第40話 シャットルワース王国
シャットルワース王国は、まだどの国も領土を奪い合っていた時代にできた国で、独立した国々よりは古い歴史を持つ国だ。
だがその位置が国と国に挟まれていて、他の国に文明の発展が追いついてきたのは最近の話だ。その分古い歴史のある建物などが多く残っている。
ただ、シャットルワース王国も同じくアリアノール城を挟んだ反対側にある国なので、フェリシアからすればあまり印象はない。ザノーヴァよりはマシだと思うが、この前の集まりでもほとんど印象がなかったように思える。
それがこの、シャットルワース王国だ。
列車が到着したのは昼下がりの頃。ザノーヴァギルドから連絡があったからなのか、シャットルワースギルドの幹部の一人が列車の駅まで迎えに来ていた。
「お待ちしておりました、フェリシア様」
「わざわざ、ありがとうございます」
「いえ。本来なら我々が対処しなければならないことなのですが、戦力が足りず……そこを代行していただきますので、これくらいは全然」
「そうですか」
「拠点にしていただく場所はご用意させていただいております。他にも必要なものなどがありましたらお申し付けください」
「ありがとう」
用意周到というか、準備も支援も手厚くて、とても安心感があった。
そしてその幹部に連れられ、五人はまずシャットルワース王国の城に案内された。
「申し訳ありませんが、本日殿下は体調を崩されておりまして……代わりに弟のロナルド様が挨拶したいと」
「そうですか。確か、この前の集まりに来ていた方ですよね」
「詳しいことはわかりませんが、そういうものは大抵ロナルド様が対応しているので、おそらくは」
ああ、あの印象がなかった……というくらいしか思い出すことがないが、向こうはフェリシアのことを知っているだろうから、わざわざ説明する手間が省けてむしろよかった。
「こちらの部屋でお待ちください」
そう言われて、フェリシアたちは応接室に案内される。
中のソファに座って待っていると、ほんの数分で誰かが応接室に向かってくる気配がした。
それからすぐに扉が開き、中に一人の男が入ってくる。
確かにどこか見覚えのある顔だ。おそらくこの男がロナルドだろう。
「はじめまして……ではないですかね、フェリシアさんは」
「そうですね。こうしてしっかり話すのは初めてですけれど」
「そうかもしれないですね。では改めて、ロナルド・シャットルワースです。よろしくお願いいたします」
「フェリシア・クラッチフィールドです。よろしくお願いします」
そう言ってフェリシアとロナルドは互いに握手を交わす。
フェリシアはロナルドと握手をしながら、目で他の四人も挨拶しろと指示を送る。
「初めまして、フェリシア様の護衛役をしております、リードと申します」
「クラッチフィールド王国公爵家、ウィリアム・キャントレルと申します」
「ライアン王国王女のノア・ライアンです」
「えっと、旅仲間のアメリです」
「みなさんもよく来てくれました。今回はよろしくお願いします」
次々に名乗り、ロナルドは全員に向けてそう言った。
「今回の件はシャットルワース王国としてかなり大きな問題で……まだ人が傷つけられるような被害が出ていないのが奇跡だと思うほどで……」
「それは、避難などが行えているということですか?」
「そうですね。周辺に住む国民は避難指示より前に自分たちの判断で避難を始めていて、そのおかげだと思っています」
「なるほど」
「詳しいことは、ギルドマスターに聞いた方がいいかと思います。魔物のことについてはマスターの方が詳しいですし……」
「そうですね。あとで伺って詳しいことは聞くつもりです」
人への被害が直接は出ていないのはまだ良かった。この遅れた分で……とかだったら、フェリシアたちはなんとも言えない感情になっていただろう。
「とにかく、早急に解決していただきたい問題です。どうか、よろしくお願いします」
「はい。必ず魔物を確保し、これ以上の被害を食い止めます」
フェリシアがそう宣言し、王代理との話は終わった。
これほどお願いされるとは思っていなかったが、これほど頼まれてしまっては失敗できなくなった。まあ、元々失敗するつもりもないし、失敗する確率は限りなくゼロに近い。そこまで心配することでもないだろう。
そして城を後にすると、すぐにギルドに向かってギルドマスターとの話し合いに臨んだ。
「初めまして、フェリシア・クラッチフィールドと申します」
「初めまして。シャットルワースギルドのギルドマスターをしています。クルト・イートンと申します。よろしくお願いします」
ギルドマスターにしては若そうな男だった。魔力量などからしてギルドマスターにふさわしくないとは思わないが。もちろん、若そうだと言ってもフェリシアより年上だ。
「それで、大体のことは知っているかもしれませんが、詳細の方ご説明させていただきます」
「お願いします」
「今回調査の結果ですが、突然変異型の鷹が一羽確認されました。大きさは通常の十倍、魔力量は聖獣に少し及ばない程度。少なくともこの辺では一番魔力量の多い魔物でしょう」
「なるほど」
「どうですか?」
「一羽なら問題ないと思います」
聖獣を倒したことがあるフェリシアなら問題ないだろう。
「こちらの考えとしては、あくまでも捕獲を目指します。ですが、できるだけ周辺への被害は少なくしたいですね……」
「周辺住民の避難は済んでいます」
「それは先ほど聞きました。その辺りって、森林ですよね」
「はい。農村はありますが、主に確認されている場所は森林でした」
周辺に高い建物は無い。飛行を妨げるものは全くない。完全な空中戦ができるとフェリシアは判断した。
「あと、これ全部夜にやりたいんです」
「夜に?」
「まあその……仲間の構成上、夜の方が安定すると言いますか……」
「なるほど。ならば、そのように準備しましょう」
「ありがとうございます」
体制は整った。あとは個人の準備だけだ。
「日付はいつにしましょう?」
「明日の夜、できますか?」
「あ、明日ですか!?」
これにはギルドマスターのクルトも驚いていた。
今すぐにでも解決したい問題ではあるが、いくら何でも急すぎるような気がする。
「いつ動きが変わるかもわかりません。ただ、人が住む場所の防衛が間に合わないのなら遅らせても構いません。急に夜の人員を確保するというのは難しいと思いますから」
「そうですね……下に確認してみます」
「よろしくお願いします」
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