルドはフェリシアを労っているようだった。
「今アリアノール様は城を開けているので、代わりに私が預からせていただきます」
「そうですか。では、お願いします」
フェリシアはアーノルドに紐を託し、鷹を預けた。
鷹に紐を繋いだのはフェリシアなので、鷹はフェリシアへの忠誠心が多少ある。そのため、少し寂しそうにはしていたが、フェリシアが首筋を撫でるとそれも和らいだようだった。
「これでお前も帰れるから、な」
フェリシアはそう声をかけたのを最後に、鷹と別れた。
「あの、報告はアリアノール様が戻ってからの方がいいですかね?」
「そうですね。私からではなく、フェリシア様から伝えられた方がよろしいかと」
「わかりました。なら、日を改めてまた来ますね」
「かしこまりました。アリアノール様にもそう伝えておきます」
「よろしくお願いします」
そしてアーノルドと次の約束を交わすと、フェリシアたちはわずかな滞在時間でアリアノール城を後にした。
「これからどうしようかな……」
一同はアリアノール城から少し行ったところにある原っぱで、今後のことについて話し合うことにした。
周囲には透明な結界を張り、その結界には防音効果をつけた。これで何を話していても周りにはバレないはずだ。
「とりあえず、報告するまではすぐに来れるところにいたいんだよね……だから、クラッチフィールドに帰るわけにはいかない。いつ来れなくなるかわからないし」
今回二度目の刺客に襲われ、判断するならこのタイミングだろうとフェリシアは思っていた。
「それなら、うちの国に来る? 頼めば滞在場所も用意できると思うし」
ノアがそう提案する。
確かに残る場所はライアン王国くらいなのだが、そんな簡単に行くだろうかとも思った。
「フェリシア、報告って一人でも大丈夫な感じ?」
「うん。大丈夫だと思う」
「じゃあ俺とリードで帰って、そういう用事が残ってるからって説明しようか。やっぱ親は心配してるだろうから俺は顔見せないとだし、リードも報告しないといけないんでしょ?」
「そうですね」
ウィリアムの提案に、リードも少し乗っていた。
まあでも、実際これが丸く収まりそうな気もしていたので、フェリシアはその計画で行くことにした。
残ったアメリはノアに魔法を教える教師ということで、ライアン王国に向かうことになった。
そしてフェリシア、ノア、アメリはライアン王国へ。リード、ウィリアムはクラッチフィールド王国へ。一同は分かれてそれぞれの国に向かった。
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