第27話 ノーム王国の問題
「それにしても、すごいな……これだけの量を……一瞬で……」
ブランディンンはそう呟いた。
「別に倒したわけじゃないから。これくらいだったら誰にでもできる」
ガルムほど強いわけでもないので、それに比べたら簡単なことだ。だが、ブランディンにしてみれば、これほどの数を一人でどうにかするなんて不可能に近いことだった。
「じゃあ、合流しよっか……」
「誰と?」
「リード。途中ではぐれちゃったんだよねー」
「なるほど……」
「こっち向かって来てると思うんだけどね。結構音もしたし、魔法の気配もしただろうし……」
フェリシアがそう話していると、予想の通りリードたちの気配を感じた。
「噂をすれば……」
「大丈夫ですか?」
「あたしが大丈夫じゃなかったらみんな死んでるよ?」
「そうでした」
やってきたリードたちは、何事もなく合流した。
「そっちは大丈夫?」
「はい。問題ないです」
「よかった」
特に心配もしていなかったが、どうにかノアもついて来られて合流できて安心した部分もあった。
「すごかったです。フェリシアさん」
「見てたの?」
「すぐそこまで来ていたので。リードさん、足速いんですよ」
「なるほどね」
ゴーレムを刺激しないように、気配を完全に消すような魔法を使っていたのだろう。目の前にすれば魔法を使っているかはわかるが、茂みに隠れていただろうから、フェリシアが気付かなかったのも無理はない。
だが、フェリシアとして、この場にいる全員にあの薬のおかげで気がおかしくなっているところを見られてしまったというのは少し問題がある。
しょうがないといえばしょうがないことだったが、終わってみれば必要の無かった薬。おかしな姿を見せてしまったことは間違いなくマイナスになるだろう。
あの魔法で上書きして、記憶から無くなってくれていればいいのに。などとフェリシアは願っていた。
「それで、何があったか説明してもらってもいいですか?」
リードは事実を把握しておくために、フェリシアにそう聞いた。大きな魔法が使われたことはどこにいてもわかってしまい、それはおそらくクラッチフィールド王国の王にも伝わることだろう。そして、その理由を聞かれてフェリシアが答えても、あまり信じてくれない可能性も考えられる。その時にリードが答えてくれれば、その信憑性は上がるだろう。
「まあ……ガルムと追いかけっこをして、そしたらコイツがいて……それでコイツが襲われたから助けようとガルムを説得したら、隙をついてコイツが攻撃しやがって……それで戦闘になって、あたしが止めて……そしたらこの森に仕掛けられてた防衛システムが作動して、色々大きな魔法を使った。特に問題があることはやってないと思うけど」
フェリシアはそうざっと説明した。
「そうですね。問題はなさそうです」
「この通り、ガルムも確保したし。終わりだね」
「お疲れ様でした」
少しやりすぎているかもしれないが、安全を確保するには無理もない魔法だ。大きな魔法を使ったからととやかく言ってくる奴らは色々とどうかしている。
「でも、そんなものあるなんて聞いてないんですけど。しかも作動するなんて……」
リードはノーム王国がフェリシアを殺しに来ているのかと疑問を抱いた。
「確かにびっくりしたけど、最新の防衛システムっぽくはないし、昔の伝記に書いてあるような確証もないものだったみたいだよ。まあ、何で今まで調べなかったんだ……とは言いたいけどね」
国の周辺について探索隊を出すのは当然とも言えること。国に及ぼされるかもしれない危険にいち早く気づくことはとても重要だし、それは他の国のためにもなる。
少なくとも、そういうのがあるかもしれない……や、森の中は全て調べられていないなどと教えてくれてもよかったのではないか……? とフェリシアでも思ってしまうが。
「それは……俺が今までちゃんと調べられてなかっただけ……だと」
ブランディンはそう言った。
「王子が自ら調べていたってことですか?」
「王の指示ですから」
「なかなかリスク管理ができていないようですね」
フェリシアも抜け出して狩りをしたりしていたが、今まで誰かに命じられて危険に飛び込んだことはない。少なくとも国の中では。今回アリアノールから頼まれたことが初めてだったかもしれない。
「まあ……できる人がいないんですよ」
「あれだけギルドに人がいて……ですか?」
リードが言うように、最初に行ったギルドには国をまとめるギルドなだけあってそれなりに人がいた。しかも今国を守る結界を張っている人たちはおそらく国中の能力者を集めた結果なのだろうが、かなりの人数がいるのを先ほど見たばかりだ。
「信用できないって……国として重要な調査だから、本当に信用できる人にしか任せられないって。信用できるっていうか、国の情報に元々アクセスできるような人じゃないとって。その中で一番強かったのが俺だったってだけ」
信用度は大事だとは思うが、ギルドは国を守る組織でもあるのだから、少しは信用してやらないと……いつか見放されて国が崩壊する恐れもある。
「リード、他国のことに首突っ込まない方がいいよ。少なくとも、リードじゃ何もできない」
「そうですが……」
他国の国の方針に口を出すわけにはいかないし、何を思っても言えるはずがない立場だ。フェリシアならまだしも、リードは何の権力も持たない。フェリシアだって、父であるクラッチフィールド王国の王に進言してどうにかしてもらうしか方法がない。それをすれば間違いなくクラッチフィールド王国とノーム王国の関係は悪くなる。少なくとも今の代の間は。
「変えるのはブランディンだから」
フェリシアはそう付け加えた。
視線がブランディンに向く。
ノーム王国の体制には少し問題があることがわかった。今はそれでどうにかやれているのかもしれない。でも、それがいつまでも続く保証はない。そして、その時代に国を率いているのはおそらくブランディン。変えなければ、自分が困る。
「さ、戻りますか」
少しの沈黙の後、フェリシアがそう言って、一同はフェリシアの集団転移魔法によってノーム王国の入り口に戻った。
フェリシアたちが戻ったことに気付いたギルドの人たちが結界を崩し、フェリシアたちはノーム王国の中に戻ってきた。
やっと外敵がいないという安心感に包まれ、そこにいるギルドの人たちも含めて和やかな雰囲気が漂っていた。
ガルムはフェリシアに懐いているが、ギルド人たちには全く姿を見せようとしない。自分を嫌っているという雰囲気をどこかで感じているのだろう。
「今日はもう遅いので、みなさんゆっくり休んでください。お疲れ様でした」
これ以上ガルムに嫌な思いをさせたくないという気持ちもあり、フェリシアは場にいる全員に解散するよう促した。
フェリシアが促すと、その通りにギルド人たちはそれぞれの家に帰っていった。
もう夜も遅くなっていて、幼いノアはとても眠そうにしていた。合流してからほとんど喋っていない理由はそれだ。
とりあえず今日中にライアン王国に帰すことは不可能なので、一旦預かって寝かせた後、ガルムを引き渡すと共にノアをライアン王国に帰そうという話にフェリシアとリードの間で落ち着いた。
「じゃあ、ノア様は任せますね」
「うん」
さすがにリードの部屋でノアを預かるわけにはいかないので、フェリシアの部屋でノアを寝かせることにした。
ノアとフェリシア、そしてガルムだけになったフェリシアの部屋には、ノアとガルムの寝息がやけに大きく聞こえていた。
フェリシアからして、今回の仕事はとても簡単なものだった。なのに予想もしていない外部の要因によってものすごく大きなことをしてのけたような疲れが襲ってくる。
「……クソが」
表には出さない。リードにも見せない。
でも内心は自分の実力がどれほどのものか理解して、自分さえいれば解決する、邪魔をするな、そんな思いがあった。
傲慢だと思われるから、絶対に表には出さないが。
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