2 聖王からの依頼
第14話 聖王の使者
それから数日が経ち、フェリシアとリードの二人はどうにか大きな魔力消費があってもソウルを抑え込める方法を考えた。
やはり魔力増強剤とドラゴンというのが有効手段だったが、どちらも実現は難しい。大きな魔力消費をしないという方法しかできることはないが、それでは国の戦力損失となる。なので二人は、いっそのこと王に伝えることにした。
どう思われたって、どうなったっていい。フェリシアにとって魔法はかけがえのない自分の一部で、それを使えないということは生きがいを失ったようなもの。言い過ぎかもしれないが、死んだようなものだ。
「ほんとにいいんだよね」
「こうしないと、幸せにはなれないでしょう? 何をしても」
リードはそう言ってフェリシアを後押しする。
「やっぱり優しいんだね、リードは」
「まあ……小さい頃から知ってますから、それくらいの愛情はありますよ」
「ありがと」
そして二人は王の部屋までやって来た。
「行くよ」
その声にリードが頷き、フェリシアは迷うこと無く扉をノックする。
「父上、よろしいでしょうか」
扉越しにそう言うと、何を言っているのかはわからないが中で何か話しているのが少し聞こえる。普段いる人ではない人の声で、どうやら客人が来ていたようだ。
「タイミング悪かったかな……」
フェリシアはそう呟く。
「一旦下がりましょうか」
「その方がよさそうだね」
そう言って二人が部屋に戻ろうとした瞬間、部屋の中から「入れ」という王の声が聞こえてきた。
「……失礼します」
フェリシアは気持ちを整えて、王の部屋に入る。
部屋の中には王とその側近の公爵家当主、そして客人と思われる見慣れない男がいた。
「すみません、お邪魔して」
「いや、大丈夫だ。お前が来ることは珍しいからな。話があるなら話しておきたい」
「そうですか」
どうせ話しても聞いてくれないくせに。
フェリシアは心の中でそう漏らしながら、話を続ける。
「できれば、二人だけで話したいんですけど」
「そうか。じゃあ、少しそこで待っていろ」
「わかりました」
王に指示され、フェリシアはその部屋にあるソファに座って客人の話が終わるのを、その話を聞きながら待った。
「それで、何だったか?」
「ですから、会議に出席していただきたいのです」
「わざわざそれを言いに来たのか?」
「ええ。アリアノール様は用心深いので、あまり通信の記録を残したくないとのことです」
「なるほど……」
話を聞くに、偶然にもすごくタイムリーな内容だった。
この国を含む地域を治める聖王、アリアノール。客人はその使いで、その地域の国々を集めて何やら会議を行うらしい。王の反応からしてよくやっている会議のように見えるので、それほど重大なことを話し合う場では無さそうだ。
「あの会議、王が行く必要無いんだよな……一応」
「そうですね。国の代表ならばどなたでも構いません。今回は王自ら参加する国はあまりありませんね、ちょうど花が見頃だからでしょうか」
「どうだろうな……」
ただ面倒なだけじゃん……とフェリシアは思わず呟きそうになってしまった。
「じゃあ、今回は代理を送ろうか。いつもあそこで会う王たちもこの前会ったばかりだし、話すことも無いだろう」
「かしこまりました。そのように準備しておきます」
「ああ。そうだ、フェリシア行ってくれるか?」
「えっ?」
急に話を振られて、フェリシアは言葉に詰まってしまう。どうにか落ち着いて立ち上がり、王の前まで向かって抗議する。
「何で私なんですか!? 私、国から出たことも無いのに……」
「だからだ。大丈夫だ。どうせ近況報告をするだけ。外の世界を見るにはちょうどいい」
「そう簡単に言わないでください」
「学院にも行かないんだから、やること無いだろ?」
「そう……ですけど……」
その話をしに来たのだが……フェリシアは話す隙を無くしてしまった。
「可愛い子には旅をさせよ……だったか? セレス」
「ええ、まあ」
「だから行ってこい、フェリシア」
「それって……」
冒険者になってもいい……ってこと!?
一瞬希望を抱いたフェリシアだったが、結局それも一時的なことで少しだけ時間を提供してくれただけにすぎない。と希望を一瞬にして捨て去った。それでも、少しでも時間をくれたことが大きな一歩だと思った。
「どうかしたか?」
言いかけてそのまま黙ったフェリシアに、王はそう声をかける。フェリシアはすぐに首を横にブンブン振って、「なんでもない」と答える。
「本当に、私でいいんですか?」
「この国で私の代理を務められる人物なんて限られている。セレスか、アッシュか、フェリシアか、それくらいだ。セレスは長男の婚姻が迫っているし、アッシュは体調を崩しやすい。わざわざ私が行く仕事でもない。そろそろお前にも仕事をしてもらわないと困る。私も歳だからな」
やっぱり、あたしが王位継承者っていうのは変わらないんだよね。
フェリシアは心の中でそう呟く。
「行ってくれるか? フェリシア」
「……わかりました」
「本当か? 断られると思っていたが」
「どうせ王の権限で強制的に行かせるつもりだったんでしょう?」
「人聞きが悪いな。まあ、間違ってはいないが」
王は咳払いしてそう返すが、話の流れとして元々考えていたわけでもあるまいし、嘘を言っているのではないかとフェリシアは疑った。本当は、強制的に行かせるなんて考えていなかった……とか。今までの対応からしてそんなわけがないとも思えるが、フェリシアは少し違和感を覚えた。
「じゃあアーノルド、そういうことで頼む」
「かしこまりました。クラッチフィールド王国代表・フェリシア様、よろしくお願いいたします」
「よ、よろしくお願いします」
フェリシアはアーノルドと呼ばれた聖王の使者にとりあえず挨拶しておいた。聖王の使者で聖王ではない人物にどう対応していいのか悩んだが、おそらくこれで間違ってはいないだろう。フェリシアが見た感じだと、この使者の魔力量も相当なものだった。強い奴は下に見ない方が身のためだ。
「それでは失礼いたします」
そう言って、アーノルドは王の部屋を後にした。
「それで、話って何だ?」
「……いえ。大丈夫です、また今度で」
「そうか」
話すチャンスを失ってしまった上に、何て言っていいのかわからなくなってきていた。そのためフェリシアはそれを後回しにしてしまった。
「それでは、失礼しました」
そう言って部屋を出ようとするが、フェリシアは何かに気付いたように扉の前で足を止めて振り返る。
「キャントレル公、息子さんの結婚……おめでとうございます」
ニコッと笑ってそう言い、今度こそフェリシアは王の部屋を後にした。
ずっとフェリシアの後ろで見ていたリードは、王から会議の詳細が書かれた紙を受け取ってその後を追う。
「よかったんですか? 言わなくて……」
「別にいい。何ていうか、今じゃない気がする。会議に行くならどっちにしろ薬は作れないし」
「そうですけど……」
これじゃあ、ただ行って仕事貰ってきただけになる。これはもうしょうがないことだが、もしかして、この話を見込んでわざと振ってきたんじゃ……という思考が一瞬フェリシアの頭をよぎる。
「そんなわけないか……」
仮に読まれていたとしても、それはフェリシアが言い出すことを完全に防ぐということには繋がらない。ただ少し遅らせるだけ。わざとそんな面倒くさいことをするはずがないようにも思える。
「どうかしました?」
「ううん。なんでもない」
リードは不審に思うが、いつものことなのでそれ以上気にすることはなかった。
「それで、いつ行くの?」
「数日以内には出発したいですね」
「あたし一人だったら飛んでいけたのに」
「まあ、ゆっくり行きましょう」
「うん」
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