第28話 イメージ
翌朝、フェリシアは魔力増強剤の副作用で一睡もできないまま、辺りが明るくなる様子を見守った。
「ん……うぅ……」
静寂に包まれていた部屋に響く呻き声。
「起きた? ノア」
フェリシアはノアにそう声をかける。その声にまず目覚めたのはガルムの方だった。
ガルムは座っていたフェリシアの膝に顎を乗せ、撫でろと言わんばかりにフェリシアを見つめていた。
「おはよう」
そう言いながら、フェリシアはガルムを撫でる。
そうしている間にノアも目を覚ましてゆっくりと起き上がった。
「おはよう、ノア」
「お、おはようございます。すみません、昨日は……」
「大丈夫だよ」
ノアはその見た目に反してとても申し訳なさそうにしている姿を見て、誰も文句は言えないだろう。
「今日はアリアノール様の城にコイツを届けに行く。そこまで行けば、ノアのこともライアン王国に帰してやれる」
「ありがとう……ございます」
ノアの反応に少し違和感があった。気のせいかもしれないし、ただ緊張しているだけだとか、そういうものなのかもしれない。
「どうかした?」
「いや……その……」
「ん?」
やはり何か思うことがあるようだった。
「昨日のフェリシアさんの魔法、すごかったです。あんなに大きくて、威力があって、綺麗でした」
「綺麗……?」
フェリシアからしてみれば、あれはそういう風に見せた魔法じゃない。
「威力に全振りしたつもりだったけど……」
魔法への憧れから来るものだとフェリシアは思った。
「あの、それで……」
「ん?」
ノアが何かを言いかけた時、運悪く部屋の扉がノックされ、話は中断した。
フェリシアが扉を開けると、そこにいたのはリードだった。
「珍しく起きてますね」
「起きてるんじゃなくて、寝てないの」
「なるほど」
リードは一瞬でその原因を理解し、納得した。
「では、支度してください。今日はアリアノール様の城に行くんでしょう?」
「うん。部屋で待ってて、準備できたら行くから」
「わかりました」
扉を閉じると、フェリシアはノアの方を振り返る。
「それで、どうしたの?」
「いや、大丈夫です。準備します」
「そう」
結局ノアの言いたいことはわからないまま、支度を終えて三人と一頭はギルドの宿舎を後にした。
一同が向かったのはギルドマスター・リックのところだった。最初に訪れた時と同じように、転移魔法で部屋の前まで飛ばされて、すぐ部屋に辿り着いた。
フェリシアは少し息を吐いて気持ちを整え、部屋の扉をノックする。
「フェリシア・クラッチフィールドです」
「入ってください」
「失礼します」
リックの声が返ってきて、フェリシアは扉を開けて中に入る。リードたちもそれに続いて中に入る。
「昨夜は本当にありがとうございました」
部屋に入るや否や、リックはフェリシアたちにそう言った。
「いえ。私は指示通りに仕事をしたまでなので」
「謙虚ですね」
謙虚じゃないと、王女としてのイメージが崩れる。
「もう、お帰りになりますか?」
「はい。早くガルムを元の場所に戻してあげたいので」
「そうですか」
仕事が終わったから帰る。おかしいことではないし、特に問題もないはずだ。
「どうかしましたか?」
リックが少し落ち込んだような言い方をしていたので、フェリシアはさらにそう聞いてみる。
「いえ。特にどうということはないのですが、所属の冒険者たちが祝勝会……のようなものを企画しているようで……」
「なるほど……ですが、今回はお断りさせていただきます。まだ仕事は終わっていませんし、やることが沢山あるので」
「そうですよね。大丈夫です。彼らにもそう伝えておきます」
「すみません」
何に勝ったんだか……
正直何かをしたのはフェリシアだし、結局ガルムは国に近寄ることなく、危険は全てフェリシアに降りかかり、ギルドは何もしていない。
何が祝勝会だよ。
フェリシアは心の中でそう呟いていた。
「あと、一つお伝えしておきたいことが」
「なんでしょう?」
「もう耳に入っているかもしれませんが、あの森の中にはゴーレムがいます」
「ゴーレム?」
どうやら、耳には入っていないようだった。
「ブランディンによれば、伝説やら迷信やらにあった防衛システムのことだそうです」
「防衛システム……確かにそういう言い伝えはあるが……本当にそんなことが……?」
「目の前にしたので間違いないです」
「なるほど……」
リックは少し考え込む。
