第32話 仲間らしく
まず考えなければならないのは、どうやってそのシャットルワース王国に行くかだ。
フェリシアとリードだけなら夜に飛行魔法で移動できたが、ウィリアムとノアに飛行魔法は不可能だ。ノアだけならどちらかが抱えて飛ぶということもできたが、さすがにウィリアムを抱えて飛ぶのは厳しいだろう。
移動経路をフェリシアが考えていると、その間にウィリアムとノアは挨拶を済ませていた。見ている限りだと、関係は可もなく不可もなくといったところで、特段上下関係が出来上がってもいなかった。
二人の仲を確認して、フェリシアはまた思考に戻る。
「普通に歩くか……」
「本格的に冒険者っぽくなりますね」
「リードはどう思う?」
「整備されてない道も通ることになるので車は無理でしょう。飛ばないなら歩くしかないかと」
「そうだよね」
冒険者……か。
「二人はどう思う?」
「通常なら迂回路を通って行くところだよね、そっちなら道も整備されてるし」
ウィリアムは確認するようにそう答える。
「そうだね、そっちなら道路の整備もされてるし、交通網もある。シャットルワース王国に入るのも楽」
「だよね」
「でも、迂回路に行って乗り物を使うよりも歩いていった方が早いんだよね、正直」
ただし、歩くのだから楽ではない。
ただでさえ動き出しが遅くなったので、これ以上時間をかけるわけにはいかない。だから一刻も早く行ける方を選びたいと思う。それはウィリアムも理解している。
「あとはみんなの体力次第。あたしやリードは魔力によって移動に使う体力は少なくできる。でも、ウィルとノアはそれをやると自分を守る最低限の魔力すらも無くなるかもしれないから、それはできない」
フェリシアの想像より体力が無かった場合、迂回路の方が早いこともある。
「ノアは小さくて軽いから、背負っていける。だからウィルの体力次第ってことになるんだけど……」
「そこまで体力がないわけじゃないし、大丈夫だと思う」
ウィリアムはそう答えた。
「……わかった。じゃあ、歩いて行こう」
ウィリアムの言葉を信用していいのかと考えたが、一応奥の手というものを考えついたのでフェリシアはそれほど悩まずに移動手段を決定した。
「ノアも、それでいい?」
フェリシアは確認のため、ここまで言葉を発していなかったノアにそう聞いた。
「私が口を出すものでもないので……ですが、ご迷惑をおかけするかもしれません」
「大丈夫だよ。この中では最年少だし、頼っていいんだよ」
「すみません……」
ノアは申し訳なさそうに謝った。
この中だとノアだけ国が違くて、年も少し離れていて、なんとなく疎外感のようなものを感じているのかもしれないとフェリシアは思った。
これはどうにかしないと……ああ、そうしてみるか。
「じゃあ今から、このグループの中では敬語禁止。タメ口で。あと『さん』とか『様』とかも禁止。仲間だから、この際身分の上下はなし!」
フェリシアはそんなことを言い出した。
「ノアも遠慮しなくていいし、リードももっと友達みたいに、さ」
「フェリシアさん……でもそれは……」
「王女としてタメ口は抵抗ある?」
「もちろんです……! 今まで言葉遣いは厳しく教えられて来ましたし……」
フェリシアだって、公の場ではそれなりに気を付けている。それは無意識で、身分が上の家に生まれた以上は幼い頃に嫌になるほど教え込まれるものだ。フェリシアの場合は正直あまりそういう場が多くないので、ちゃんとできているかはわからないが。
「でも、それがこのグループのルール。だったら従うか出ていくか、どっちかだよ?」
「うーん……もう! わかった! よろしくフェリシア!」
ノアはやるしかないと覚悟を決めたようだった。
「よろしくね、ノア」
フェリシアは少し安心していた。ノアが出ていかないという自信はあったが、万が一辞めるなんて言い出したらどうしようかと思った。もしそうなっていたら、ライアン王国には一生行けなくなっていたかもしれない。
「リードもだよ?」
「私もですか?」
「当たり前じゃん。仲間なんだから」
「ですが……」
「このグループだけの時でいいから、さ」
「……わかりました」
リードはそれをフェリシアからの命令だと自分に言い聞かせた。
「じゃあ、出発するなら早い方がいいよね?」
急に人が変わったかのように、リードはそう言った。さっきまでの王女の護衛という関係が嘘みたいだった。
「みんな適応早くない……?」
二人の様子を見てウィリアムはそう呟いた。
フェリシアにしてみればウィリアムもウィリアムでかなり適応は早かったと思うが。どうやら本人にそのつもりはないらしい。
「……うん。行こっか」
フェリシアが時間差でリードにそう答え、一同はアリアノールの城からシャットルワース王国に向けて出発した。
今回のルートはリードの頭の中にしっかりと入っているが、まずヴィーガス王国に入り、そこからザノーヴァ人民共和国を経由してシャットルワース王国に向かう。道中はほとんどが森の中にある舗装されていない道だが、その森はどれも調査はされていて、それほど危険な魔物はいないと言われている。
そんな森の中を、リードを先頭に、その後ろにノア、最後尾にウィリアムとフェリシアが並んで進んでいた。
「そういえば、ウィルは学校どうしたの?」
「うーん……休みっていうか、フェリシアと同じような感じかな」
「じゃあ、一緒に補習ってことか」
王女とその許婿が揃って補習というのもどうかと思うが。
「補習受けるって決まった時どんな気持ちだった?」
「正直考えてなかった。準備しながら気付いた」
「なるほどね」
「でも、もう卒業だし、それまでにやる内容なんてほとんどないでしょ」
フェリシアはウィリアムの言葉で、そろそろ卒業だということを思い出した。だから急に結婚の話が出てきたのか……とも。
「甘く見ない方がいいよ。絶対あんなこと普通の授業じゃやってないよ」
「ほんとに?」
「論文みたいなのがいっぱい。法律だとか、魔法の原理だとか、それをずらずらと書かせられる。魔法の原理なんて気にしたことないし、そもそも魔法の名前とかも意識したことないし、あたしなりに形変えてる魔法とかもあるし」
「聞いてるだけでも疲れてくるな」
ウィリアムは補習にビビりながらも、もう後戻りすることはできないので諦めるように覚悟していた。
「そういえば、フェリシアは卒業旅行行くの?」
「卒業旅行?」
「うん。みんなでどっか行くやつ」
「それって、みんな行くやつ?」
「まあ、学校行事だから」
「ふーん」
「その反応だと、行く気はないみたいだね」
フェリシアはどこか他人事で、セキュリティとか大変そうだな……とまで思っていた。
「行けって言われたら行くけど……自分で決めちゃっていいなら行かないかなぁ……」
「そっか」
「ウィルは行くの?」
「その時にちょうど帰れれば。どうしても行きたいとかではない……かな」
「そっか」
でも、わざわざ聞くってことは、来てほしいんだろうな……とフェリシアは察した。
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