第17話 聖王の城
そして二人が到着した頃には、もう日が昇っていた。
聖王アリアノールの城は、治める地域の中心部にある山の頂上付近にあった。
国にある城のように周りが街に囲まれているわけではないので、どこか味気ない。それでも城は大きく、壮大なものだった。
二人は城の門の前に降り立ち、いるはずの門番を探す。
すると急に門が開き、空から見ても大きかった城が目の前に広がる。
少し不審に思ったが、二人は門をくぐって中に入った。
「おっきい……」
「さすが聖王……」
二人が口々にそう呟いていると、急に目の前に男が現れる。
「お待ちしておりました、フェリシア様」
「あ……すみません、こんな時間に」
「いえ。お忙しいでしょうし、夜の方が目立たないですしね。こちらはいつでも構いませんので」
「ありがとうございます」
現れた男は、そのままフェリシアたちを城の中に案内していく。
「改めまして、アーノルドと申します。聖王アリアノール様に仕えている者です。どうぞ、お見知り置きを」
「よろしくお願いします」
そういえば本人の口から名前を聞いたことは無かったな……とフェリシアが考えていると、いつの間にか広い会議室の中に移動していた。
「急に……」
「転移魔法か……」
「はい、そうですね。城内は広いので、大抵は転移魔法で移動しています」
「なるほど」
会議室には中心に丸い机が置かれ、その周りに椅子が等間隔に十二個置かれていた。ただ今は早朝のため、誰も人はいなかった。でも天井に張られたガラスから差し込んで来た光が照らす会議室はとても幻想的で、フェリシアは聖王の城だというのを改めて実感したような気がしていた。
「ここが会場ですが、時間になったらお呼びしますので一旦別の部屋でお待ちください」
アーノルドはそう言ってもう一度転移魔法を使い、今度は城のどこかにある廊下に飛ばされた。
目の前に現れたのは大きな扉で、アーノルドはその扉を開けて二人をその部屋に案内した。
その部屋は応接室のような部屋で、低い机とソファ、大きな窓に、部屋にはそれなりの装飾がされていた。明かりの役割をしているシャンデリアは消されていて、部屋の中はフェリシアにとってほどよい明るさだった。
「何かあればお呼びください。一応、お聞きした要望通りの部屋にはしておきましたが」
「要望?」
「私が答えておきました。豪華すぎる、眩しいといつも言うので」
「あー、なるほど。ありがと、リード」
「誰よりも分かっているつもりですから、本人以外では」
「確かにね」
この部屋には満足しているし、リードがフェリシアのことを一番理解していると言っても過言ではないのはフェリシアもわかっている。それほど信頼しているというのが誰から見てもわかる様子だった。
「それでは、お疲れでしょうから、私はこれで」
アーノルドはそう言って部屋を出ていった。
「……すごいね、聖王って」
「そうですね」
「城も大きいし、十二個もの国をまとめるなんてなぁ……どんな人なんだろ」
「すぐにわかりますよ、多分」
「そうだね」
フェリシアはリードと少し話をすると、さすがに疲れがあったのかすぐに眠ってしまった。
「……きてください、起きてください」
リードに揺さぶられて起こされた時には、窓から差し込む光はより眩しくなっていた。
「ん……リード、どうしたの……?」
「お客様です。廊下で待ってもらってるので、整えてください」
「大丈夫。入れていいよ」
フェリシアは髪を手櫛で整えた後、服を叩いてシワを伸ばしながらリードにそう指示をする。
リードはすぐに扉を開け、その『お客様』を部屋の中に入れた。
入ってきたのは同い年くらいの少年。あと、それより幼く見える少女。おそらく少年が会議の参加者なのだろうが、もう一人の少女が何なのかがよくわからない。
こういう場に付いてくる召使いは、世話をする人か護衛をする人。でも、少女はどちらにも思えないというか……むしろ世話されていて守られているのは少女のような気もするくらいだ。
もしかして、少女の方が参加者……? そんなわけ……
フェリシアはすぐ冷静になって考える。今部屋に入ってきた時のことを思い出してみると、先に入ってきたのは少年の方だった。おそらく先に入るのは用がある本人で、会議参加者だろうから、少年の方が国の代表だろう。そう結論を出し、少年のことを見た。
「何か用ですか?」
「え、えっと……勝負してください! 俺と! 魔法で!」
「えっ?」
急に何を言うのかとフェリシアは一瞬動揺した。
「お兄ちゃん、急に用件から話したら怪しすぎるでしょ!」
「え、いや、でも……」
「でもじゃないって! ほら、早く名乗って」
少女が見た目に反して、少年を注意する。少年はそれによって少し改まって話し始める。
「急にごめんなさい。俺は、ジョージ・ライアンって言います。ライアン王国の王太子です。それで、その……」
やはり少年が国の代表だったようだ。
「何で勝負したいの? あたしと」
「それは……あなたが今日来る中で一番強いって聞いたから」
「アーノルドが?」
「はい」
さすが聖王の部下と言うべきか、魔力を隠していてもその強さは把握しているようだった。飛行魔法を使ってここまで来たということを知っていれば話は別だが。
「ふーん。じゃあ、逆に君は強いの?」
「それを試すために、勝負がしたいんです」
「なるほど」
確かに、城の中にいるだけでは自分の実力は分かりづらい。戦えるくらい魔法が使えて殺さないくらいの調整ができる者がそもそも少ないし、仮にいても気を使って手加減する。本気で勝負することなんてほとんどない。フェリシアだって、本気で勝負したことはない。
「いいよ。しよっか、勝負」
「ほんとに!?」
「うん。まあ、君の実力がどれくらいなのか知らないけど」
「ありがとう……ございます!」
ジョージの子供らしくパーッと明るくなった顔が、フェリシアにはとても眩しく感じた。こんなにも嬉しそうに、楽しそうな表情をするんだな……と。
「そういえば、あたしがまだ名乗ってなかったね。あたしはフェリシア。フェリシア・クラッチフィールド。一応、第一王女」
「クラッチフィールド王国の……?」
クラッチフィールド王国は、一応アリアノールが治める地域の中では一番大きくて発展している国だ。ジョージはそんな国の代表に勝負を挑んでしまったと少しビビっているようだった。
「まあでも、ほぼ同い年でしょ? 表向きなものじゃないし、そんな硬くならなくても……」
「そう……だね」
当然フェリシアも会議では印象が違って見えるだろうし、ジョージだってこんな勝負を挑んだり、多少子供っぽい面を見せたりもしない。お互いの公じゃない顔を見たわけだし、今更緊張し始めてももう遅い。
「そういえば、勝負ってどこでやるの?」
「勝負なら城の最上階の広間をお使いください」
フェリシアの疑問に答えたのは、アーノルドだった。
「いつの間に……」
「今さっき来たところです」
「そっか……」
今さっきなら、気付かなくてもしょうがないのかもしれない。でもアーノルドも少し狙ってやっているだろうとも思える。
「とにかく、勝負なら最上階の広間で。今すぐ移動されますか?」
「会議までは……」
「問題ありません」
「じゃあ、お願いします」
フェリシアがそう言うと、アーノルドはすぐに転移魔法を使ってその広間に全員を移動させた。
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