第34話 ヴィーガス王国
一時間ほど休憩を挟んだ一同は、再度ヴィーガス王国へと歩き始めた。
あと少しだと思うと頑張れるようで、ウィリアムは残った体力が少なかったノアを途中から背負って歩いていた。
そして完全に辺りが暗くなった頃、四人はヴィーガス王国に到着した。
時間帯もあってか、入国手続きをする場所は空いていて、そのおかげで担当者が驚いて声を上げても注目を集めることはなかった。さすがに王女だということを隠し通すのは不可能だったが。
そもそも交通網がそれなりに完成している今、こうやって森の方から入ってくる人も珍しいだろう。外の森で狩りをする人々くらいだ。しかもそれは自国民だろうし。
異常なこだわりを持つ旅人ならいるかもしれないが、どこかの国の王族が来るとは誰も思っていない。驚かれることは想定済みだったので、フェリシアたちからすれば夜に着いたというのはいい状況だった。
「ようこそ、ヴィーガス王国へ」
「ありがと。できれば、あたしたちが来たってことは秘密でね」
フェリシアは担当者にウィンクまでしてそう言い、入国審査場を後にした。
「秘密でいいの?」
眠そうな目を擦りながら、ノアがフェリシアにそう聞いた。
「まあ……ただの経由地だし。ここに用があるわけでもない。魔物を狩るわけでもない。挨拶しなくても大丈夫だよ。王と話すの神経使うから疲れるし……」
フェリシアはS級ライセンスの証拠となるマントのフードを被りながらそう答える。
ヴィーガス王国はかなり昔からある王国で、国土も昔は広かった。だが、他の国々で起きていた独立運動に感化されてヴィーガス王国でも独立運動が起き、今はカナリア共和国とザノーヴァ人民共和国が独立して国土は特段広いわけでもなくなった。
文明は他と同じ程度発達していて、国家としては成り立っている。そして名前からもわかる通り、国を治めているのは王だ。
フェリシアが最初に行った国がノーム王国だったのが悪いのだが、聖王アリアノールが治める地域の中では、それなりに高い建物が建って……他国とも繋がる交通網があって……というのは普通なことだ。
「うっ……眩しっ……」
ヴィーガス王国に入るや否や、ウィリアムが目を軽く覆い隠しながらそう呟く。
今は夜の明かりが一斉に点灯したところで、先ほどまで真っ暗な森の中にいたということもあってより眩しく感じていた。入国審査場もそれを軽減する意味なのか、少し暗かったように思えたし。
「とりあえず、今日は泊まる場所探そう」
「どうやって探すの?」
辺りを見回したところ、宿らしきものは見当たらない。入国審査場近くの市街地なのだから、無いということはさすがにあり得ないだろうが……
「観光案内所とか?」
ノアがそう言った。
確かに今四人の目の前には観光案内所の看板が立っていた。
「そうだね、観光案内所なら……」
観光案内所なら宿の情報も得られるだろうし、ついでに交通情報も得られたらいいなとも思った。
そして四人は、いくら夜になってすぐとはいえいつまでも営業しているとは思えないので、足早に観光案内所に向かった。
「すみません、いいですか?」
代表してウィリアムが観光案内所のカウンターにいた人にそう声をかける。
「どうされました?」
「この辺で泊まれるところを探したいんですけど……どこかありますかね?」
「ご希望などありますか?」
「いや、特には。金額などもそこまで気にしていないので……」
「なるほど」
ウィリアムの要望を聞いた担当者は、おそらくそういう宿がまとめられている紙をペラペラとめくり始める。
「どこへ行く予定か聞かせていただいてもよろしいですか?」
「あ、はい。一応経由地で、シャットルワース王国に向かう予定です」
「あー、そうなんですね。それなら、ザノーヴァ人民共和国に行く感じですか?」
「そうですね」
さすが観光案内所。別の国への経由地になることも多いからか、すんなりと会話が進んでいった。
「もう少ししたら直接行くルートが通れるようになるみたいなんですけどね」
「そうなんですか?」
「ええ。今はシャットルワース王国の中で危険な魔物の情報があって、それで延期しているんですよ」
「へぇ……」
「だから、シャットルワース王国では気を付けてくださいね。また言われるかもしれませんが」
「ありがとうございます」
ウィリアムはその話を聞いて、自分たちが今からすることがかなりの人にとってメリットがあって望まれていることかを感じた。
「一応、ザノーヴァに向かうために経由するであろう駅までの列車がある駅の近くだと、この辺なら宿が多くあります」
「わかりました。ありがとうございます」
この都市は入国審査場があるということもあって、ヴィーガス王国各地と繋がる列車が数多く通っている。だがヴィーガス王国も広いので色々な方向へと列車が繋がるため、駅は一つだけではない。それを間違えて乗り遅れるなんてこともよくあることだと言われているので、担当者はわざわざ行き先を聞いて、間違えないような場所にある宿を案内した。
具体的に宿を言わなかったのはウィリアムがどういう所がいいのかを言わなかったからだとして、すごく親切だったとウィリアムは思った。
「お待たせ」
「聞けた?」
「うん。向こう……西側の方にザノーヴァ方面の駅があって、その近くの……ここ。その辺に宿が多いって」
「そっか。ありがと、ウィル」
ウィリアムは他の三人に地図を使って説明した。
そして四人は教えてもらった方向に向かい、見つけた宿の中からなんとか空室を見つけ、フェリシアとノア、リードとウィリアムで二部屋に分かれた。
「うわぁ……なんていうか……すごい……」
部屋に入ると、ノアはそう呟いた。
その部屋は特段豪華なわけでもなく、いたって普通の部屋。ベッドが二つ並んでいて、机やクローゼットがあるだけの質素な部屋。壁が白色なこともそれを際立てている。
それがノアからすると珍しいものだった。
「ノアどっちのベッドがいい?」
「どっちでも」
「じゃああたし手前でいい?」
「いいよ」
自分のエリアが決まったところで、二人はそれぞれのベッドに腰を下ろした。
「今日はお疲れ様。明日はもっと楽になると思うよ」
「私は何もしてない。体力無いから迷惑かけちゃったし……」
「迷惑だなんて誰も思ってない。子供なんだから、あたしたちより体力がないのは当たり前。しかも王女なんだし、ちょっとくらいわがまま言ったって誰も怒らない。むしろ、その方が可愛い」
「そう……なのかなぁ……」
ノアはそう呟きながらフェリシアの方を見る。
「そういえば、ノアはどんな魔法が使いたいの?」
「どんな魔法……?」
「うん。あたし、魔法教えたことないし……多分教えるの下手だから。ノアには、あたしの魔法を見て学んでほしい。だから、どんな魔法がいいかなって。得意不得意だとか……」
「お兄ちゃんがよくやるのは威力は無いけどできる。じゃないのはできない……そんな感じ」
「そっか……」
フェリシアが知る限りでは、炎と電撃の魔法はそれなりに形になっているということか。
「でも、見て盗むのは得意なんだね」
「見て盗む……」
「結構すごい能力だよ、それ」
見てできるというのができれば、何事も楽にこなすことができる。感覚で魔法を使っているため教えるのが下手なフェリシアにとっても、それはとてもいいことだった。
「じゃあ見ててね、あたしの魔法。きっとノアなら、何か掴める」
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