拳銃
3カ月ぶりに恵比寿にある雑居ビルの裏手にきた。ここで彼は1度絶命している。なんとなく転倒したバスの周囲が気になって、ビルに侵入する前に散らばったガラス片を掃除することに決めた。自分を死にいたらしめた凶器を見たくなかったのかもしれない。近所の保育園から箒をもちだして道路をすっきりと片付ける。箒をもとの場所に戻して、あらためて本日の目的を遂行する。慣れた手付きで裏口を開錠して雑居ビルの非常階段をのぼった。
毎度のことで拷問部屋の床にはスーツが散乱していた。親衛隊バッジの付いたものが5着。秘書官のものが1着。おなじタイミングで死んだ奴がいたとして、かつそいつがすでに復活しているならば、そばにある自分の服を着用するのが自然。とすればこの部屋で復活した者はいない。今のところは。不安が完全に払拭されたわけではない。秘書官のコートには大きな弾痕と黒い血の跡が残っていた。あの日すくなくとも1人は道連れにできたようだ。皮肉にもそれが不安材料となってしまったが。ころがった拳銃や拷問用の器具を拾いあつめ、かつて自分の頭を覆っていた黒い袋に詰めた。来た階段を降りてふたたび保育園へ。こんどはスコップを持ちだして園庭に穴を掘った。そしてその穴に黒い袋を埋めた。地面に刺したスコップにまるでなにかの暗示のように薄明光線があたった。
朝霞駐屯地か横須賀の米軍基地で本格的なライフルを手に入れようか。そんなことも考えた。しかしどうにも気がのらない。ならば渋谷警察署はと切り替えたがこちらも足が向かない。そもそもモチベーションが上がらない。軍や警察で厳重に保管されているものよりもずっと簡単に、かつ近場で楽して手に入れられる方法。1つだけ思いついた。ホテル山王。日本にファシズムが蔓延したあとも米軍の保養施設としてホテル業務をつづけていた。ホテルとはいえ敷地内に入れば拳銃をぶらさげた兵士が警備をしている。あのホテルならそこらじゅうに落ちているはず。
全哺乳類滅亡以前、日本の総理大臣は国内では独裁者だった。だが同時に友好国に対しては忠犬だった。皮肉ではあるものの この事実は国民にとって救いになっていた。関係を維持するための上納金を重税でまかなうという苦しみを負っていたものの、日本国民に人権をという海外からの手がわずかでも差し伸べられていたからである。もしこうした助けがなければ国民は完全に家畜と化していただろう。奴隷ですらない。家畜だ。
保育園を離れると今度は広尾へとむかう。
正面口の検問でまずは3丁。裏口にまわって4丁。ホテルエントランスで5丁ひろった。P390M17が全部で12丁。そのうち傷のない2丁をえらんで残りはマガジンだけ抜いて古川に捨てた。もうすこし弾が欲しいと それらしきバックヤードの鍵を開錠する。ビンゴ。武器庫だ。新品の本体と用途に合わせたグリップとアクセサリー、それに弾とマガジンがごっそり棚に並んでいた。おまけに最新のライフルM15GGも2丁保管されていた。いったい東京のような都会で何に使おうとおもったのか。結局新品のP390M17本体2丁とマガジンを5つ、アクセサリー一式そしてありったけの弾とついでに新品のサバイバルナイフをトラックの荷台に積んだ。のこりの武器は古川にもっていくのも重いので入念に客室のベッドの下に隠した。時間的に余裕があったのでもう1回くまなく館内をさがし、あらたに見つけた武器もおなじように誰の眼にも触れないようにした。目的が途中で変わってしまうとは想定外だ。こんなに武器があると入手することより隠すことのほうがたいへん。銃砲店も入れたらいったい関東だけでどれだけの銃があるのだろう。銃だけでなくナイフだってある。いやそんなことを言えば刃物でもロープでも先の尖った物でもなんだって武器になってしまう。気が遠くなりそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます