第13話 王になんてなれない

「そんな感じで、あたしにはナーちゃんのソウルが宿ってた。ソウルは、その人が持つ魔力で抑え込まないと使えない。しかも今はアルマ……ナーちゃんの仲間のソウルも宿った」

「術式で魔力が減少し、制御できなくなったということですか?」

「そう。実技補修、高速飛行往復に、アルマに浴びせた電撃、痛みなく殺すために精錬した魔力、父上の部屋まで走ったのもある」


 実際には制御できるかギリギリのところだった。


「本当は父上にもっと言ってやりたかったけど、ソウルが暴走したら元も子もないし。急いで戻って薬飲んで、今は安定してるから大丈夫」


 ぐったりしているように見えたのは、抑え込もうとそっちの方に意識を集中させていたからだ。


「ソウルを持つ以上は付きまとってくる問題ってことですか」

「まあ……そうだね。そもそも、古代型キツネズミ自体が強い魔物だから、その分ね」


 そもそも、普通ならキツネズミのソウルを宿しておくことすら難しいことだ。


「解決法って……」

「今は増強剤しかない。だから、ギルドからあった依頼のついでに材料集めて、強い薬作ろうとしてたんだけど……もう無理そうだね」


 王にバレて、ギルドとの約束ももう無くなるだろう。依頼が来ることもない。森に行くことも前に比べて怪しまれるようになる。研究を行っていた場所にも行きづらくなるだろうし、より強い薬を作るということはできなくなっただろう。


「やっぱり、今あるものでは難しいですか」

「うん。今だけで二十とか三十とか飲んでたし、副作用も強いし」

「副作用?」

「そう。なんていうか、興奮するっていうか、気がおかしくなる」

「えっ……?」

「だから今のも上手く説明できなかった。ごめん」

「いえ、大丈夫ですが……」


 確かに天才と呼ばれるほど魔法以外も秀才の王女にしては、話のまとめ方が雑というか、とにかく話が下手だった。リードがまだ話の一部を知っていたから理解できたようなものかもしれない。


「普段はどうしていたんですか? 森に出た時は」

「あんまり魔力が減ることは無かったけど……少なくなったら食べてたかな、お菓子みたいに」

「そうだったんですか……」


 リードは昔からフェリシアのことを知っていたが、そんなリードでもまだ知らないことがあったことがまず驚きだった。しかも、そんな重大なことを隠していたなんて。


「一応、既存の薬の複製はできてたからさ、どうにかなってた……そういえば、もうそれもできなくなるのか……ほんとにどうしよ」


 フェリシアはそう呟く。


 今の薬じゃ足りなくて、でも新しい薬も作れなくて、そもそも魔力がものすごくあるフェリシアは既存の薬すら手に入らなくなる。もうフェリシアは魔法が使えなくなる……のかもしれない。普通に生活する分には問題ないが、有事の時に戦える戦力でもあったフェリシアが、そういう時に魔法が使えなくなるというのはかなりの損失だ。


 だがフェリシアは、どうせ父上に言っても王女が戦うなんてもっての外と言われるんだろうな……ともう諦めていた。


「じゃあもう、解決する方法は……」

「無いね。あったらもうやってる。元々根本的に解決できるもんじゃないし」

「そう……ですよね」


 リードは自分の無力感を感じて申し訳なさそうな顔をした。


「ドラゴンのソウルでも宿せれば、話は変わってくるんだけどね。まあ、どうしようもないことだから、リードもそんな顔しないで」

「はい……でも、ドラゴンのソウルで変わるんですか? むしろキツくなるんじゃ……」

「今のままでも、ドラゴンソウルを抑え込むことはできる。加えてソウルの効果で魔力量が大幅に増えるし、魔力回復量も増えるから循環性能も上がる。あたしの場合だと、返ってくるものが大きい」