「ブランディンの本気の魔法で作動したので、A級程度の人物の魔法なら発動してしまうかもしれません。なので、お気をつけください」
「わかりました。通達文を出しておきます」
フェリシアの助言を受けて、リックは机の上にあった紙に素早く何かを記入した。
「強さはA級でも手に負えるかどうか……といったところです」
「なるほど……」
フェリシアはあの森がギルドによって調査されていないのかということも聞こうかと思ったが、何もないときに探しても姿が見えないようになっているという可能性もある。どこかに封印された状態で放置されているというのも不用心だとも思うし、大きな魔法に反応してどこかから現れるという可能性も考えられた。
「それでは、今回はこれで失礼します」
「はい。お気を付けて。色々と、ありがとうございました」
「ありがとうございます」
ほとんど何事もなく、フェリシアたちはリックへの挨拶を済ませてギルドを後にした。
それから向かったのは王族が住む城だ。会いに行くのはもちろん王のグローヴァー・ノームだった。
こちらも同じようにあっさりと王の部屋に通され、フェリシアはグローヴァーに挨拶をしに向かった。
「昨夜は本当にありがとう」
「いえ。仕事ですので」
「息子のブランディンのことも助けてくれたようで……」
「まあ、ガルムを足止めできたので、むしろ助けられました」
そんなことはもちろんない。だが、そうとでも言っておかないと、ブランディンへの当たりがさらに強くなる可能性もある。その可能性が無くても、役に立ったと言って機嫌を取っておいて悪いことはない。
「少しの間でしたが、お世話になりました」
「もう国に帰るのか……機会があればまた来てくれ」
「はい。ありがとうございます」
王にも挨拶を済ませたフェリシアは、疲れた様子でノーム王国を後にした。
「それじゃあ、移動しよっか」
国を出て少し行った森の中で、フェリシアはどこかスッキリした様子でそう言った。
そして一同はフェリシアの転移魔法によって一瞬でアリアノールの城まで転移した。
「フェリシア様、お待ちしておりました」
城の門をくぐったところでアーノルドが姿を現し、そう声をかけた。
「どうも。お久しぶり……ってほどでもないですかね」
「間違いではないと思いますが……まあ、こちらへ」
アーノルドは会話もそこそこに、フェリシアたちを応接室に転移させた。
応接室は会議の時に案内された部屋を造りは同じだったが、部屋は明るく装飾もすごく輝いていた。
「眩しっ……」
「アリアノール様はもうすぐいらっしゃると思いますので、座ってお待ちください」
フェリシアたちはアーノルドに促されてソファーに腰掛けた。ガルムは絨毯の上に伏せの状態で座り込み、あまり興奮や緊張といった様子は見せていなかった。
無言のまま約数分が経つと、やっとアリアノールは応接室に転移してきた。
「いやぁ、すまない。遅くなった」
「いえ、大丈夫です」
本当は少しイライラしていたが、そんなこと実際にいえるはずがない。
「あれ、ノアも一緒だったのか?」
「あ……えっと……」
「まあ、先にフェリシアの方から聞こう」
ノアは何て言っていいかわからずに戸惑っていたので、まずフェリシアに話が振られて少しホッとしていた。
「見た感じ、無事に捕まえてくれたみたいだけど……」
「はい。何事もなく」
大きく見れば、何事もなかった。フェリシア自身は怪我もしていないし、国も壊れていないし。ブランディンは怪我をしたが、その代わり邪魔もされたのでガルムにされた被害として報告する義理はない。
「君が逃げ出したガルムか……」
アリアノールはそう呟きながらガルムの方に歩いて近寄り、目の前にしゃがんだ。
「俺が責任持って、元居た場所に帰すからな」
そう言いながら、ガルムの頭を撫でる。ガルムは威嚇することも、怖がることもなく、アリアノールのされるがままになっていた。
確かにアリアノールの魔力を感じてしまえばわざわざ挑もうという気にはならないが……
「それで、何でノアがフェリシアといるんだ?」
「えっと……それは……」
ノアは黙り込んでしまった。フェリシアも詳しいことは知らないので、フォローすることができない。
「えっと……笑わないでください、ね」
先にそう言った後、ノアは何があったのか話し始めた。
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