第12話 Amazing view from the Top
『――日中は休養の時間だとマッティは提案する。奴らに発見されるリスクが高い』
そう言ったのはマッティ。
なので、あたしたちは真っ暗で時間も分からなくなった状態の店内で眠り、食料品コーナーの商品で食事を
「アオイ――アオイ、起きてくれ。活動の時間だ」
「あ……え……今何時?」
あたしは展示用のマッサージチェアから身体を起こすと、操作リモコンに表示されている時刻を見る――16:55。まだ一月だから、夜になるのが早いんだ。あたしはしわしわになってしまった制服をいじりながら、リクライニングシートを元の位置に戻し、革靴を履いた。
「まず何をするの、マッティ? 昨日のうちに仕掛けておいたビデオカメラを回収しに行く?」
「イエス。だが、その前に――」
マッティはあたしの足を滑り台のように滑り降りると、すでにスタンバイしている『あたしたちの秘密兵器』を指し示してこう告げた――そう、ドローンだ。
「あの
毎度のことだけれど、マッティのセリフが冗談なのか本気なのかちっとも分からないあたしは、まだ少し寝ぼけている頭で考えて、スルーしておこうと決めた。とりあえずうなずく。
「どこからにする?」
「高所を確保するのが戦略の基本だ。この拠点の屋上には上がれるのだろうか?」
「それは……ちょっと行ってみないと分からないよ。ここ、何階建てなのかも知らないから」
「では、行って確認しよう、アオイ」
「行くのはあたしなんだけどな……」
「運動は、健全な身体と魂を作るぞ」
こうなるとマッティは
はぁ、とため息をついたあたしは、ドローンの本体とコントローラーを、書きかけのメモとペンと一緒に手提げのビニール袋につめて、早速行動を開始した。まずは上り階段の捜索だ。
はじめに上ってきた階段は二階の売り場止まりだったから、どこかに別の階段かエレベーターがあるのだろう、と予想を立てたあたしは、在庫商品が置いてあったバックヤードを目指す。
「質問がある、アオイ」
「な――なに、突然?」
「そのメモには何が書かれている?」
「あ――ああ、これ?」
まさかマッティに見られていたとは思っていなかったあたしは、途端に恥ずかしくなって居心地悪い気分になってしまう。渋々ビニール袋からそのメモを取り出して、マッティに見せた。
「多分……そんな状況じゃない、ってことは分かっているんだけど……どうしても癖なの……」
そこには――。
ドローン一式、デジタルビデオカメラ一〇台、充電パック二〇個(交換用含む)、充電器一〇台、SDカード128ギガバイト二〇枚(交換用含む)、十二口電源タップ(コード長二メートル)二本、延長コード(五メートル)二本、ミネラルウォーター二リットル入り一本――。
マッティがいつもの抑揚のない声でそれを読み上げると、もっと恥ずかしさが増してきた。
「もし――もしも元どおりの平和な世界に戻ったら、きちんと御礼して、弁償しないとって。だから、忘れないように……メモ……してるんだけど……。へ、変だよね? あはははは……」
「……ノー。マッティはアオイを誇らしく思う」
「
「では、先に進もう」
あたしの予想どおり、あたしたちが上ってきた方とは別の、新品の商品が入った段ボールが積み重ねられているバックヤードの奥の方にまたドアがあって、そこを開けると上りだけの階段が見つかった。踊り場にあるすりガラスがはめ込まれた小さな窓を通り過ぎ、出てきたところと同じスチールドアを通り過ぎていくうちに、行き止まりにぶつかった。ここが屋上だ。
「……開けるよ、マッティ」
「少しだけ開け、マッティを先に出して欲しいとマッティは要求する」
「分かった」
あたしは指示どおり、マッティを右手に握り締めながら、出来る限り音を立てないように――かちり――スチールドアを開けると、そろり、とマッティをその隙間から突き出した。
「確保した。ここには敵はいない」
「……で、出ていいんだよね?」
思ったよりも屋上は狭かった。その一角に大きな見慣れた看板が建てられていた。よく見るとその中にもまだ階段があるようだ。多分、照明ランプの交換かなにかに使われるんだろう。
「もっと上ろうとマッティは提案する。高い方が広い視界が確保できるだろう」
「了解」
鉄板かなにかで作られている階段は、かん、かん、かん、と革靴の音がする。少しどきどきしながらも、あたしはどんどん上を目指した。そうして一番上まで上ると視界が一気に開けた。
「ここからなら、あたしの目でもある程度は見えるけれど――」
目を凝らすと、薄闇の中でも五〇〇メートル先にある『梅島陸橋』交差点の、蛇腹の形をした白いバリケードの検問が確認できた。けれど、なぜか人の姿は見えない。昨日はあたりを照らしていたはずの、赤い回転灯も消えているようだった。
なにかとても――嫌な予感がする。
「……人間の目は嘘をつく。偵察機を使うことをマッティは強く進言する」
「う、うん」
あたしは持ってきたビニール袋の中からドローンとコントローラー、そしてスマートフォンを取り出した。それからもう一度説明書に目を通す――本機は、電波が届かなくなるとその場で約二〇秒間ホバリングして自動的に離陸地点に戻る機能が付いています――そう書かれているのを再確認する。ということは、途中で落ちちゃうってことはないはずだよね。大丈夫。
ふるるるる――。
スマートフォンをコントローラーにセットして電源を入れると、ドローンの四枚の羽根が勢い良く回転し始めた。それと同時に、スマートフォンのスクリーンには今この瞬間に搭載カメラから転送された映像が映し出されていた。
風は――ほとんどない。
一番の心配もクリアだ。
「あまり暗くなっちゃうと見えなっちゃうかもしれないから、早速行くね――よっと!」
アクロバティックに、自由自在に操れるほど自信はなかったけれど、散々薄暗い店内で飛ばす練習をしていたから、よほどのことがない限り大丈夫なはずだ。あたしはゆっくりと進める。
「み、見えるかな、マッティ?」
「問題ないと判断する」
「あたし、たまにドローンの方見ないと不安なの。……ね? ちゃんと映ってるかな?」
「………………
そのマッティのセリフで。
あたしの心臓はたちまち早鐘を打ちはじめた。
そして、マッティはこう繰り返した。
「マッティは
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