第9話 イスパニア強襲
新暦1127年2月22日 イベリシア亜大陸東部 パルトシア王国西部バルネル地方
それは1週間後に現れた。すでに宣戦布告されている以上、兆候自体は入念な偵察と警戒を行えば、直ちに把握出来ただろうが、アゾリア諸島奪還のために軍の主力をリスビアに集結させ、そこを日本に叩きのめされた直後のパルトシア王国にその余裕はなく、そして察知出来たとしても、その後に訪れるであろう運命を捻じ曲げる程の力は残されていなかった。
「て、敵襲ーっ!」
「くそ、ついに攻めてきやがったか!」
「守れーっ!絶対に守り抜けーっ!」
バルネル地方の守備隊に属するパルトシア王国軍は、城塞に立て籠もって迎撃を試みる。イスパニア王国との国境に面する地域であるが故に多くの兵士は引き抜かれず、規模は防衛を成すには十分たるものがあった。
だが、目前に迫ってきたのは数万の歩兵と数百頭のドラゴンを並べ、空には数十頭ものワイバーンを広げた、赤色の下地に三つ首の金竜と二振りの長槍を描いた
「全軍、前進せよ。イベリシアに覇を轟かせる国の姿を見せつけよ」
指揮官の号令一過、3万の軍勢は地竜を先頭に立てて進み、ワイバーンは先行して城塞の真上に到達。そして城壁上部に向けて火炎弾を放ち、将兵たちを城壁もろとも焼き払う。直後にカノン砲を運用する砲兵部隊が前進し、地竜の間に展開。城壁に向けて砲撃を見舞う。地竜やワイバーンの火炎攻撃では城壁そのものを崩す事は出来ないからだ。
そうして突入口を啓開するや否や、地竜を先頭に突撃を開始。応戦してくる敵兵を火炎放射で薙ぎ払い、城内へ突入していく。水堀は砲兵の撃ち込んだ防御魔法無効化術式が施された砲弾が撃ち込まれ、それによって魔導工兵部隊は土魔法を行使。堀の底を隆起させて橋を築いたため、防御装置としての能力を喪失していた。
「蹂躙せよ。愚かなる国に裁きを与えよ。我が偉大なるイスパニアに栄光あれ」
斯くして、イスパニア王国軍はパルトシア王国に対して全面的な侵攻を開始。その膨大な兵力によって、その国土を蝕んでいったのである。
・・・
西暦2027(令和9)年3月1日 日本国東京都
新たな戦争が始まって1週間が経ち、詳細は日本にも届く様になっていた。
「パルトシア王国は現在、イスパニア王国より侵攻を受けており、大分劣勢に陥っている模様です。兵力差は歴然であり、滅亡は秒読みの段階にあるそうです」
飯田統幕長の報告を聞き、高田は思わず顔をしかめる。イスパニア王国の狡猾残酷な行動には多くの者が閉口しており、改めて地球での常識が通用しない場所である事を再認識させられたからである。
「…相手が弱った隙を突いて、布告もなしに侵攻ですか…彼の地は卑怯な国ばかりですか」
「このまま侵攻を見過ごしていては、新たな脅威がイベリシアに生まれるだけです。どうしますか、総理?」
飯田の問いに対し、高田は息をつく。
「…現状の弾薬貯蓄量と部隊規模を鑑みると、新たな敵を作る余裕はありません。通常通りにイスパニア王国に対して接触し、何らかの関係を有するべきでしょう。いずれにせよ、今回のはパルトシア王国の落ち度です。わざわざ敵国に支援して生き残らせる様にする必要性は低いでしょう」
「分かりました。では、接触はこれまでの計画通りに進める、と…」
「ですが、ただ滅びるのを座視するのも興ざめとなります。ここは一つ、パルトシアに恩を売るついでに密約でも結んでみましょう。明石さん、仕込みは任せましたよ」
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