第7話 リスビア軍港攻撃

西暦2027(令和9)年/新暦1127年2月14日 パルトシア王国東部 首都リスボア


 海上自衛隊が取った行動は、必然であったと言えよう。


「人工衛星を打ち上げる事が出来たのもあるが、何より国内に潜入させた諜報員に容易く軍事行動計画が漏れる様な杜撰さを見せたのが最も悪い要因だ」


 大型護衛艦「いわみ」の戦闘指揮所で、海上自衛隊第一任務群司令官の宗方むなかた二等海将はそう呟く。この艦は第二次世界大戦終結後、第一次石狩湾海戦にて太平洋艦隊を日本海軍の戦艦部隊に殲滅させられた経験から建造が再開され、北海道戦争後に極東人民共和国に譲渡されたソビエツキー・ソユーズ級戦艦「ソビエツカヤ・ロシア」で、『サハリンの雪解け』により統一された後、より拡大した領海を守るための戦力として編入された。


 そして今回、海上自衛隊は大型護衛艦3隻、航空機搭載護衛艦2隻、ミサイル護衛艦6隻、汎用護衛艦10隻、補給艦3隻で構成された24隻の第一任務群を投入し、大規模な壮行式が行われているリスボアへ殴り込みを仕掛ける事としたのだ。何せ規模が規模である。事前にベルリア王国の貿易船に潜り込ませて潜入させた保安省諜報員や、去年3月頃に打ち上げられた人工衛星によって、戦力の多くを首都近郊に集結させている事は容易に知れたし、相手も自分たちを侮っているのか、大した防諜も行っておらず、むしろ侵攻予定時期まで大々的に報じるという失態まで犯していた。


 愚かとしか言い表せない様な事前準備に対し、統合幕僚監部は積極的防衛の条件が整ったとして第一任務群の派遣を決定。目に見て分かるレベルでの軍事行動に対する打撃が目論まれたのである。


「航空護衛艦部隊、艦載機による地上目標への爆撃を開始しました。制空権も無事に掌握しております」


 CIC管制員からの報告を受け取り、宗方は新たな指示を出す。


「よし…では我らも動くか。巨砲の恐ろしさを彼らに知らしめてやろう。全艦前進、砲撃戦用意」


「砲撃戦、よーい!」


 大型護衛艦3隻とミサイル護衛艦2隻、汎用護衛艦2隻からなる打撃艦隊は前に進み、リスボアの街並みを視界に捉えられる距離にまで詰める。その姿は港湾部の灯台や監視塔に上る者たち、そして海に面した建物のバルコニーから大艦隊を眺めていた者たちに見つけられた。


「おい、あんなところに島なんてあったか?」


「いや違う、船だ!馬鹿でかい船が迫ってきてるぞ!」


 上空で次々とワイバーンが叩き落とされていくのもあって、市民に混乱が見られる中、7隻は港湾部の船舶群を照準。そして一斉に砲撃を開始した。


 27門の40.6センチ砲が吼え、空中で爆破。無数の小爆弾が降り注ぎ、複数の帆船が火だるまに包まれる。一斉射だけで90隻近くの木造帆船が火だるまに包まれ、そして近くの船に衝突して火の手は拡大していく。


 続いて12.7センチ砲と13センチ砲も砲撃を開始し、多くの砲弾が帆船群や沿岸砲台に殺到。多くのヒト・モノが木端微塵に砕かれていく。上空では十数機のジェット戦闘機が飛び交い、ミサイルでワイバーンを撃ち落として行く。その光景はアフォンス5世ら日本の軍事力の詳細を知ろうとしなかった者たちにとっては衝撃でしかなかった。


「馬鹿な…こんな事が、あってたまるか…」


 アフォンス5世は唖然とした表情で呟き、他の軍人に閣僚も同様に茫然とした表情を浮かべる。それ以外の場所では十数万もの市民が狂乱状態に陥っており、怪我人など数えられる状況ではなかった。


 惨劇は続く。流石に漂流者への機銃掃射まではやらなかったが、速射砲による弾幕は複数の船舶を粉々に粉砕していき、洋上には大量の木材が浮かぶ。そして3時間が経ち、その場に浮かんでいるのは日本艦のみとなっていた。


「全て、終わったな」


「沿岸部の砲台も破壊が完了しており、制海権は十分に掌握出来たと思われます。ここいらが潮時でしょう」


「ああ…相手もようやくこちらの実力を思い知った筈だ。1群と2群に対し、艦載機による講和勧告ビラの散布を指示せよ」


「了解」


 宗方の新たな命令に従い、2隻の航空機搭載護衛艦より2機の対潜哨戒ヘリコプターが発艦。そして空中に待機する艦上戦闘機の護衛を受けながら、市街地に向けて講和勧告ビラをまき始める。


 だが、悲劇はこれでは終わらなかった。ビラの空中投下を見た市民の何人かが、攻撃だと勘違いして攻撃魔法を放ったのである。しかも炎魔法であり、錯乱していた者は四方八方に向けて様々な攻撃魔法を放ったため、二次被害は凄まじいものとなった。


 斯くして、『リスビア軍港攻撃』と称される事となる戦いによって、海上自衛隊第一任務群はパルトシア王国の軍船600隻を撃沈し、10万人以上の将兵が死亡。パルトシア王国軍はたった一日で、総戦力の実に5割以上を喪失したのである。さらに首都リスビアの損害も手酷く、港湾機能はもちろんの事、ありとあらゆる社会インフラも崩壊の憂き目に遭う事となった。

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