「そうなんですか……」


 さすがドラゴンなだけある、といった効果をしたソウルだ。魔力量が増える上に回復量が増えて回復速度が上がるなら、術式に込める魔力量も増やせて威力も上がる。なかなかすごいソウルだ。


 その分抑えるための魔力はかなり必要だが、フェリシアにとってはそれほど大きなものではない。


 今日はフェリシアの想いが勝ってしまって、痛みを感じずに瞬殺する高度な術式を使ったから一度に消費する魔力が大きくなり、そんな中でソウルが増えたため、回復が追い付かなくなっただけ。普通に戦う分にはこんなに魔力が減ることはない。


「でも、父上は見過ごせないだろうからさ」

「そうですね……ドラゴンのソウルを宿せば……」

「聖王が見えてくる」


 この世界には、国々をまとめる十二人の聖王と呼ばれる人物たちがいる。彼らはそれぞれいくつかの国を束ね、世界の安定を担っている。国同士の喧嘩を仲裁したり、魔物たちによる森の異変を解決したり、逆に色々と起こしたり、聖王同士で喧嘩したり……色々やっている。


 そして聖王たちには寿命が無く、次の聖王候補と戦って負けた時に死を迎える。その聖王候補になるためには、聖獣と呼ばれる魔物のソウルを三種類獲得する必要がある。キツネズミは古代型に限って聖獣と言われていて、ドラゴンは当たり前のように聖獣だ。


 キツネズミはフェリシアが獲得した時点では聖獣と言われていなかったが、それから聖王たちの間で聖獣だと決められた。それからフェリシアは、少し聖王というのを意識し始めた。


 ドラゴンのソウルを宿せば聖王まであと一歩となってしまい、聖王となれば国王になるのは難しい。フェリシアがキツネズミのソウルを宿していると知ったからには、王は警戒するだろう。


 聖王となれば国として優位に立てるとも思われるが、聖王になるために戦って死ぬかもしれないし、なっても後継ぎがいなくなって国が終わる。国民からしたら聖王の印象はあまりよくないので両立はおろか、狙っているだとかいう噂が出ただけで王座は危うい。


「個人的には聖王にあまり悪い印象はないですけど、認めてくれるとも思いません」

「うん。まあ……一番は民の印象を気にしてるんだよ。聖王は戦争しようとする野蛮な奴らっていう印象があるから。それから派生して、力を持つ者に恐怖を感じるんだよ。まず父上もあたしにそう感じてるかもしれないし」


 若い人たちはリードのように悪い印象は無い。でも、人口に占める若者の割合なんてそう多くない。王家としての印象を気にするのなら、なんとしても避けたいというのが王の判断となることだろう。


「別にあたしだって、王になりたくないわけじゃないんだよ?」

「そうなんですか?」

「確かに父上も母上も嫌い。魔力で人を見限る貴族も嫌い。こんな国の王になんてなりたくない。でも、それがあたしの生まれた意味だし、ここまで生かされた意味」

「じゃあ、何で……」

「ソウルを引き受けたはいいけど、結局確実に抑え込める保障がない。こんなんじゃあたし……王になんてなれるわけないよ……」


 なりたくないというのは嘘ではない。行きたくないけど学校に行くのと同じようなものだ。なりたくないけど、ならなきゃいけない。でもフェリシアは、万が一のことも考えて自分は王に相応しくないと思っている。


 ソウルが暴走すれば、噂通りフェリシアは王都を丸ごと消し去るだろう。そんな人間が王になっちゃいけない。でも、それを理由として王に伝えることができない。なんて思われるか、どうされるか、何もわからないから。


「……大丈夫です。あなたなら、大丈夫です」


 リードはそう言ってフェリシアを励ます。


「そんな簡単なものじゃ……」

「常に民のことを考えて行動する。そんなことができる人が、王になれないはずがありません」

「リード……」

「魔力だって、解決法見つけましょう。手伝いますから」

「……ありがとう、リード」

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