第43話 特殊結界
「フェリシア様、何を……?」
「あの鷹たちはリードしか見てない。あたしの横を素通りしていくような奴ら。なんかもう面倒くさくなってさ。一発でやっちゃおうかと思って」
リードは少し小さくなった鷹を見ながら、フェリシアが何をしようと考えているのかを理解してゾッとした。
「まあ見てて」
空中で止まったフェリシアは、鷹を目の前まで引きつけてからリードを後ろに突き飛ばし、平べったい円柱型の結界を作り出した。フェリシアのすぐ後ろが結界の端になっていて、リードは見事に結界の外に追い出されていた。
上下に真っ直ぐ閉鎖することによって動ける範囲を減らし、魔法の当たり漏れを無くすことができる他、死体やその他諸々が地面に落ちることもない。一応円柱になっているのは、元々半球体型の結界の原型の名残だ。
名残があるとはいえ、形はかなり特殊だ。
その結界に閉じ込められた鷹たちはまずリードを追いかけることを止めないが、結界に阻まれて行動を止める。
そしてターゲットは結界内にいたフェリシアに移る。
フェリシアはすぐに結界内を移動して、鷹の攻撃は一切食らわない。
魔力を持っているだけあって飛ぶ速度は通常より速いが、特に魔法を使っている様子はない。あくまでも攻撃方法は普通の鷹と同じ。ただし、大きさは捕まえたものより小さいので、脅威はそれほどない。
「行ける」
結界の反対側の一番端まで飛んだフェリシアは、振り返って一瞬で鷹たちの位置を確認すると、右手を前に突き出した。
すると、その右手に白い光が発生し、光はみるみる大きくなっていく。
そしてフェリシアがニヤッと笑うと、その光は真っ直ぐ伸びてとても長い剣のようになった。
フェリシアは鷹たちを全て切り裂くように手を左から右に横方向に動かして軌道を描く。
その軌道通りに剣は動き、鷹たちを次々に切り裂いていく。
「チッ……まだ足りない」
本来なら剣の切り裂いた空気による圧力でも相当な威力があって、フェリシアはそれで防御膜も突き破って殺せると思ったが、剣先から離れていたものもいて全ては殺せなかった。
「ちょっとイライラしてきた……もういい」
フェリシアはそう呟くと、結界の上底面に黒い膜をさらに張った。
そしてフェリシアか残った鷹たちを睨むと、黒い膜から糸のような細いものが上から下に突き抜け、鷹たちの体をあっという間に貫いた。
鷹はそのまま動かなくなり、消え去った。
「終わったぁ……」
フェリシアはそう呟きながら、結界の底面にへたり込んだ。
魔力増強剤を貪るように食べるが、フェリシアはいつもにも増して疲れ切っていた。
「フェリシア様!」
リードがフェリシアの側にたどり着くとほぼ同時に結界が崩れ落ち、フェリシアは本日二度目の落下をし始める。
だがフェリシアはすぐにリードに抱きかかえられ、落下を免れた。
「ナイスキャッチ、リード」
フェリシアは優しく笑ってそう言った。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ。まあ、飛ぶのは無理だと思うけど……魔法使わなければ。ちょっとやりすぎたかな……」
「ちょっとどころじゃないですよ」
リードはとりあえず地面に降りて、フェリシアを休ませることにした。万が一何かあった時に街の中だと色々と困るので、転移魔法ですぐに移動はしなかった。本当ならもっといい場所で休ませてあげたかったのだが。
「ありがとう、リード」
「いえ。これが仕事ですから……私じゃフェリシア様を守れないので」
守れないというか、守る必要がないだけだ。
リードは一般的にはかなり強い部類に入り、護衛としてはエース級の優秀な人材だ。フェリシアが強すぎるので、逆に守られてしまっているのだが。
「それにしても……見くびってたなー、キツネズミ」
フェリシアは息が上がった様子でそう零す。
「いけると思ってたんだけど……やっぱりキツイ」
「無理しないでください」
「だって、あたしがやらないと……誰ができるの? あの状況で」
あの状況ではリードは鷹たちの標的になっていて、とても何か行動を起こせる状況ではない。フェリシアしか動けないので、フェリシアがやるしかないというのは本当だ。だが、二人でちょうどよく分担できれば、フェリシアが一人で対処しなくてもよかったかもしれないとも思う。
「いいんだよ。あたしが全部やったってことにして。リードがやったってなれば、また恨みを買うことになる」
「いや、それは……私の問題なので」
「父上はさ、あたしを監視する人間を置いておきたいんだよ」
圧倒的な魔力を持つフェリシアと、それを狙う人たちのことを。
「リードといると危ないっていうのは、最初にわかっちゃった。言ったんでしょ? 父上にも」
「隠し事はできないですかね」
自分のせいでフェリシアが危険に巻き込まれていると思っているリードなら、本当のことを王に申告しているだろうとフェリシアは考えていた。
「だからウィルも一緒にって話になった。いつリードと離れ離れになるかわからない。あたしは、リードと一緒にいたい。唯一、あたしを理解してくれる人だから」
「フェリシア様……」
リードだって、フェリシアの護衛役じゃなくなれば職を失ったも同然となってしまう。お互いにとって、今の関係を続けることが重要なことなのは間違いない。
「ここだけの話、あたしなら問題ないってアピールできる機会なんだからさ。任せてよ」
フェリシアはそう言ってウインクした。
「そろそろ魔力戻ってきたかな」
「じゃあ、戻りますか」
「うん」
フェリシアたちは立ち上がり、リードの転移魔法で街に戻ろうとする。
「そういえば、リードはタメ止めたの?」
「二人の時は……私も違和感ばかりなので」
「そっか。リードはどっちでもいいよ。やりやすい方で。リードの方が強いことは目に見えてるし、護衛役だからって舐められることはないでしょ」
「わかりました。では、そのように」
そしてフェリシアたちは転移魔法で街に転移した。
「フェリシアぁぁ……!!」
転移した瞬間に、アメリが泣きながらフェリシアに抱きついてくる。
「どうしたの、アメリ」
「どうしたのじゃないよぉぉ……!」
「ん?」
フェリシアとしては鷹の群れには気付いていないという想定だったが、これはもしかして……
「何かはわからないけど、フェリシアに転移させられる瞬間にでっかい魔力の塊を感じた……何があったの……?」
やはり、そのようだった。
「それって、アメリ以外も知ってる?」
「うん」
「そっか……」
ああ、終わった。
これで説明しないといけなくなるし、リードの秘密を隠すための上手い嘘も考えないといけなくなった。おそらくすぐにクラッチフィールドの王にも伝わり、上手い嘘をついても真実を知っている王はリードが原因だと考えるだろう。
「ダメだった? だって、心配だし……」
「いいよ、別に」
嘘でもそう言っておかないと、やましい事があると思われてしまう。
それからフェリシアは、急いで上手い嘘を考えた。
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