第36話 ザノーヴァギルド
「やっと着いた……」
ノアがそう呟いた。
さすがに一日中列車に乗って移動していて飽きてきたようだった。途中で変な緊張感も味わったわけだし、フェリシアもとても疲れていた。
「今日はどこかで泊まれるところ探そう。急ぎたいにしても、さすがに今日はもうキツい」
フェリシアもそう言い、四人は泊まれる宿を探し始めた。
やはり駆け込んだのは観光案内所。今までは何とも思っていなかったが、こういう状況になってみるととてもありがたいものだと改めて思った。
そして今回もウィリアムが観光案内所の中に入り、話をしてくることになった。今度はノアも一緒に行った。
「この調子だと、明日には行けるかな」
「何も問題がなければ、行けると思います」
「うん」
人目があるのと、リードが落ち着かないという理由で、二人だけの時は王女と護衛という関係に戻ることにした。一方仲間内での示しをつけるために、他にもいる時やフェリシア以外といる時はもっと普通に接している。
二人で話していると、観光案内所ではなく明らかに二人の方に向かって来ている男たちに気付く。
「リード、」
「はい。怪しいですね」
お互いに気付いているが、正直何があっても大丈夫という自信があったのでそこまで強い警戒はしていなかった。
「すみません、クラッチフィールド王国のフェリシア王女でよろしいでしょうか」
「何ですか?」
「我々ザノーヴァギルドの者なんですけれども、少しよろしいでしょうか」
「別に悪いことは何もしてないんですけど……」
「ええ。そういう話ではなく……」
じゃあどんな話なんだよ、とフェリシアは心の中で呟く。
「あなたにお願いしたいことがあります」
「お願い? 急に?」
「急なお願いで申し訳ありません。ですが、急を要するものでして……」
「何ですか? 国関係の話ですか? それなら……」
国としては関わりたくない。だからどうにか断ろうと話を動かす。
「王女フェリシア様にお願いしたいわけではありません。S級ライセンス保持者のあなたにお願いしたいのです」
「ギルド関係の話ってこと?」
「はい」
自分も少し早とちりしてしまったが、もっと早く最初にそう言ってくれればよかったのに……とフェリシアは思った。
「話は聞きます。受けるかは話を聞いて判断します。それでもいいですか?」
「はい。ありがとうございます。それでは、こちらへ」
「あ、仲間が今宿探しに行っているので、少しお待ちください」
「でしたら、今夜泊まる場所もこちらで用意いたします」
「そうですか。ありがとうございます。とりあえず、呼びに行ってきますね」
そう言って、フェリシアとリードは観光案内所の中に入っていった。
「ウィル、ノア、ちょっといい?」
「どうした?」
「ギルドに用ができた。泊まるところも用意してくれるらしいから……」
「そっか」
ウィリアムはその後フェリシアの耳元に近づいて一言、「大丈夫なの?」と聞く。
「多分大丈夫だよ。最悪国ごとぶっ壊せるから、あたし」
フェリシアは声を潜めてそう答える。
「まあ、ほどほどにね」
「うん」
そしてウィリアムとノアも連れてギルドの男たちと合流すると、男たちは転移魔法
で全員を一瞬で転移させた。
目の前に現れたのは、家具だけは豪華で壁や床は質素な違和感ばかりの部屋だった。そして、その部屋の主と思われる人物が部屋の奥にある机に座っていた。
「マスター、お連れしました」
「ご苦労様」
椅子から立ち上がると、おそらくギルドマスターであろう人物はそう言った。
「私はキーラ。キーラ・ノルベルト。ギルドマスター。よろしく」
ここまで男ばかりだったが、ギルドマスターは女性だった。しかもまだ若い。魔力量はフェリシアに比べれば当然劣っているが、フェリシアたちをここまで連れてきた男たちよりは優れている。ギルドマスターとしては相応しいだろう。
「フェリシア・クラッチフィールドです。何の御用でしょうか」
「本当に、来てくれて感謝する。まあ、座って」
確実にフェリシアの方が身分が上のはずなのだが……どこか上から目線だとは思いつつも、促された変に豪華なソファに腰掛けて話の続きを聞く。
「今、シャットルワース王国は閉鎖された状態にあります。この国もかなり閉鎖的ではありますが、それと同等程度。しかも危険が伴っているので、おそらく我が国より状態は酷いものでしょう」
その一言だけでは、何が起きているのか理解できなかった。
というか、自分たちの国が閉鎖されていることを酷い状態だと認識しているとも取れる発言の方に驚いてしまった。
「今現在、ヴィーガス王国からシャットルワース王国へのルートは凶暴な魔物によって通行できなくなっています。そして残されていたうちのザノーヴァ人民共和国からシャットルワース王国へのルートに問題が……」
それはフェリシアたちにとっても重大な問題だ。ルートに問題がある、つまり通れないということ。その問題を解決しないと、キーラの言う凶暴な魔物というのも解決できない。それが目的でここまで来たというのに。
「どのような問題が?」
「列車や道路がある場所に、最近謎の魔物が現れたという情報があって……」
「謎の魔物?」
「一応調査には向かったのですが、その日は姿を現さず……調査に行った日だけは絶対に現れないとのことで、かなり頭のいい魔物だということしかわからなくて」
「なるほど……他の日は、今でも目撃情報が?」
「ええ。しかも、その目撃者たちはかなりの魔力を持っていると証言していまして……皆逃げ帰ってきたのです」
多くの魔力を持つわけではない人からすれば、少しでもあれば多いと証言するだろうから、本来の魔力量はわからない。でも、そういう人たちが通行できない状況である以上は誰であっても通れないように閉鎖するというのが方針。それなら解決する他ないだろう。
「つまり、S級ライセンス持ちの私とリードが来たと入国審査で情報を得たあなたたちは、私たちにその魔物の調査及び討伐などの解決を依頼したい……という認識で合っていますか?」
「その通りです」
解決しなければ、フェリシアたちも動けない。フェリシアたちがやらなければ、解決は不可能。やらないという選択肢はない。
「わかりました。やりましょうか」
「本当ですか!?」
「はい。あくまでもこれは王女としてではありませんから、そこは勘違いしないでいただきたいところではありますが」
「承知しました」
クラッチフィールド王国として協力しているわけではないという共通認識をここで共有した。
「危険ですが、本当に大丈夫ですか?」
キーラは改めて王女だと認識したのか、そんな今更すぎる質問をしてくる。
彼らの認識では危険だとしても、フェリシアからすれば危険ではない。フェリシアから見ても危険だと思うような魔物なら、もう既に気配に気付いているはずだ。
「大丈夫ですよ。伊達にS級持ってるわけじゃないので」
「そうですか……くれぐれも、気をつけて」
「お気遣い感謝します」
こうして仕事を引き受けることになったフェリシアたちは、その日はギルドが用意した宿で夜を明かし、翌日の夜にその魔物の調査に向かうことにした。
フェリシアやリードは全く問題ないが、ウィリアムとノアにとっては危険な場所かもしれない。だが置いていくわけにはいかないので二人も連れて、四人で行くことにした。キーラもそれを了承してくれた。
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