第15話 移動手段
翌日、リードが出発の手配を行っていると、その部屋にフェリシアが駆け込んで来る。
「リード、もう決まっちゃった?」
「いえ、これからですが」
「いいこと思いついたんだ、これなら飛んで行ける!」
「まだ諦めてなかったんですか?」
「うん。楽な方がいいじゃん? お互いに」
移動手段は車になるだろうが、乗ってる方も運転する方も大変だというのはわからなくもない。だが、仕事を奪われることにも繋がるため、一概にそれがいいとは言えない。
「まずあたしが飛んで行って、そこに魔法陣を作る。すると、あたしの部屋にある魔法陣と繋がって、そこからリードを呼び寄せられる」
「確かに可能ですし、負担は減るかもしれません。ですが、一人で行かせるわけにはいきません。王女なのですから」
「気付いちゃったか……」
「気付かないはずがないでしょう」
「でもさぁ……」
「まず、荷物はどうするんですか? 一応、それぞれの特産品を持ち寄るっていう……」
「それは大丈夫。あたしの領域に入れちゃえば問題ない」
特に不可能と思われる問題もない。あとはリスクをどう取るかだけ。でもそれがとても大きな問題になる。
「……じゃあ、私も一緒に行きます」
「え? 今なんて……」
「だから、一緒に行きますって」
「一緒に行くって……?」
「そのままです。私も一緒に飛んで行きます」
「え、えぇ……!?」
フェリシアも思っていなかった展開だ。それもそうだろう。飛行魔法は高度な術式で、S級ライセンス持ちくらいの実力が無いと難しいと言われている。リードにそんな実力があるなんて聞いたこと無かったし、考えたこともなかった。
「一応、私も飛行魔法は使えます。ライセンスはAですが、それも十年以上前の話なので、また変わっているかもしれませんし」
「ライセンス、持ってたんだ……」
「ええ。あなたに仕えることになって、国外で魔法を使わなければならないこともあるだろうと、とりあえず」
「十年以上前って……もうSになっててもおかしくないんじゃ……」
「そうですが、また取りに行く暇もないですし、手間もかかるので」
リードが嘘をつくはずもないし、本当のことなのだろうけど、フェリシアは信じがたかった。
「もしかして、ソウルとかも……?」
「まあ一応。詳しいことはまた今度でいいですか? 計画を練り直す必要が出てきたので」
「わ、わかった」
そしてリードは会議していた部屋から出ていった。
「……すみません、急に計画変更なんて」
フェリシアはその場にいた運転手を務めるはずだった中年の男にそう謝罪した。
「いえ、大丈夫です。車でこの距離なんて、負担が大きいですよねって話していたところだったので」
「そうですか……ありがとうございます」
男は嫌な顔一つしていなかった。フェリシアは丁重に謝り、リードと同じように部屋を後にした。
それにしても、まさかリードも飛行魔法を使えるとは誰も思っていなかった。フェリシアが見ても、魔力量が多いとは思えなかったし、隠しているにしては量が中途半端に多い。
普通、隠すなら平均かその前後くらいまで残しておくはずなのに、リードの魔力量はかなり多いに入る部類の量だ。でも、その魔力量で飛行魔法が使えるかというと、それほど長く飛んでいられるとは思えない。
ソウルも持っているらしいけど、それがあってのこの魔力だしな……などと、フェリシアは思考を巡らせていた。
「もしかして……」
フェリシアには、一つ心当たりがあった。可能性としては低いが、無いとはいえない。
でも何というか、それを聞くのは少し気まずいような気もして、相手から話すまでは確認が取りづらい。
とりあえずその考えは端に置いておくとして、フェリシアはリードを探した。
十分ほど探していると、王の部屋から出てくるリードと鉢合わせた。
「リード、ここにいたんだ」
「はい。まあ……計画には陛下の許可が必要ですから」
「確かにね。だったらあたしが行ったのに」
「いえ、いいんです。私が話した方が心の負担も少ないでしょうし」
「そうだね。でも、ありがと」
二人はそんな会話を交わしながら、フェリシアの部屋に向かう。
「それでどうなったの? 父上の許可、取れた?」
「はい。移動の負担を考えて、飛行魔法を使うことの許可を頂きました」
「よかった」
まずフェリシアは一安心した。おそらく王はこうなることを予想していなかっただろうが、メリットを考え、リードから説明されたリスクへの対処法を加味して、許可を出さないということはできなかったのだろう。
「あとはしばらくアリアノール様の治める地域内なら旅をしてもよいとのことです」
「えっ、ほんとに!? 旅をさせよって本気だったんだ……」
「みたいですね」
他の国々も見て、次期国王として少しは交友関係を作って来るというのが今回フェリシアが会議に出席する理由だ。フェリシアも他の国々に興味があったが、それ以上に魔物や聖王にも興味があった。
「そして、これは私からのお願いなのですが……」
「どうしたの?」
「出発を、できれば夜の時間帯にしていただきたいのです」
「夜? 別にいいけど、何で? 晴れてればいいけど、曇ってたら視界が悪くなるだけだし……」
「理由はその時でいいですか? ここだと……少し」
「わかった。どうせ気配で危険はわかるし、方角もなんとなくわかる。夜でもいいよ」
「ありがとうございます」
「でも、絶対説明してよね?」
「はい。もちろんです」
リードにも何か考えがあるのだろうと、フェリシアはそれを受け入れた。まさかないとは思うが、仮にリードが何か企んでいたとしても、フェリシアの力をもってすれば大抵のことは大丈夫だ。相手が聖王級じゃなければ。
「じゃあ、何かすることある?」
「そうですね……持っていく特産品の選定、お願いします」
「わかった」
フェリシアはリードから候補のリストを受け取り、ペラペラとめくっていく。
「これって、どうするの? その場で出すの?」
「はい。各国の特産品などを紹介して、運が良ければ貿易に発展することもあるとのことです」
「結構大事ってことね……父上はなんて言ってるの?」
「任せる……と」
「えぇ……自分の国のことじゃないの……?」
「まあ……もう既に貿易できるものは貿易してますし、戦略的なものも無いのでしょう。一応リストだけは作ってもらったので、この中から選びましょう」
「……わかった」
フェリシアはそう言って、リストを持って自分の部屋に行ってしまった。
リードは選定をフェリシアに任せて、二人は別れた。
部屋に戻ったフェリシアは、ベッドに寝ころびながらリストを眺める。
「農産物……工業……文化……こんなあったっけ、特産物」
今まで気にしてこなかったことだったので、改めて国のことを知ったような気がしていた。
「どんなのが好きなんだろうな……会議の人たち」
そもそも、どんな人がそれぞれ来るか全くわからない。たとえわかったとしても、その人の好みなんてわかるはずもないが。
リストにあるのは、農産物や畜産物、海産物にその加工食品、工業製品に、文化的な品々。どれもこの国の特産とも言えるものが並んでいたが、多すぎて選ぶことができない。しかも、ほとんどがわざわざ紹介するまでもないほど有名なもので、既に輸出されているものもある。
「とりあえず、食べられるものは加工品だけかな、持っていけるのは。工業製品はその道のプロが説明するべき。文化的なものは……紹介してどうするって感じかな……押し付けるわけにはいかないし……とりあえず持っていけそうなものにしよう」
そうは言うものの、その条件下でもかなり多い。
「持っていきやすい小さいやつ……お菓子とか……? いや、でも、いまさらすぎるよね、お菓子なんて観光客に散々買われていったし……あ、これにしよう」
フェリシアはお菓子の下にあったものに目を止め、即決した。
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