第11話 リスビア降伏

西暦2027(令和9)年3月6日 日本国東京都 都内高級ホテル


 3月3日にアルヘシリアを発ったイスパニア王国外交使節団は、都内の高級ホテルに設けられた会談会場にいた。話す内容はもちろん、国交樹立に向けた協議である。


「さて、次に安全保障に関する協議ですが、これはパルトシア王国の扱いも関わってきます」


 新藤外相の言葉に、イスパニア側代表のセルバンティス外務卿は顔をしかめる。


「まず、貴国のパルトシア王国に対する行動には、我が国は介入しません。ですが、その代わりとしてリスビアを我が国に譲渡してもらいたい。無論、目的はイベリシア亜大陸における経済拠点の確保のためです。それを成す事が出来たのなら、我が国はそれ以上踏み込む事はしません」


「つまり、我が国と貴国とで、パルトシア王国を分割したい、という事であるな?」


「その通りです。彼の国には我が国に対する賠償責任が残っております。完全に滅んでしまったら困りますので、あくまで『お手柔らか』にお願いします」


 随分と遠回りな物言いであるが、すなわちパルトシア王家と首都リスビアだけは押さえておきたいのでそれだけは見逃せと言うのである。だが彼ら曰く、穏便に接触を計った外交官を無下に扱ったどころか、アゾリア諸島では処刑にまで至ったというのだから、彼らは相応の罰を与えたいと考えている様子である。


「世論は現在、貴国の火事場泥棒にも等しい行いに憤慨しております。そのままの勢いで滅ぼしてしまえば、我が国は政府の意向と関係無く貴国との戦争状態に突入してしまう事となります。それだけは絶対に避けたいところです」


「成程…では我が国も善処致しましょう」


 セルバンティスはそう答え、次の議題に取り掛かる。この2日後、日本政府はイスパニア王国と国交樹立した事を宣言。その情報は大々的にイベリシア亜大陸中に広められたのである。


・・・


西暦2027年/新暦1027年3月10日 パルトシア王国首都リスビア 王宮


「馬鹿な、蛮族どもがイスパニアと手を組んだだと!?」


 その報告に、アフォンス5世は愕然となった。自衛隊は度々、輸送機を用いてリスビア上空にビラを散布するプロパガンダ攻撃を行っており、王国上層部が度々隠蔽していると思われる情報の公開を行っていた。当然ながらイスパニア王国との国交樹立に関する情報も入ってきており、それが王国上層部に衝撃をもたらしていた。


「残念ながら陛下、本当の様です。このままでは我が国は挟撃を受ける事になってしまいます!どうか降伏を!」


 宰相が血相を変えて進言するも、アフォンス5世は首を振る。


「ならん!絶対に野蛮な連中とは手を携えられるものか!何故だ、何故我が国はこうも勝てぬのだ!我が国には勝利のみが必要なのだ!」


「であれば、潔く負けるのみしかありますまい」


 とその時、数人の兵士たちが現れ、国王たちを取り囲む。そしてマスケット銃に取りつけた銃剣を向けてきた。


「陛下、もはや貴方がたに頼る事は出来ない。すでに国民は貴方がたに失望しております。完全に皆殺しにされる前に、ニホン国に対して投降します」


「な…」


 反乱者たちの言葉に、多くの閣僚が唖然となる。しかし王宮の外では数千人もの市民が王家に対する抗議デモを行っており、彼らの総意は明らかであった。


「陛下、このまま徹底抗戦を指示したとしても、死期が早まるだけの事です。もう、この国は終焉を迎えるしかないのです」


 斯くして、パルトシア王国は日本国政府に対して降伏を宣言。2年近くに渡って繰り広げられた戦争はようやく終結を迎えようとしたのである。同時にイスパニア王国方面に対しても魔導通信で降伏を宣言し、イスパニア軍は進軍を停止。自衛隊の上陸に合わせて進駐を開始するのだった。

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