第18話 勝負
アーノルドの魔法で飛ばされたその部屋は、広間と呼んでいるだけあって広い部屋だった。
豪華で目立つ装飾は無いが、床も壁も城の広間らしい綺麗なもので、窓から差し込んでいる光がその美しさを引き立てていた。
部屋の奥には壁に階段と踊り場が付いていて、テラスのようになっている踊り場の奥の壁に扉があり、さらに部屋が繋がっているようだった。
「本当に、ここで戦っていいんですか?」
「はい。普段からジョージ様はここで戦っておられますから」
「誰と? まさか、聖王と……?」
「そんなわけないですよ。妹とです」
「妹?」
フェリシアの質問に答えるように、ジョージと一緒にいた少女が顔を出した。確か、この少女はジョージのことをお兄ちゃんと呼んでいたような……
「私が妹のノアです。お兄ちゃんとはよくここに来て相手をしています。いつもお兄ちゃんが勝つだけなんですが」
「なるほど」
一応相手はいたようだったが、魔力が一定の年齢までその年齢に応じて増えるという仕組みをしているので、年下で子供のノアが相手をしてもジョージが勝つのは一般的に自然なことだ。さらなる相手を求める気持ちはフェリシアもわからなくない。
「じゃあ早速だけど、勝負しよっか。ルールはどうする?」
「どんなルールでやってますか? 普段は。やることもないかもしれませんが……やっぱり、一撃決着?」
「うーん……ほとんど勝負なんてしないけど、どちらかが降参するまでってルールでやってる。もちろん、審判の判断でも止められるようにはできてるけど」
「いつもそんなルールで……」
「一撃当てるまで、だと……ちょっと困るから」
「なる……ほど……?」
ジョージはあまり意味がわかっていないようだった。でもそれはすぐにわかる。
「じゃあ、そのルールで行きましょう。お互いを殺さないようにだけ気を付けて」
「わかった。でも、審判は誰がやる?」
リードがやるにしても、ノアがやるにしても、どちらかに有利な判断を下す可能性があり、不平等。となるとアーノルドがやることになるが……そこまで任せてもいいのだろうかという考えがよぎる。一応、他の国の代表たちの面倒も見ないといけないという雰囲気だけは出ている。
「俺がやろう!」
広間にそんな声が響いた。
声がした方を見ると、階段の上にある扉の前に、ジャケットを羽織った青髪の男がいるのが見えた。
「アリアノール様……!」
その男の姿を見て、ジョージはそう呟いた。
あれが……聖王……
その場にいるだけで、圧倒的な存在感がある。それはおそらく魔力によるものだが、この魔力なら同じ城にいるだけで感じるはず。それでも感じなかったのには、何か理由がある。フェリシアは、その理由を知りたいと思った。
「その勝負、俺が審判をしよう。ジョージがノア以外にどれだけ戦えるか、クラッチフィールド王国の王位継承者がどれだけの実力なのか、知っておきたいしな」
アリアノールは、そう言いながらフェリシアたちの方に歩いてくる。
「よろしくお願いします」
「ああ」
そしてフェリシアとジョージは階段がある方を横目に広間の両端に位置取り、他は階段を上がった先の踊り場で勝負を見守ることになった。
「それでは、これよりライアン王国王太子、ジョージ・ライアンと、クラッチフィールド王国第一王女……」
アリアノールはそこまですらすらと話したが、そこで言葉に詰まってしまった。そう、アリアノールはフェリシアのことを全く知らないのだ。だから勝負を見たいと言ったのだが……
「……フェリシア・レイ・クラッチフィールドです」
「すまない」
「大丈夫です」
気を取り直して、アリアノールは開始の合図を再開する。
「……クラッチフィールド王国第一王女、フェリシア・クラッチフィールドの試合を始める」
その言葉に合わせて、二人は視線を合わせる。
「お互いに降参するか、俺が危険だと判断したらこの勝負は決着する」
