第12話 王になんてなりません
城に戻ると、その予測した未来をなぞるかのように父上は激怒し、部下たちにナーちゃんを殺すよう命じた。
「なんで! なんでころさなきゃいけないの?」
「危ないからだ。人間に危害を加える。襲ってくるんだ」
「あぶなくなんかないもん! おそってこないもん! いってたもん……にんげんのにくはおいしくないって」
「お前は魔物の言うことを信じるのか? 父の言うことは信じずに」
「だって……ちちうえは……はなし、きいてくれないもん……なにも、わかってくれないもん……」
父上は、その時あたしが言ったことを聞いているのかすらわからなかった。その間にナーちゃんを奪い、連れて行くように指示もしていた。
「やめて! やめてって! ちちうえぇ……!」
あたしは父上に抱きかかえられ、強制的にナーちゃんは連れて行かれる。
「ナーちゃん……」
「ナーちゃん?」
「なまえだよ。あのこの。あたしの、たったひとりのともだち」
「友達……」
父上の心が少し揺らいでいることを感じた。それでも、王としての信念は強い。そう簡単に危害を加えると言われる魔物を逃すとも思えなかった。
「王女、もういいんだ。最初に群れが襲われた時、守れなかった。その時点で俺は死んでいた。死んだも同然だった」
「ナーちゃん……」
「でも、ソウルはあんたに託したい。殺せ、王女」
「でも……」
「いいから殺せ!」
ソウルの効果は知っていた。わざわざ託すということは、それほどその人のことを信頼している証拠。殺される未来が決まっているのなら、父上の部下に殺されるよりあたしに殺されたい。ナーちゃんはそう言っているのだ。
あたしはその思いをくみ取り、無詠唱でナーちゃんに魔法ををかけた。毒属性の術式で、ちょうど部下たちが殺すのと同時くらいに息の根を止めるように調整もした。
「結構効くじゃねえか……ありがとな、王女。楽しかったぞ……フェリシア」
ナーちゃんは最後にそう言い、部下たちによってどこかへ連れ去られた。
「ナーちゃん……ナーちゃん!!」
あたしはその場に崩れ落ちて、涙があふれ出して止まらなかった。
「うわあぁぁぁぁん……ナーちゃぁぁぁん……」
父上は、泣き叫ぶあたしに何もしてくれなかった。あたしが全部悪いみたいに。
ただ一人、そんなあたしを気にかけてくれたのが、リードだった。
リードはあたしに駆け寄って、ハンカチをくれて、背中をさすってくれた。
あたしは思わずリードに抱き着いて、泣き続けた。リードは泣いているあたしを、抱きしめてくれた。
そしてしばらく泣き続けた後、あたしは涙を拭いて立ち上がり、父上のことを睨む。
「父上」
「……何だ」
父上は、急に雰囲気が変わったあたしのことを少し怖がっていたように思える。
「……私は、王になんてなりません」
「何を言っているんだ」
そう問いかける父上を無視し、あたしは父上の部屋を出て行った。
この時から、あたしは父上が嫌いだった。あたしがいくら大切に思っていても、王としてしょうがないのかもしれない。でも、王である前に父親なんじゃないか……そう思ってしまう。あたしも王になれば、自分の子供にそうしてしまうかもしれない。あたしはそれが怖かった……のかもしれない。
母上も嫌いだった。なんというか、あたしたちのことが嫌いだという気持ちが隠しきれていない。しかもそれが父上の前だと隠せているので、あえてそれを隠していないとも言える。確かにアーサーは魔力が無くて軽視されるかもしれない。今までの慣習を無視して王位継承者となったあたしのことをよく思わないかもしれない。そう思うことはわからなくない。それでも、自分の子供じゃないのか……そう思ってしまう。構ってほしいだなんて今さら言わない。でも、少しくらいは愛してくれてもいいんじゃないかって……思ってしまう。
親不孝だと言われるかもしれない。でもあたしは、両親のことが嫌いだ。
そして、その二人の子供として、その後を継いで王になるなんて嫌だった。
後に、城で働く伯爵たちが話しているのを聞いてしまい、それで知ったことなのだが、ナーちゃんは部下の伯爵たちに殺された時、誰がソウルを貰うのかというので揉めたらしかった。しかも結局誰もソウルを得ることができず、しかも死体も残らなかったとのことだった。その話は、揉めた末に貰えなかったというのが面白いという意味だったが、その後あたしの領域内にナーちゃんの死体が残っていることがわかった。
ナーちゃんのソウルは、本当にあたしのところに来ていた。確かに魔力は増えた気がしていたし、何か別のものがいるようなゾクゾクした感じもしていた。理由がわかって、安心していた面もあった。
そしてソウルを得た者の領域にその死体を転送するということも可能だと知った。でもそれは、あたしがそう願ったから。直接転送してほしいと願ったわけじゃない。ただあたしがナーちゃんを渡したくないと強く思った。それでこういう結果をもたらしたのだと、後にわかった。
その後あたしは人知れずナーちゃんの遺体を埋葬し、そこで誓った。冒険者になる、と。
冒険者になれば、ナーちゃんのソウルを最大限生かすことができる。それにあたしは、もっと魔物のことを知りたいと思った。知って、綺麗事かもしれないけど、全てが危険じゃないってことをみんなにわかってほしいと、幼いながらに思った。
それから、あたしはギルドマスターと約束を交わし、冒険者としてライセンスを取ってギルドの仕事も始めた。
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