第20話 十二か国の代表

 アリアノールとの話が終わり、部屋に戻ってしばらくすると、急にフェリシアたちは光に包まれた。


 そしてその光が無くなって目の前に広がっていたのは、あの会議室だった。


「急だなぁ……準備できてたからよかったけど……」


 フェリシアは思わずそう呟く。


 そうしている間にも、会議室には続々と各国の代表が姿を見せ、全部で十二の国の代表が集まった。


 それから最後に聖王・アリアノールが姿を現し、全員が会議室の中心にある大きな円卓の周りに置かれた椅子に座った。


「さて、今回も集まってくれてありがとう。早速、始めていこうと思う」


 天井の高い会議室にはアリアノールの声がよく響き、その場にいる全員に緊張感が走った。


「それでは改めて、出席者をご紹介いたします」


 斜め後ろに立っていたアーノルドが、アリアノールの言葉を受けてそう言いながら一歩前に出る。


「まず、ライアン王国より、王太子ジョージ・ライアン様」


 名前を呼ばれたライアンは立ち上がって一礼した。


「続きまして、ルフン王国より、王太子ケール・ルフン様」


 次に呼ばれて立ち上がったのは、リードと同い年くらいに見える男だった。フェリシアとリードは五つほどしか年齢が変わらなかったはずなので、まだ同年代に入るのかもしれない。少なくともまだ若い王子だ。


「続きまして、ヴィーガス王国より、王太子シルヴァン・ヴィーガス様」


 こちらもまた王太子。でも、ケールよりさらに年上で、大人らしく落ち着いているように見える。こういう人が王になるんだろうな……とフェリシアは改めて感じた。


「続きまして、カナリア共和国より、外交長官アドルフ・マンテマ様」


 立ち上がったのは壮年の男だった。


 王国以外もあると聞いていたが、フェリシアが実際にその国の人を見たのは初めてだった。しかも外交長官というのも初めて聞いた役職。全て王の指示で貴族たちが動くというクラッチフィールドでは考えられないようなことだ。


 カナリア共和国には王家が存在せず、リーダーとして置かれている大統領が外交を担当し、民の中から選ばれた代表が集まる議会が国の政治を担当する。そんな仕組みの国だ。


「続きまして、ハフニスタ王国より、第二王子エルウィン・ハフニスタ様」


 今度は第二王子。王位継承順は二番目だろうか。それでも国々が集まる場を任せられるほどの信頼があるのか、それともここがそれほど重要でないのか……


 正直どっちでもいいが、どっちでもあり得るような人間だという風に見受けられるほど、エルウィンは信頼を置かれていてもおかしくないほど真面目そうな青年だった。


「続きまして、ネスカムケ連邦より、外務大臣イーデン・ホリングワース様」


 呼ばれた男は、眼鏡をかけた真面目そうな、いかにも優等生といった見かけの男だ。おそらく仕事は完璧で、空気を読むのも上手い完璧人間なんだろうな……とフェリシアは複雑な気持ちで姿を見つめていた。


 ネスカムケ連邦はいくつかの小さな国……大きな都市とも言える地域が集まってできた国で、カナリア共和国とは違って外交も国内政治も大統領と議会双方に権限があるような形。こういう時に出る代表はいるものの、基本的に大人数で話し合って国を運営している。


「続きまして、ノーム王国より、第一王子ブレンディン・ノーム様」


 こちらは打って変わって同い年くらいで、その年齢ならではと言っていいような絶賛反抗期丸出し、気だるそうにしていた。表には出さないが、フェリシアも気持ちは理解できる部分がある。なんとなく親近感がわいていた。


「続きまして、ツリーヌ連邦王国より、騎士団長コリー・エドメッド様」


 呼ばれた男は、いかにも騎士団長らしい、凛々しい屈強な男だった。


 王国と言っているだけに王族はいるのだが、直接国のことを指示することはないとか。王がいない国とやっていることは変わらない。


 でも珍しいのは議会が政府を、政治が議会をお互いに崩すことができる権限があるところか。王国から見れば辞めるという概念もないのでさらに珍しく感じる。


「続きまして、ザノーヴァ人民共和国より、フェアファクス・ママリー様」


 こちらはコリーとはまるで違い、目つきは悪いしどこか威圧的で、フェリシアはまず恐怖を覚えた。


 他の国からの代表も思うことは同じようで、あまり好意的に思っていないのが見えるような人もいるくらいだった。


 国としては実質独裁となっていて、わざわざ王政じゃ無くした意味がない。しかもその独裁に、王のように神聖な意味はない。


 これが異端だということもあって、王政を無くした国からも王がいる国からも好かれてはいない。なので、各国の代表から滲み出る非好意的な雰囲気が出ているのだろう。


「続きまして、ホールデン共和国より、外務大臣バーナビー・ゲンディ様」


 こちらはいかにもできる男感がすごい、金髪イケメン。誠実そうだが真面目過ぎず、この世に存在するのかというくらい理想の男。


 フェリシアは国の印象が決まるこの場にピッタリな人選だと思った。


 ホールデン共和国は大統領が大きな権限を持つような国だ。だが、政策を開始するためには議会の承認が必要で、その議会が必ずしも大統領に近い思想だとは限らないので、独裁とはなっていない。


「続きまして、シャットルワース王国より、公爵ロナルド・シャットルワース様」


 王の弟で、元第二王子。リードより少し年上くらいなのだが、それ以外特筆すべきものはあまりない。それくらい特徴がない、普通の青年といった印象だった。強いて言うのなら、魔力量がそれなりに多いことだろうか。


「最後に、クラッチフィールド王国より、第一王女フェリシア・クラッチフィールド様」


 最後に呼ばれたフェリシアは、他と同じように立ち上がって一礼した。


 礼をして顔を上げると、集まりに参加する唯一の王女ということもあってか、どこか注目を集めているような気がしていた。


「以上、十二名の皆様です」


 アーノルドによる紹介が終わると、アリアノールは一人一人に話を振って、それぞれが前回の集まりから今日までに国であった大きな変化や、それぞれの国から持ってきた特産品の紹介などを行った。


 話を振られる順番は紹介された順だったので、フェリシアは最後ということになった。


 聖王アリアノールが治める地域は人間が暮らす国々が集まる地域で、アリアノール自身も一応人間。世界を見るともっと他の種族がいて、それも結局は聖王が治めているのだが、アリアノールのこの地域にこれほど多くの国々があるというのは珍しいらしい。


 だが、王がいない国は過去に王国から独立した国々だ。つまり、このアリアノールが治める地域は元々もっと少ない国数だったわけだ。それでもこれほど独立した国があるのは、聖王が治める地域の中でも珍しいというが。


 なので、地域が大きいだとかアリアノールにそれだけの権力があるだとは、そういうわけではない。

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