25.初めての写真
無意識にテーブルに置かれた真琴のスマホ。
その画面にはつい先ほど部屋で自撮りした自分の写真が写っている。龍之介が帰って来た嬉しさや、早く一緒にハンバーグを食べたいと思った真琴が画面を消さずにおいてしまっていた。
「そ、それって、『おさげの天使様』だよな……?」
顔が真っ青になる真琴。
かぶっていた帽子をぐっと下におろし顔を隠すようにして答える。
「いや、これは、その……」
「めっちゃ可愛いじゃん!!!!!」
「え?」
大きな声でそう叫んだ龍之介を真琴が見つめる。龍之介は真琴のスマホを持ったまま鼻の下を伸ばして言う。
「ああ、俺の天使様。何か少し化粧したみたいで、ああ、尊い……」
目の前の本物を無視して、スマホの中の加工された真琴をじっと見つめる。真琴が龍之介からスマホを奪うようにして言う。
「か、返してください!!」
「ああっ」
大事な『天使様』を奪われた龍之介が真琴に言う。
「何するんだよ、マコ!! 俺の天使様を返せ!!」
「これは私のです!!」
それを聞いた龍之介が青ざめて言う。
「私、の……、おい、それってどういう意味で……」
少しだけしまったと思った真琴が答える。
「わ、私のスマホって意味。変な意味じゃないから!!」
それでも疑いの目を向ける龍之介が言う。
「ほ、本当なんだな?? 俺の天使様といい関係になっているとかじゃないんだよな……?」
「違いますっ!!」
はっきりそう言う真琴を見て龍之介が安心して言う。
「良かった……、安心した。お前、綺麗な顔立ちしているからまさかと思っちゃったよ~」
(どうリアクションすればいいのだろう……)
安堵する真琴にぐっと顔を近づけて龍之介が言う。
「で、真琴君。どうして君のスマホに俺の天使様の写真があるのか聞かせて貰おうか?」
「うっ……」
真琴は近すぎる距離にたじろぎながらも必死に言い訳を考える。
(どうしよう、どうしよう……、もう無関係だとは誤魔化せないし……)
苦し紛れに真琴が言う。
「し、知り合いになったの。龍之介さんの為に……」
「そうなのか!? なんていい奴なんだ、お前は!!」
歓喜極まった龍之介が真琴を抱きしめる。
「きゃっ!!」
突然龍之介に抱きしめられた真琴が思わず女っぽい声をあげる。
「マコ、お前、最高だよ!! 大好きだぜ!!!」
興奮してそれに気付かない龍之介。そして真琴を放して尋ねる。
「それで、なんて言うんだ?」
「なんて……??」
意味が分からない真琴。龍之介が再び近付いて言う。
「名前だよ、名前」
(あっ)
そんなことすっかり忘れていた。
龍之介が好きな『おさげの天使様』の名前を別途考える必要があることに気付いた。
(ど、どうしよう……!!)
動揺する真琴。
「名前、知ってるんだろ??」
問い詰める龍之介。真琴が答える。
「ご、ごめん。名前、まだ聞けていないんだ……」
「えー? こんな写真を貰っておいて、名前知らないのか?」
(ううっ……)
龍之介の言う通りだ。写真は明らかに『おさげの天使様』の部屋のよう。こんなプライベートの写真を入手出来て、その相手の名前を知らないのはやはりおかしい。
「は、恥ずかしがり屋なんだ。だからあまり会話できなくて……」
「恥ずかしがり屋だって!?」
かなり厳しい言い訳。真琴が汗を流しながら龍之介を見る。
「そうか~、天使様は恥ずかしがり屋か!! イメージ通りだ!!」
龍之介は腕を組み納得した様子でひとり頷いている。予想外に上手く場を乗り越えられそうな真琴が龍之介に言う。
「あの、ごめんなさい……」
龍之介が首を振って答える。
「いや、いいんだ。それよりその写真くれ」
「は?」
真琴が引きつった顔になる。
「いや、タダとは言わん。売ってくれ、頼む」
「ば、馬鹿なこと言わないでください!! 嫌です。変態ですか!?」
「いや、純愛だ。頼む、金に糸目はつけない」
「ダメです、ダメダメ!! こんなの持っているのを知られたら嫌われますよ!!」
「うぐっ……」
真琴の言葉が龍之介の胸に突き刺さる。確かに見知らぬ男が自分の写真を持っていたら怪しまれるだろう。真琴の言葉を理解した龍之介が悲しそうな顔で言う。
「分かった。俺も男だ、写真は諦めよう。その代わり……」
真琴はすぐに嫌な予感がした。
「最後に天使様の匂いを嗅がせてくれ」
「はあ!?」
真琴の背中に何か冷たいものが走る。
「な、なに言ってるんですか!? 写真に匂いなんでするはずないでしょ?? やっぱり変態なんでしょ!!」
龍之介が真琴を無表情で見ながら言う。
「お前も男なら分かるだろう。天使様、絶対いい匂いするぞ。嗅ぎたいだろ?」
「嗅ぎたくないです!! 嫌です!!」
龍之介ががっくり肩を落として言う。
「はあ、俺の人生詰んだわ……」
(どんな人生なんですか、もう……)
真琴は内心笑いながら龍之介を見つめる。
ぐう~
その時龍之介のお腹が鳴る。
「あ、ハンバーグ、温めなきゃ!!」
すっかり夕食のことを忘れていた真琴が慌ててキッチンへと歩き出す。そんな真琴に龍之介が優しく言う。
「マコ」
「はい? 何ですか」
エプロンを手にした真琴が振り返って答える。
「ありがとな、いつも」
その笑顔に一瞬どきっとする真琴。照れながら言う。
「感謝しているのは私の方です。龍之介さん、ありがとうございます」
龍之介がちょっと分からない顔をして答える。
「俺、何もしてないけどなあ~。マコに世話かけっぱなしで」
「そんなことないですって!! あっ、そうだ」
そう答えた真琴がテーブルに置かれたスマホを手にして龍之介に言う。
「あの、龍之介さん」
「なに?」
真琴が顔を赤くして小さな声で言う。
「その、もし良かったら一緒に写真撮りませんか?」
「写真?」
その言葉を龍之介が繰り返す。一瞬良くなかったかなと思った真琴に龍之介が言う。
「いいぜ、撮ろうぜ」
「はい!」
そう答えた龍之介の隣に真琴が駆け寄る。そして真琴がスマホをかざして隣に立つと、龍之介は再びその小さな肩に腕をまわした。
「はい、チーズ!!」
カシャ
「お、いい写真じゃん!! って言うか、なんでマコはこんなに照れてるんだ??」
肩を抱かれ嬉しそうな顔の真琴。ただ顔が真っ赤になっている。真琴が答える。
「は、初めてのスマホの写真だからですっ!!」
そう言う真琴に龍之介が笑って答える。
「そうだな。機械オンチの真琴君だから嬉しいんだよな」
そう言って笑う龍之介のお腹がまたぐう~と鳴る。
「はいはい、今すぐ準備しますね」
それに龍之介がまた感謝の言葉で応える。
――初めての写真
真琴はその龍之介との写真をもう一度ちらりと見てから、笑顔でハンバーグの準備に取り掛かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます