第22話 ノーム王国

 そしてフェリシアは、早速アリアノールから引き受けた仕事の場所に向かっていた。


 向かったのはノーム王国。集まりに代表として来ていたのは第一王子のブランディンで、その集まりでは反抗期感を丸出しにしていたようにも思える同い年くらいの少年だ。


 ノーム王国はクラッチフィールド王国とあまり変わらない、よく似た国だった。違うところと言えば、その大きさだろうか。ノーム王国の大きさはクラッチフィールド王国の四分の一ほど。王都より少し大きいくらいの大きさだった。


 ノーム王国がこれほど小さいのは、革命が起きて前の領土の半分ほどがホールデン共和国として独立し、その時にバラバラとなった地域が後にツリーヌ連邦王国によって統一されたからだろう。


 そんな過去を持つノーム王国で、まずフェリシアが向かうのはこの国の王のところだ。


 リードからアリアノールに頼まれたこととどこに行くかはフェリシアの父であるイーサンに伝わっていて、そのイーサンから各国に連絡が行っているらしかった。なので二人は、夜から朝にかけてノーム王国の近くまで飛び、朝になってから徒歩で王国に入った。


 わざわざ徒歩で入った理由は、このノーム王国が周り全てを塀で覆われているからだ。入れる入り口は東西南北それぞれにある入国審査場門のみで、そこは朝にならないと開かない。


 それでもアリアノールの城から歩いていくわけにもいかない距離なので飛ぶしかなく、飛ぶなら夜ということで、こんなスケジュールになってしまった。


 入国審査は顔パスも同然で難なく済ませて国の中に入ると、国の幹線道路に出る。そこは国で一番大きな道路なだけあって、道路沿いには多くの店が立ち並び、とても賑わっていた。


「すごい……賑やかだね」

「そうですね。入国審査場門の周りだからでしょうか」

「多分ね」


 道路の真ん中には車が通り、横の歩道を多くの人々が行き来する。朝からこれほどだとは思っていなかった。


「行きましょう。結構距離があるので、もたもたしてる暇は無いですよ」

「うん。行こっか」


 そして二人は、足早に国の中心部にある王のいる城に向かった。さすがに端から歩くのも時間がかかり、街を見て回ったのもあって、二人が城に到着した頃には朝から昼と呼ばれるような時間になっていた。


 城の周りは塀に囲まれていて、中を覗くことはできない。とりあえず正門に回ってそこにある窓口に説明し、中に入れてもらえるように頼んだ。一度は疑われたが、王に確認して二人が本当に怪しい人物ではないことがわかったので、二人はすぐ中に入れてもらえた。


