第4話 孤軍奮闘

俺は過去最高速で思考した。

この場には死体が入った棺が2つと、戦意喪失した魔女が1人。それから、転生して間もない男が1人。

このまま魔物を野放しにすれば街に被害が出る。

最善は魔物を倒し、棺と魔女を抱えて街まで生きて帰ること。


どうすればいい??


「ガァァァァッ!!」


「うわっ!!」


魔物は俺たちを待ってくれない。

寸前のところでなんとか魔物の爪をかわした俺はアメリアの手を引き、魔物の横を駆け抜けた。

地面に落ちていたルイスの棺を回収し、とりあえず街と逆方向へ走り出す。


「おいっ、これからどうするっ!!」


魔物は俺たちを追ってきている。

幸いにも魔物は鈍足だったため、俺一人なら振り切って逃げることができそうだ。

しかし、それではアメリアは助からないだろう。

流石に棺を3つ背負って魔物を振り切り街まで行ける自信はない。


「あっ、あれは……!」


向かう先の地面に上等な剣が落ちていた。

それは、ロゼが使っていたものだ。

どうやら最初に魔物と遭遇した場所まで戻ってきたらしい。


「ガァァァァルルルッ!!!」


背後から魔物の咆哮。

俺は覚悟を決めて振り返った。

魔物がこちらへ突進してきている。


「怖い顔しやがって。でもまぁ……トラックよりはマシだな」


俺は棺を肩まで持ち上げ、大きく振りかぶった。


「喰らえッ!!!」


棺は魔物目掛けて飛んでいき、鈍い音とともに魔物の顔面にめり込んだ。


「もう一発ッ!!!」


間髪入れず、俺はもう1つの棺を同じところに投げ飛ばす。顔面クリーンヒットを立て続けに喰らった魔物はあまりの衝撃に怯んで白目を向いていた。

魔物が後ろに仰け反ったその隙を見逃さない。

棺を手放して自由になったその手で地面に落ちていたロゼの剣を素早く拾い、魔物に一撃をお見舞いする。


「オラァッ!!!」


剣は魔物の胸に深く突き刺さった。

剣の使い方や作法に関しては無知だったので見様見真似だが、偶然急所を突いていたらしい。

魔物は後ろに倒れ込み、そのままピクリとも動かなくなった。


「はぁ……よかっ、た」


どうやら自分が思っていた以上に緊張していたらしい。

魔物に剣を突き刺した手がまだ震えていた。


「平気か、アメリア」


振り向いて声をかけると、アメリアは俺に駆け寄ってきて強く抱きついた。


「ちょ、アメリアさん……?」


アメリアは俺を離さない。

俺の体は魔物の返り血を浴びて汚れていたが、アメリアは自分の服が汚れるのも気にしていないようだった。

突然のことに俺は動揺したが、彼女の体もまた恐怖で震えていたことに気づくと、その恐怖が少しでも緩和されるようにそっと彼女の頭を撫でた。


次々と仲間が死んでいくのを目の当たりにして、圧倒的な力を見せつけられてもなお、戦線離脱は許されない状況。

もし俺が死んでいたら、残されたアメリアはたった一人で魔物と対峙しなければならなかった。

仲間と俺の次は自分が餌になる番だったのだ。

怖くて当たり前だ。


自分より怖がっている彼女の存在があったからだろうか。

もう俺の中から恐怖はすっかり抜けていた。


「タカノヨースケ。ありがとう」


肩越しにやけに素直なお礼の言葉が聞こえた。


「おう」


俺も素直にお礼の言葉を受け取った。


「街に帰ろうか」


「……うん」


そうして俺とアメリアはロゼとルイスの棺を抱えて森を抜けた。





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