第10話 魔力増強剤
フェリシアは部屋に戻ると、机に置いてあった瓶から黒い小さな玉を取り出し、片手に持てる分だけを全て口の中に放り入れて飲み込んだ。
「……あぁ」
そして王女らしからぬ声を出してベッドに倒れ込んだ。
フェリシアが飲んだのはとある薬だった。普通ならオーバードーズで死んでしまいそうだが、フェリシアはこうでもしないと効果がないような薬だ。
「大丈夫……ですか?」
「うん、なんとか」
そう答えるものの、フェリシアは明らかにぐったりとしていた。
その時、誰かが扉をノックした。
「あ……アーサーだ」
「私が行ってきます。休んでてください」
「うん。ありがと」
フェリシアの代わりにリードが扉を開けると、そこには言った通りアーサーが立っていた。
「あ、あの……姉上、いますか?」
「今取り込み中で……よろしければ、要件お預かりしますが」
「あ、その……これ、姉上に頼まれていたものです。渡してください」
「わかりました」
アーサーはリードに小さな紙袋を手渡す。
その紙袋の中身は、王の部屋に行く前にアーサーに頼んでおいたもの。魔力増強剤だった。効果はその名の通り魔力を強制的に増やす薬。フェリシアがさっきあり得ないほど飲んだ薬もその魔力増強剤だ。
リードも中は見ていないが何が入っているのかは何となく予想できていた。
「あの、姉上は、まだ魔力を欲するのですか?」
アーサーはリードにそう聞く。
この魔力増強剤をアーサーが持っていた理由は、アーサーの持つ微量の魔力をどうにか増やすという治療のためだった。その人が持てる上限を超えて強制的に魔力を増やせるこの薬を少しずつかなり長時間飲み続けることによって、少しずつ上限を引き上げることができる。
そんな薬を、強大な魔力を持っているフェリシアが必要とする理由がアーサーにはわからなかった。もっと言えば、リードでさえもわからない。
「研究のために必要なんです。私も詳しいことはわかりませんが」
リードはそれらしい嘘をついてやり過ごす。
「そうですか……私にはわからないことなのですね」
アーサーは自分に魔力が無く、そんなお前には関係ないと言われることが多いので、こういうことは慣れていた。だからなのか特に表情を変えることも無く、自分の部屋に戻っていった。
リードはアーサーを見送ると、受け取った紙袋をそのままフェリシアに渡した。
「ありがとう、リード」
そしてフェリシアは紙袋の中に入っていた小瓶の中身を一気に飲み込んだ。全て。
「ふぅ……これでどうにかなるかな……」
少し元気になったように見えるフェリシアは安心した様子でそう呟く。
「あの、そろそろ聞いてもいいですか?」
「ん?」
「あなたの身体に何が起こっているのか。なぜ強大な魔力を持ちながらも、魔力増強剤が必要なんですか?」
リードはフェリシアにそう聞いた。今まで聞こうとしてこなかったことだったが、さすがにこの量の薬を飲まれてしまっては心配になる。普通ならこの量は魔力が増えすぎて体が爆散すると言われる量だ。
「そうだね……リードにだけは、話しておいた方がいいかな……」
「誰にも言いません。心配なんです」
「わかった」
そう言うと、フェリシアは部屋の中に小さな結界を張り、ただでさえ分厚い部屋の扉があるのにさらに防音効果を高めた。
「あれは、十年くらい前のことだったかな……」
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