第3話 魔物との遭遇
森の中は空気がひんやりしているせいか、少し不気味に感じた。
「そんなに心配しなくていいのよ。私たちがいるんだから」
アメリアは仰々しい杖を振りながら歩く。
もしかしてその杖から魔法が出てきたりするんだろうか。
彼女たちの話を聞いていると、どうやら俺は異世界に転生したらしい。
ここでは様々な魔物がいて、時には人間の生活を脅かす。そして、そんな悪い魔物を倒して人間たちを守る「勇者」という職業があるらしい。
その「勇者」の1人がロゼだった。
アメリアとルイスはロゼの仲間で、常に行動を共にしているそうだ。
「心配しなくていいのは本当だよ。ここの森は初心者向けだから、もし魔物が出たとしても討伐に苦労はしないよ」
ルイスも俺を安心させるためか、アメリアの言葉を補強するようにそう言った。
ガサガサッ……。
その時、後方の草が揺れた。
「変ね……風は吹いてない」
ロゼが立ち止まる。
「動物がいたんじゃないか? よくあることだ」
「いや、これは……」
嫌な予感がした。
異世界の経験値がゼロの俺でもその敵がヤバいことはよくわかった。
「ガァァァァァッ!!」
大きな熊のような魔物が草の間から姿を現す。
「ひぃぃっ!?」
アメリアが情けない声を出す。
ルイスが咄嗟に腰の短剣に手を伸ばした。
ロゼは誰よりも早く剣を抜き、丸腰で無力な転生者を守るために俺の前に立った。
「ちょっと……なんでこんなのがこの森にいるの?! どう見たって初心者が倒せそうな魔物じゃないわよこれ!」
「アメリア、援護お願い。ルイスはヨースケを守ってあげて」
ロゼは一番に陣営から飛び出していった。
その姿はまさに勇者だった。
「ガァァァァァ!!」
ロゼは魔物をその剣で切りつけた。
しかし傷は浅かった。魔物は一瞬の怯みを見せたが、すぐに鋭い爪をロゼに振り下ろして反撃する。
「きゃぁぁぁあっ!!」
「ロゼッ!!」
空中で体勢を崩したロゼはそのまま魔物の爪の餌食となり、爪は彼女に直撃した。
それは致命傷だった。
「おい……ロゼ……?!」
ロゼはドサリと地面に倒れるとピクリとも動かなかった。そしてその姿は一瞬煙に包まれ、棺に変わった。
「嘘だろ……?!」
「チッ……撤退だ!!」
ルイスは素早い身のこなしでロゼの棺を回収すると、一目散に逃げ出した。
「あ、待って!! 早く、ヨースケも!」
状況が理解できずに立ち尽くす俺の腕をアメリアが引っ張った。
「はぁっ?! ちょ、待ってどういうこと?!」
走っている間に俺の思考はようやく追いついた。
「勇者だろ? 一撃で死んじまったぞ?! 援護する間もなく死んだぞ?!」
「仕方ないでしょ、ロゼなんだから!!」
「……どういう意味だ?」
アメリアはそれ以上何も言わなかった。
「おい、2人とも!!」
棺桶を脇に抱えたルイスが声を荒らげる。
「このままじゃ魔物を連れて街に帰ることになる。そうなると街が危ない。魔物はここで倒す必要がある」
「そんな……私たちで太刀打ちできる相手じゃないわ!」
「そんなの分かってる……でも、お前はそれで諦めるのか? 街の人たちを危険に晒して、それでもお前は勇者の仲間か?」
アメリアは黙った。
「ロゼを頼む」
ルイスは棺を俺に渡すと、覚悟を決めて短剣を抜いた。
「お前はここで倒す!!」
「ァァァァァ!!」
ルイスはその俊敏さが武器らしい。
素早い動きで敵を翻弄し、巧みに攻撃をかわしながら敵を切りつけていった。一撃のダメージは小さいが、確実に効いている。
「私も……私だって……!」
アメリアは杖を握りしめ、魔物に狙いを定める。
しかし、彼女は何か躊躇っているのか、次のアクションを起こそうとしない。
「おい、やらないのか?」
「う、うるさいわね! 集中してるの!」
そうこうしている間にも、ルイスと魔物の攻防は続いている。
「うっ……クソっ!」
ルイスの体力は徐々に削られていく。
軽快な身のこなしで魔物の攻撃を上手くかわしているルイスだが、そろそろ限界のようだ。
「アメリア、まだか?!」
このままではルイスも殺られてしまう。
俺は焦りをアメリアにぶつけた。
「あっ!!」
その時、ルイスの短剣が魔物の爪に弾かれた。
ルイスは怯んで短剣を地面に落としてしまった。丸腰のルイスに魔物が襲いかかる。
「アメリアッ!!」
この場でルイスを助けられるのは彼女しかいない。俺はアメリアの名前を叫んだ。
「ッ……」
しかし次の瞬間、彼女は魔物から目を逸らし、杖を力無く下ろした。
「何、してるんだ……?」
大切な仲間を見殺しにして、それでも勇者の仲間なのか?
俺は彼女に失望した。
目の前で魔物の一撃を喰らい、棺に変わったルイス。
その爪が今度はこちらに向けられた。
「ごめん、なさい……」
敵を前に戦意喪失した魔女は、そのルビーのように真っ赤な瞳を涙に濡らして訴えた。
「私たちは、勇者にはなれない」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます