第12話 戦争終結

西暦2027(令和9)年3月12日 パルトシア王国リスビア


 降伏から2日が経ち、リスビアは完全に日本国の占領下に置かれていた。


 地上には陸上自衛隊第二空挺団が空挺降下によって展開。港湾部を海上自衛隊第1護衛隊群が占拠し、完全に日本の制圧下に置かれた事が視覚的に伺えた。近々近郊の飛竜騎飛行場が施設科の手で改造され、戦闘機や輸送機が発着可能な滑走路となる予定である。


「では、こちらの求め通りに王家の身柄を我らに引き渡す事でよろしいですね?」


 講和使節団を直接率いる高田首相の問いに対して、臨時政府の首班である将軍は静かに頷く。何せ講和会議の場所となっている宮殿は、十数両のBMD-3空挺装甲車と2S9『ノーナ』自走迫撃砲に包囲されており、何か叛意でも起こせば、たちまちのうちに1個空挺歩兵中隊が宮殿内に突撃してくるだろう。それだけに表立った叛意を表せるはずもなかった。


「まず、貴方がたの自治権はこのリスビアに限定され、王家や多数の貴族もマディリア諸島に幽閉されます。以降は我が国より派遣される高等弁務官の指示の下に、自治体近代化プログラムを進行して下さい」


「承知した…賠償は?」


「本来であれば膨大な金銭と現地資源の開発権譲渡となりますが…貴国の滅亡は確定しております。アゾリア諸島及びマディリア諸島の譲渡で手を打ちましょう」


 その二つの島嶼地域は、すでに小麦含む農作物の供給源として高い利用価値を持っており、占領後の調査によって海底油田やレアメタルの鉱床も確認されている。現在の日本の産業を考えれば、これらを開発して転移前の経済水準に戻すための産業を興す事は重要となるだろう。無論、ベルリア王国の近代化もそれを支える要素となるだろう。


「無論、自衛隊もこの地に駐留します。王国軍は直ちに武装解除し、私たちの指示に従って下さい」


 新藤はそう言いつつ、隣に座る防衛事務次官に視線を配る。もし拒否しようものなら、リスビア守備部隊が謹慎させられている王国陸軍兵舎に多数の40センチ砲弾が降り注ぎ、王宮の正門は『ノーナ』に踏み潰される事となるだろう。それを想像できぬ程相手は愚かではなかった。


 斯くして、講和会議は僅か三日で終わり、パルトシア王国は事実上滅亡したのである。


・・・


日本国東京都


その日、都内では号外が配られていた。


「号外!号外!ついに戦争が終わったよー!」


 都内の大通りで大量の新聞が配られ、多くの都民は安堵の様子を見せる。そして首相官邸の地下にある危機管理センターでは、高田首相らが話し合っていた。


「ようやく戦争は終わったが、これからどの様に安定した経済圏を作り上げていくかが、当面の課題ですね…」


 高田の言葉に、梅原うめはら官房長官はレジュメを捲りながら説明を始める。


「まず、アゾリア諸島とマディリア諸島ですが、現地の行政府に高等弁務官事務所を設け、間接統治を行います。リスビア市も同様に、返還前の香港に近しい政治体制で自治を認め、イベリシア亜大陸における影響力を保持しましょう。自衛隊も陸自1個戦闘団規模と海自地方隊を駐留させ、有事にはマディリア諸島に駐留する空自の支援が受けられる様にしましょう」


 梅原に続き、新藤が口を開く。


「続いて外交関係ですが、イスパニア王国に対してはモンキーモデル中心に輸出する事としましょう。パルトシア王国が弱体化した隙を狙って侵略を実施してきた国です、容易に軍事転用される危険性を鑑みて、近代化のペースはベルリア王国よりも遅い様に計らいましょう」


「当然の対応だな。防衛大綱も大幅な見直しが必要となる。これから忙しくなりますよ」


「そして現在、遥か西に位置するバルカニア帝国が接触を求めてきております。どうやら彼の国の情報網はイベリシアにまで届いている様ですね」


 こうして、この世界に迷い込んで最初の戦争は終わりを告げた。しかし、日本国にとってそれは新たな国際関係を築き上げるという苦難の始まりでしかなく、高田は未だに前途が多難であると身に感じていた。

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統一日本は新世界で名を挙げる 瀬名晴敏 @hm80

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