アリアノールの声が広間に響く。より神経を研ぎ澄まして集中しているからだと思うが、威圧感のようなものが声から滲み出ているおかげか、フェリシアでさえも少し緊張していた。
「それでは、始め!」
さらに大きく響いたアリアノールの声で、二人の勝負は始まった。
まず最初に動いたのはジョージの方だった。
ジョージは右手に大きな火の玉を生成し、それをフェリシアに向ける。すると、その火の玉から小さな火の玉がいくつも放たれ、フェリシアに向かっていく。
速さも量もかなりのものだったが、フェリシアは横に走ってそれを全てかわした。かわしたことによって火の玉は全て床に叩き付いて消え、床には少し焼け焦げた跡が残った。
「まだまだ……!」
ジョージは続けて今度は横一線に小さな火の玉を一気に放ち、左右に動きながらじりじりと近づいて来ていたフェリシアを少しでも遠ざけようとする。さすがにこれ以上近付けば危険と判断したフェリシアは、足を止めて後ろに跳んでかわした。
下がったのを見たジョージは、同じ横一線の火の玉を何重にもして放ってきた。
「これはさすがに避けきれないだろ……」
ジョージはこれで仕留めたとも正直思っているような自信に満ちた表情をしていた。
フェリシアは火の玉たちを同じように避けていくが、さすがに量が多くて足が縺れ、転んで床に倒れこんでしまった。
「っ……」
続けてジョージは畳み掛けるように、上から電撃を降り下ろした。
「うっ……!」
フェリシアの姿は発生した黒い煙で見えないが、先ほどより大きなうめき声が聞こえ、ジョージは勝ったと思って笑みを浮かべる。
煙が薄くなり、フェリシアの姿が影の状態だが見えている。その姿は立ち上がっているように見えるものの、フラフラしていてもうとても戦えるようには見えなかった。
ジョージはその様子を受けてアリアノールの方を見るが、一向に止める気配はない。
「まだやる気なのか……?」
そう呟くジョージに、今度はフェリシアが笑みを浮かべる。
「いつまで続ければいいの? この勝負は」
「え……?」
煙が完全に消え、フェリシアのことが鮮明に見える。その身体には、傷一つ無かった。まるで今までの魔法が全て無かったかのように。
「嘘だろ……?」
「嘘じゃないよ。まだ続ける? この勝負」
「……ああ。続けてやろうじゃないか」
ジョージは悔しかったのか、ここまで魔法が全て無かったものにされたというのに降参せず、勝負を続けた。
そして放った魔法は、先ほどまでに放っていた火の玉の上位互換のような魔法だった。
ジョージの頭の上に、勝負の最初に生成したような大きさの火の玉が無数に現れ、そのそれぞれからフェリシアに向けて一斉に火の玉が光線のように発射される。
フェリシアは表情一つ変えず。両腕を横に広げて何かを下から持ち上げるような動きをした。それに合わせるようにフェリシアの前には水の幕がせり上がり、そこに炎の玉が全て吸い込まれ、水蒸気が発生する中で消える。
だが攻撃はそれだけでは終わらず、フェリシアが幕をせり上げたタイミングで威力が上がった雷のような電撃が降り注ぐが、フェリシアはそれも瞬時に反応して避ける。
極め付きは部屋を破壊したいのかと思える威力をフェリシアが感じた、真っ白な太い光線。
これは避けたら城が壊れる予感がしたので、フェリシアは右手を前に出して光線の中心に合わせ、受け止めようとする。これが失敗するはずもなく、右の手の平に発生させたシールドで光線を防ぎきるどころか光線自体を吸収し、フェリシアは怒涛の連撃を全て受け流した。
「じゃあ、終わらせますか」
フェリシアはそう呟き、適当に魔力を詰めた球を片手で生成する。
「……降参します。俺の……負けです」
ジョージはフェリシアの魔法が発動されるより前にそう呟き、勝負は終わりを告げた。
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