第26話 防衛システム
「で、何で攻撃したの?」
フェリシアはブランディンを鋭く睨んでそう聞いた。
「あたしはアリアノール様から頼まれて、ガルムを連れ戻しに来た。そのためにノーム王国に話は通したし、協力もしてもらってる。王子なんだから、それくらい知ってるでしょ? しかも、危ないから入るなとか言われてないわけ?」
フェリシアなら言われても自分でどうにかできるので入るかもしれないが、自分の実力でガルムから身を守れるとは思えない魔力をしているというのに森に入るなんてどうかしている。
「別に何も言われてないし。俺、嫌われてるから。王子のくせに」
「だとしても、ガルムの強い魔力は感じたでしょ。何で逃げないの?」
「……行くところないし」
「は……?」
この国での第一王子の扱いは酷いものだと感じた。仮に反抗期真っ盛りで王子とは思えない行動しかしなくても、王位継承権は第一位で持っているのだから、守れる範囲では身の安全を守らなければならないはずだ。でも、そもそもこの作戦すら教えられていない。
「やばいね、ノーム王国」
「いや……まあ……当たり前だ。俺が悪い。結局、俺は王に向いてないんだ」
国を悪く言われたようで、ブランディンは少し嫌そうな顔をした。その後それを否定するかのように言い訳を並べた。
「どうせ継がなきゃいけないんだし、向いてるとか向いてないとかどうでもいいんじゃないの?」
言い訳を並べるブランディンに、フェリシアはそう言い放った。
「確か君も王になるんだったっけか。魔法もできて、性格もよさそうだし、君はきっといい王になるんじゃない?」
酷い扱いを受けていることを認めさせたいフェリシアに、ブランディンはそう言い返す。
「別にあたしは……まともに学校にも行ってないし、城を抜け出してこっそりギルドの仕事をしてた。あたしはほとんど周りに認められてないよ。ただ他よりマシってだけ」
「そんなんでも、か」
ブランディンからすれば、フェリシアは女王になるに相応しい人物に見えるだろう。だが、そんなフェリシアでも相応しい人物だと見られていない。それを知って、ブランディンは少し驚いたようだった。
「そんなもんだよ。完璧な王なんていない。みんなしょうがなくやってるんだから。……まあ、やらないって言い続けてきたあたしが言うのもなんだけどさ」
「やらないのか?」
「支持も得られないのにやってもしょうがないでしょ。今はあたししかいないって思って、どうにかやる気でいるけどさ」
「そっか」
フェリシアが言いたいのは、問題はブランディンにだけあるわけではないということだ。
確かに夜中に国を抜け出しているのはどうかと思うが、このガルムのことを第一王子に伝えていないというのはもっと問題だ。これは他国の王女としてではなく、今回の作戦を実行した魔法使いとしてこのことは言っておかないといけないことだとフェリシアは思った。
「じゃあ、リードたちと合流して戻ろう」
フェリシアがそう言った直後、二人と一頭はさっきと違う別の危険を同時に察知した。
「今度は何……?」
また不意打ちを狙った何か。だがそれはブランディンが仕掛けたものでも、ガルムが仕掛けたものでもない。
「もしかして……」
「何かわかる?」
「この森には、大きな魔力に反応して動き出す防衛システムがあるって……伝説みたいな、昔の話だから本当かわからないけど」
「なるほど……」
大きな魔力に反応する防衛システムだなんて、よくできたものだ。大きな被害が出るほどの魔法が使われた時に、その元を潰すようにできた防衛システム。しかもそれが昔のものだなんて、フェリシアは驚いていた。
「っていうか、そんなものがあるなら、もしあたしが本当にやりあってたらどうするつもりだったんだか……」
「迷信だって言われてるから……俺だって、本当にあるのかは知らないし……」
「そっか」
実際に見てみたい気持ちもあるが、つまりそれは今ここにその作動した防衛システムの攻撃がここに襲ってくるということだ。それはそれで困るなぁ……などと思っていると、その危険はもうすぐ目の前にやってきていた。
「どうやら、迷信は本当だったみたいだね」
「ああ」
周りが木々に囲まれているおかげで姿はまだ見えない。だが、気配は感じている。もうすでに周りは全て囲まれていて、戦う以外に選択肢は無くなっていた。
「これって、倒したらマズい?」
「うーん……本当に防衛システムなら」
「わかった。じゃあ、封印しよう。同じように、一定以上の魔力に反応して切れるような魔法で」
「できるのか?」
「できなきゃこんな提案してない」
自信に溢れるフェリシアを見て、ブランディンは「頼んだ」と一言言った。
「二人はお互いにお互いを守るんだよ、いいね?」
「わかった」「ガウッ」
一人と一頭にそう言うと、フェリシアはその二人を守るようにして一歩前に出る。
「さあ、あたしが相手だ。さっさと出てこい、古のゴミどもが……!」
急に人が変わったようにフェリシアがそう言うと、一旦弱まっていた魔力の気配がまた一気に解放され、周囲に威圧感のようなものを与えた。
これは先ほど飲んだ魔力増強剤の副作用だが、そんなことを知らないブランディンは驚きを通り越して引いていた。
だが、フェリシアの言葉に反応したのか、魔力に吸い寄せられたのか、その防衛システムは近付いてきて姿を現した。
その防衛システムというのは、昔の技術らしく岩と岩を繋ぎ合わせたようなゴーレムの集団のことだった。
大きくて見た目から威圧感たっぷりなのに、それに囲まれているとなれば、大抵の悪人は怖気付いてダメになってしまうだろう。そのまま殺されて終わりだ。
フェリシアが感じるに、魔力に個体差がある。そのことから、おそらく何人かは殺していて、それぞれハーフソウルを得ているのではないかとフェリシアは思った。
「結構古代的だけど、強そうだね、君たち。……でも、あたしには到底及ばない。ここで死ぬのは君たちだよ?」
フェリシアは徹底的にゴーレムたちを見下していく。
防衛システムと呼ばれるからには人間によって作られたであろうゴーレムたちは、怒りが頂点まで達したようで、いきなり魔法を発動させる。
その魔法は三人の足元に魔法陣を描いた。
そこから起こることを瞬時に予測したフェリシアは、その魔法陣を上から描き潰すように新たな魔法を発動させる。
爆発するようにゴーレムたちの魔法が攻撃を仕掛けたが、それは全てフェリシアが上に乗せた魔法によって防がれ、全く害がなかった。
「なるほどね……ただの麻痺魔法か。最初の攻撃としては有効なのかもしれないな。できるだけ傷つけずに捕らえることができる……よくできてるけど、面白くない」
フェリシアはそう言うと、手を上にあげて、それをすぐに振り下ろした。
すると、その動きに合わせて無数の雷撃がゴーレムたちに降り注ぎ、地面が削られるほどの衝撃が地鳴りとともに響く。
ブランディンは思わず身をかがめ、ガルムも耳を畳んで目を瞑り、怖がっている様子だった。しかしゴーレムはその雷撃を浴びてもまだ立っていた。
「意外と丈夫なんだ」
そもそもゴーレムに雷撃のような攻撃はあまり効かないし、全力を込めたわけでもない攻撃なので、立っていてもおかしくはない。フェリシアも倒そうと思って放ったものではない。
「でも、もうわかっただろ? あたしの方が強いって。お前らの攻撃は一つも当たっていない」
フェリシアが呑気に喋っている間に、雷撃の衝撃から立ち直ったゴーレムがフェリシアに向かって何か光線のようなものを放つ。
その光線はフェリシアから見て左右から一つずつ放たれていて、対処しなければ三人揃って消し炭になるだろうし、避ければ大きな爆発が起きてこの辺一帯が吹き飛ぶだろう。そうなれば三人もゴーレムたちもどうなるかわからない。
そんな状況でもフェリシアはニヤッと笑い、両手を光線にそれぞれ向けた。
光線が三人に達しようかというところで、光線は壁に阻まれ、そのまま吸い込まれて消えていった。これはフェリシアの相手の魔法を吸収して自分の魔力とする魔法だ。
「……ありがとよ!」
フェリシアはそう言うと、上空に飛び上がって大きな輪のようなものを出現させる。それを地上に下ろすと、その輪は全てのゴーレムを貫通し、ゴーレムたちは急に動かなくなった。
そしてゴーレムたちには鎖のような模様が浮かび上がった。
「……ふぅ」
魔力が回復して副作用も落ち着いてきたフェリシアは、ゴーレムたちの様子も見て一安心していた。
「これでいいんだよね? ブランディン」
「……あ、ああ……ありがとう」
ブランディンはフェリシアの凄さを感じるとともに、狂気やその力から来る恐怖も感じていた。
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