 門をくぐって中に入ると、そこにはメイドと思われる人物がいた。


「お待ちしておりました、フェリシア王女」


 そう言うメイドに案内されて二人は城の中を進んでいき、そこからはあっという間に王の待つ部屋にたどり着いた。


「陛下、クラッチフィールド王国の方々がお見えになりました」

「ああ、通してくれ」

「はい」


 メイドは王の指示を仰いだ後、「どうぞ」と言ってフェリシアたちを部屋の中に入れて、自身は部屋から立ち去って行った。


「君がフェリシア王女か?」

「はい、初めまして。クラッチフィールド王国第一王女のフェリシア・クラッチフィールドです」

「初めまして、会えて嬉しいよ。私はノーム王国の王、グローヴァー・ノームだ」

「よろしくお願いします。陛下」

「ああ、よろしくな」


 そして二人は握手を交わす。その様子は国王と王女というよりは、国王と冒険者のようだった。


「話は聞いている。国としてできる限り協力するが……何かあるか?」

「いえ、特に何も。というか、何もしないでください」

「……そ、そうか」


 フェリシアにしてみれば、余計なことするなという気持ちだ。他人に頼んで厄介なことになったらということを考えると、一人でもできることなのでそれが最善だろう。


「強いて言うのなら、国の塀に沿って結界でも張ってもらえれば。まあ、それはギルドマスターに頼んでおきますので」

「わかった。これから行くのか?」

「ええ。これから会う約束をしているので」

「そうか。じゃあ、ギルドまで送らせよう」

「いえ、大丈夫です。目立ちたくないので」

「そう……か」


 王からみれば、フェリシアのこの行動は理解できないような行為だろう。わざわざその身一つで何があるかわからない街に出て行くだなんて。


「そういえば、あの、ブランディン王子は?」

「えっ? いや、今はおそらく……」

「どこかに出かけていかれました」


 王の代わりに答えたのはメイドの方だった。父である王でさえも行き先を知らないというのはフェリシアも同じような状態だったので理解できる。


「すまない。用ならすぐに連れ戻す」

「いえ、大丈夫です。いたら挨拶しようと思っただけなので」

「そうか。アイツはいつもこんな感じで……わざわざ挨拶しようとしてくれていたのに、すまない」

「謝らないでください。大丈夫ですから」


 周りに気を使って、常に自分がどう見えているかを考えて、礼儀もしっかりと……なんて面倒くさすぎる。フェリシアもそう思っている。


 正直この挨拶もしたくないのだが、ノーム王国のすぐ近くで魔法をぶっ放す可能性もあるので挨拶しておかないといけない。


 もし最初、父に言われていた通りのただ見て回るだけなら、大して何も話すことがないのに挨拶をしないといけないという苦痛が待っていたことだろう。


「それでは、準備がありますので、これで失礼します」

「ああ。よろしく頼む」


 そしてフェリシアは足早に城を後にした。


 今回のことはギルドマスターからほとんど話が通っているみたいだったし、わざわざフェリシアが説明するまでもなかった。挨拶も無駄足だったのかもしれない。


「ギルドまでは数分で着きます」


 城を出てからリードがそう言った通り、ギルドまでは本当に数分で到着した。


 ギルドの本部が置かれているこの場所は、一帯がギルドが所有する土地となっていて、この国の冒険者たちをまとめるだけの大きな施設が立ち並んでいる。


 例えば、魔物の情報や依頼を集める情報局、依頼を冒険者たちに振り分ける魔法局、規則に関する仕事をする法務局、新人の育成を行う育成局などだ。


 そしてその中心にある、全てを統括する本部棟に二人は入って行った。


 本部棟には重要な機密情報や魔法についての文書所蔵庫などがあり、ギルドの方針を決める幹部たちもいる。そんな最も重要な施設だと言っていいところだ。


 一応ライセンスの証拠としてあのマントを着ていたのだが、そのおかげでやたらと注目を浴びる結果となった。


 その代わり、それぞれの検問を通過する時はほとんど素通りすることができたのだが。


「あの、ギルドマスターと約束してる者なんですけど……」


 リードが本部棟の受付にいるスタッフにそう声をかける。


「お名前お伺いしてもよろしいでしょうか?」

「えっと……おそらく伝わっている名前はフェリシア・クラッチフィールドだと思います」

「かしこまりました」


 そう言うと、スタッフは手元にあった紙束をめくり始める。


「……クラッチフィールド王国の王族の方ですか?」

「私はその護衛ですが」

「そうなんですね」


 そんな会話をしながら紙束をめくっていくと、ピタッと手が止まったページがあった。


「確認できました。マスターはおそらく部屋にいらっしゃると思うので、担当の者が案内いたします」

「ありがとうございます」


 すると奥からリードに近付いて来る男がいた。おそらくこの男が担当者なのだろうとフェリシアは思い、リードの方に駆け寄っていった。


 担当者の見た目は細くて頼りないようだが、魔力量はさすがにギルド本部で働いているだけあってかなり多かった。フェリシアはその男をA級くらいだと見積もる。


「それでは、ご案内します」


 男がそう言うと、三人はあっという間に光に包まれた。転移魔法だ。

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