第29話 魔法は素敵ですごい

「なるほど、どんなミスをしたらノーム王国郊外の森に飛ばされるのかわからないが……怪我がなくてよかったよ」

「フェリシアさんのおかげです」


 アリアノールはノアの話を聞いて、フェリシアと全く同じ反応をした。


「ライアン王国では心配されているだろうし、早急に話をしておかなければ……アーノルド、頼めるか?」

「今すぐに行ってまいります」

「ああ」


 そしてアーノルドは部屋から消えた。おそらくライアン王国に転移したのだろう。


「それで、話を変えるが……フェリシアには次の魔物も頼みたい」


 急に話戻してくるな……


 フェリシアは心の中でそう呟く。


 もちろん今回の一回限りだとは思えなかった。逃げ出した数はそれなりにいるような話しぶりだったし、人手が足りていないのも事実。


 フェリシアとしても普段は使う機会がない自分の魔法が役に立つならと協力したい気持ちはある。だが、続くようでは父である国王に心配されてしまうというか、強制的に戻らされるようなことになるかもしれない。


 そうなればさらに関係は悪化するし、民からの印象も悪くなるし、色々と困ることが起こる。


 正直、聖王の手伝いだとわかれば民の印象はむしろ良くなるかもしれない。問題は父親との関係だ。


 まあでも、どうにかなるかな……


「わかりました。父の許しを得てからにはなりますが、私個人としてはお引き受けしたいと思っています」

「そうか。ならばその許可は私が取り付けておこう」

「ありがとうございます」


 この流れになれば許可は確実。さすがにアリアノールからの命令を断ったりはしないだろう。


「早速だが、その魔物は鷹だ」

「鷹?」


 魔物とはあまり区分されないただの動物だが……アリアノールが魔物と呼ぶのならそれなりに理由があるのだろう。


「なんと言ってもその大きさ。通常の数倍。その分の魔力も持っている。魔物と分類してもおかしくはない。とても厄介だ」

「なるほど……」


 魔力を持たない又は持っても魔物と同等にはならない生物は、その分身体能力が高かったり、別の武器を持っているものだ。人間は魔力を保有する側の生物だが、鷹はそうではない。その代わりに鷹は空を飛び、鋭い爪と嘴を持つ。


「でも、鷹って元々小さい部類の鳥ですし、そこから数倍だとそんなに……そんなに大きいですか?」

「数倍というか、数十倍かもしれない。人間の二、三人は簡単に乗れるとのことだ」

「鳥にしては大きい……子供のドラゴンくらいですかね」

「ああそうかもしれない」


 ドラゴンは見たことが無かったが、フェリシアの中で大きな生物といえばドラゴンになる。


「確かに厄介ですね」


 かなりの大きさでそれなりに早く飛びながら鋭い爪を尖らせて上から襲ってくる。魔力があるということは、魔法を使ってくる可能性もある。


 それらを全て加味すると、とても面倒くさくて厄介な生物だとわかる。


「それで、その鷹はどこに?」

「シャットルワース王国の近くにある森だ」


 また森かよとも思ってしまったが、主な魔物の生息地が森なのだから仕方ないことだ。


「わかりました。それじゃあすぐにでも……」


 そこまで言ったところで、フェリシアはリードから視線を感じた。


「どうかした? リード」

「いやその……」


 リードはフェリシアの耳元に口を近付け、アリアノールにわからないように何かを伝えようとする。


「魔力増強剤がノーム王国に無かったので、一旦クラッチフィールド王国に戻ったんですが……その時に見つかってしまいまして……これが終わったら一回帰ってくるように、と」

「えっ……!? 早く言ってよ」

「それどころじゃ無かったので」

「確かにそうだったね」


 リードがここまで言わなかったのはまだいいとして、国に帰らないといけない命令が出されてしまっては今すぐに鷹を捕まえに行くことはできない。


「わかった。一回帰ろう」


 フェリシアはリードにそう言い、アリアノールに事情を簡単に説明する。


「そうか。もちろんそっちを優先してくれ。鷹の方は監視を続けるように伝えておく」

「ありがとうございます」


 こうして今後の予定が大まかに定まった。


「それじゃあ、そろそろ行きます」


 フェリシアがそう言って立ち上がると、ノアも勢いよく立ち上がり、フェリシアのことを見つめた。


「あの、フェリシアさん!」

「どうしたの? ノア」

「あの……その……」

「ん?」


 ノアはなかなか言い出さない。


 そういえば、朝もこんなことがあったな……とフェリシアは思い出していた。


「私も一緒に行かせてください!」

「えっ?」


 瞬間的に声が出てしまった。


「私は、魔法が嫌いでした。……お兄ちゃんが、魔法にのめりこんで、離れて行ってしまったから。でもフェリシアさんの魔法を見て、魔法って素敵ですごいんだなって思いました。私は、そう思わせてくれた人の魔法を、もっと近くで見ていたい。その人のところで、魔法を学びたい。そう思ったんです」


 これほどの思い。おそらく昨日今日だけの話ではなく、前にフェリシアがジョージと勝負をした時から思っていたことなのだろうとフェリシアは感じた。


「だから、どうか、お願いします!」


 ノアはそう言って深く頭を下げた。


「頭上げて。同じ王女でしょ?」


 立場は同じ。頭を下げられる義理はない。


「私はいいよ。別に。一緒に来てもいい」

「本当ですか!?」

「でも……もちろん安全は保障できないし、絶対に危険な場所に行く。王女が行くことを許してもらえるのか……」


 まだ魔法が使えるフェリシアならまだしも、ノアは魔力量も年相応といったところで特段魔法の才能があるようには思えない。危険な場所で身を守れるほどの力はない。


 そんなノアが危険な場所に行くことを、ノアの両親が許すかどうかはわからない。両親としても、国の主としても。


「それは……自分でどうにかします」

「……わかった。じゃあ一緒に来ていいよ」

「ありがとうございます!」


 ノアは再度深く頭を下げた。


「それじゃあ、お互い国で色々済ませてから、ここに集合するってことで」

「わかりました。必ず父を説得してきます!」

「まあ……頑張って」


 正直、自分の思いだけじゃどうにもならない問題だと思うが……それをノアに伝えたところでどうにもならない。


「それじゃあ、行きましょう」


 リードに促され、フェリシアとノアはそこで別れた。


「若い少女が戦う……エモいな……」


 今の二人の会話を見て、アリアノールはどこか嬉しそうにそう呟いた。

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