第39話 自己紹介

「……まあ、そんな感じで。もう解決したと思うので、列車は運行できると思いますよ」


 森の中にいる魔物でアメリの他に該当する魔物がいないかと確認してザノーヴァに戻ったフェリシアたちは、ギルドマスターのキーラにアメリが仲間になった経緯を簡単に説明した。アメリが逮捕されても困るのでアメリがグールになった経緯は省いて、他にも自分たちに不利になることは色々と省いて説明した。


「何で仲間にすることになったのかはよくわからないけど……」


 そりゃ、雑に理由をつけたからだろう。理解できるはずがない。


「とにかく、運行ができるようになったのならよかった。感謝するよ」


 どんな理由にせよ、ザノーヴァには大きな利益となったので文句を言われる筋合いはない。


「報酬はどうしたらいい?」

「宿泊費とか食費とか全負担してもらったのでそれで大丈夫です」

「そう」


 これ以上何かをもらって関わりを作りたくない、というのがフェリシアの考えだった。


「それじゃあ、明後日から列車は再開できるだろう」

「そうですか。これで、シャットルワース側も交通網が復旧しますね」

「ああ」


 キーラはそう言った後、幹部たちにシャットルワースに列車の運行再開について伝えてくるように指示を出した。


「そういえば、みなさんは何をしにザノーヴァまで? クラッチフィールド王国からすれば反対側でしょう?」

「シャットルワース王国に向かうところです。例の魔物を倒しに」

「えっ、あっ、そうだったんですか」


 そりゃ強いわけだ……とキーラは驚いていた。


「それじゃあ、この後はシャットルワース王国に?」

「そういうことになります」

「そうですか」


 少し悲しそうというか、落胆するような声色だったが、何を期待していたのか……


 クラッチフィールド王国が国の後ろ盾になってくれるとでも思ったのだろうか。この前会議があったというのに、わざわざ国に外交しに来るわけがないだろう。その時に話があったならまだしも、そんなものがあれば国の一大事だ。ありえない。


 ザノーヴァに来る他国民なんて大抵シャットルワース王国への経由地でしかない。ヴィーガスからのルートができれば、それもなくなる。


 そうか、それを悲しんでいるのか。


 フェリシアはキーラの考えをそう読んだ。


 でもそれは、この国の体制やここまでの他国への態度が悪い。全て自分たちの責任だ。


 最初に独立運動を行い、それが連鎖して他の国も独立が始まった。元々大国であった国々からの印象は最悪だ。


 しかも、独立した後の外交。他の独立国は友好関係を築こうとした。そうでないとすぐに潰されてしまうから。でもザノーヴァはそれをしなかった。今まで散々被害を受けたとかなんとか。


 今この国があるのはヴィーガスが最初の独立国として価値を評価したからで、その時敵対し続けたから今ほとんど味方はいない。そして今頃友好関係を築こうとしてももう遅い。


 考えるだけでモヤモヤとイライラとしてくるので、フェリシアはもう考えるのをやめた。



 そしてそんなことを考えていたとは悟られずに円満にキーラとの話を終え、それから二日が経った。


 最初にキーラが言っていた通り、今日から列車の運行は再開された。最近始めたという夜の運行は森に住む生物への影響を考えて、数を極限まで減らす形となった。


 フェリシアたちは朝一の便でザノーヴァを後にした。シャットルワースへの到着は大きく遅れてしまったし、これなら遠回りした方が早かったまである。


 切り替えてシャットルワース王国に向かうフェリシアたちだが、ザノーヴァギルドからお礼として列車の一番高くていい席を用意してもらっていた。


 その席は個室になっていて、五人が座ってもかなりの余裕があった。いかにも要人向けの席。


 金額にすれば宿泊代と食事代とこれを足してちょうどいいくらいの報酬にはなっているだろうが、それが果たしてよかったのかはわからない。


「ちょうど個室だし、改めて自己紹介しとこっか?」


 ここまで物資の調達にそれぞれ動いていたのもあって、しっかりと挨拶をする場はなかった。そこでフェリシアはそう思いついた。


「とりあえず、あたしはフェリシア。フェリシア・クラッチフィールド。一応、クラッチフィールド王国の王女です。よろしく」


 自分が最初にやることで、了承を得なくても勝手にその方向に持っていくことができる……とフェリシアは思っていた。


「その護衛役のリードです」


 リードがそう言って、完全にその流れになった。


「王女なんだ……フェリシア」

「こんなんでも、ね」

「王女でそれだけ強いなんて……すごいね」

「ありがとう」


 クラッチフィールドという名前で気付いているものだと思ったが、情報がほとんど入らない辺境の村で、今より情報が入りにくい時代だったと考えると、子供だということも併せて知らなくてもまだ仕方ないかもしれない。


「俺はフェリシアの……許婿で、ウィリアム・キャントレル。よろしく」

「許婿……へぇ……そういうわけね」

「そういうわけって何?」

「魔力量的に、そんなに強くなさそうだったから……何で一緒にいるんだろうなーって」

「まあ、許婿じゃなかったら一緒には行ってないだろうけど……」


 ウィリアムは不服そうだった。見下されているようで、気分が悪い。そんなウィリアムの気持ちを、フェリシアは理解していた。


「誰と一緒に行くかはあたしの自由でしょ」

「そうだね。ごめんごめん」


 フェリシアの一言でどうにか治める。


「あっ、えっと……ノア・ライアンです。ライアン王国の王女です。まあ、王位を継ぐわけじゃないですけど……」

「こっちも王女……そういう繋がりで?」

「私は……魔法の勉強みたいな感じで、一緒に行かせて貰ってるんです」

「なるほど」


 ノアもそう挨拶するが、フェリシアは魔法をまともに教えていない。見て学べとも言ったが、すぐに見られない距離に行ってしまうし、アメリ相手にはほとんど魔法を使っていない。


「フェリシアすごいんだねー、色々と」

「一応。でもノアには何も教えられてないし」

「まあ、魔法教えるのって難しそう」

「早くアメリも自己紹介しろ」

「はいはい」


 アメリからは素直に褒められている気がして、フェリシアは動揺を隠せそうになかったので早く先に進めさせた。


「アメリ。グールですっ。よろしく」


 アメリはそう簡単に挨拶した。


 以上、この五人でフェリシアたちはシャットルワース王国に向かった。

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