第9話 王女だということ
アルマは死んだ。それを確認して結界を壊すと、すぐにフォードたちが近くに駆け寄ってくる。
「……来るな。軽々しく近付くな」
「申し訳ありません。ですが……」
「お前らじゃ相手できないから来ただけだ。でも、話を聞く限りでは、お前らが引き起こしたみたいだったが」
「話なんて、誰から?」
「このキツネズミから。お前らのおかげで、一頭のキツネズミが死んだ。貴重な古代型が」
「何を言っているんですか? 魔物が話すはずがないですし、仮に話してもそのことを信じるのですか? しかも、たかが魔物が死んだくらいで……」
「……お前がライセンスを剝奪された理由がよくわかったよ、フォード・クライン」
フェリシアはフォードにそう言い放つ。
この学院に新しく来た知らない講師ということもあって、このフォードについては事前に調べていた。その結果、実力はあるのに知識が無く、これまでに多くの仲間を殺してきた。やっと得た知識も、ただ知っているだけでそれを元にして何か考えることなどを知らない。そんな悪評しかない元A級冒険者だった。
ついこの前、ギルドの規則違反や殺した仲間の家族からの訴訟などでギルド追放どころかライセンス剥奪までされていた。その違反した規則というのが、『関係のない魔物に干渉しない』というもの。それどころが、関係がない上に保護対象になっている魔物を殺したとのことだった。知らなかったで済まそうとしていたが、そう簡単に行く話ではない。そして万国共通のライセンスを剥奪された。
この国以外では、剥奪などという珍しい話は広まって話題になったらしい。だが、このフォードのことは有名すぎてこの国では全く話題にならなかった。だからフェリシアは知らなかった。
学院としても、ただ相手をするだけという契約だったようだ。授業は全く持っていない。
「お前は魔法に向いていない。残念だが」
フェリシアはそう言い残して、その場から立ち去ろうとする。
「お待ちください! 確かに、私は愚か者です。ですが、もう二度とこんなことは……!」
「何度そう言った? お前は」
「……せめて、お名前を」
名前なんか知ってどうするんだと思いつつ、これでどうにかいい加減しっかりしてくれればという思いもあった。
魔法を扱える者として、ルールくらいは守れるようになってほしい。冒険者でなくても、社会のルールくらいは……と。
「……レイ」
フェリシアはライセンスに使った名前を名乗り、すぐに飛び立って学院を後にした。
おそらく、フェリシアの魔力に気付いて誰かは正体に気付くだろう。厄介なことに巻き込まれたくはないが、もうやむを得ないこととなってしまうだろう。
「何でこうなるかな……」
学院を守ったのに、見える未来は咎められるだけだ。フェリシアはどこか理不尽さを感じていた。
誰にも追跡されないようにものすごい速さで城に戻ってくると、フェリシアはマントとマスクの装備を自分の領域にしまって外した。
「あれ、リードは?」
部屋に戻ったはいいが、そこにリードはいなかった。
リードを探して部屋から顔を出すと、そこにはエミリアがいた。
「エミリア、リード知らない?」
「先ほど、陛下から呼ばれてしまいました。また何かしたんですか? まあしたんでしょうね」
「父上のところか……」
予想通りだった。
「ありがと」
フェリシアはそう言って、すぐに王の部屋に向かった。
迷うことなく廊下を進むと、向かい側から弟のアーサーが歩いてくるのが見える。
「姉上」
「ごめん、今急いでるの」
「また何かやらかしたんですか?」
「え?」
「父上が呼んでいますよ」
「そうだよね……」
「心当たりが?」
「まあね」
色々とあり過ぎる。
「そうだ、これ頼める? ちょっと分けてほしい」
フェリシアは話を逸らすようにそう言い、アーサーに紙切れを手渡した。
「じゃあ」
アーサーが回答する間もなく、フェリシアは走り去って行ってしまった。
そして王の部屋の前にまで来ると、召使いが扉の前にいて、フェリシアに会釈をした。
「ふぅ……」
息を整え、気合いを入れてから王の部屋の扉をノックした。
「父上、フェリシアです」
「入れ」
王の言葉を聞いた召使いが扉を開け、フェリシアは中に入る。
王の部屋の中にはリードが俯いた様子でいた。
「フェリシア、お前……わかってるのか?」
「侯爵家の息子を見下したことですか?」
なんとか誤魔化そうとする。
「違う。……が、そんなことしたのか?」
「あっちが決闘を仕掛けてきたので、その相手をしようとしたまで。結局逃げましたけど」
「はぁ……だが、今はそのことではない」
誤魔化すことはできなかった。
「お前、いつの間にS級ライセンスなんて持ってたんだ? しかも偽名を使っていたとか。しかもギルドから仕事もらってたんだって? それに、古代型キツネズミのソウルも持っていた。聞きたいことは山ほどある」
フェリシアには咎められることが山ほどあった。しかし、情報があまりにも早すぎる。誰がこんなに早く王に報告したんだか……
「ギルドマスターを処分したりしないって言うなら話す」
「……いいだろう。どうせお前の言いなりになっただけだろうからな」
これで被害は最小限に抑えられる。ギルドマスターは協力してもらっただけで、これで罪に問われたりでもしたら、耐えられなかっただろう。
「ライセンスは、結構前に取った。名前はミドルネームだから偽名じゃない。ギルドの仕事は……前に言ったでしょ? 冒険者になりたいって。あの後から。ライセンスもその時に」
「本気だったのか? というか正気か?」
「どれもこれも、今に始まったことじゃない」
フェリシアは、幼い頃からよく城を抜け出して森に行っていた。そしてある一件があって、王にはならずに冒険者になると言い出した。その頃は子供の言うことだと相手にされなかったが、フェリシアは本気だった。
「ソウルはどうなんだ?」
「それは……あの時の、だよ」
「……そうか」
説明が無くても、王は何のことかすぐに察した。
「……いいか? お前は王女だ。それにただの王女じゃない。次の王となる王女だ。その自覚をしっかりと持って」
「私は王になんてならない」
「まだそんなことを言うのか」
「だって……私は……」
「何度言ったらわかる? お前しかいないんだぞ? お前でさえ、貴族を説得させるのにそれだけ苦労したか……」
「わかってるよ! わかってる……でも……!」
そこまで言ったはいいものの、それより先の言葉が出てこなかった。
「でも、何だ?」
「……何でもない……です」
急に勢いを無くしたことに違和感を覚えたが、王は従わせることができたらそれでいいと、それ以上聞かなかった。
「とにかくだな、王女だということを忘れるな。お前は賢いから、どうすればいいかわかるだろう?」
「……はい」
フェリシアは唇を噛み、しょうがなくそう答えた。そう答えるしかなかった。
王である父に叱られた後、フェリシアは先に王に叱られていたリードと共に部屋に戻った。
「ごめんね、リード。巻き込んで」
「もう覚悟の上です。あなたに仕えるということは、そういうことですから」
「そっか」
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