1-30 俺の拳銃
一つでは心
それは今手に持っている盾が一個であればの話だ。
だが今この激しい攻撃の中で、もう一つの遮蔽物は手の届くほど近くには無い、と言うかここで罠にかかった時は、近くに遮蔽物は一個もなかった。
車から最低でも10メートルくらい離れて等間隔に配置されていたのを、エイキチが確認して、罠だと言うことを見抜いた、すぐに目をつけて、近くにあった一つだけ持ってきただけで、
今、他の壁は、ハウンド達が銃口を出していて、近づけば近づくほど銃の精度はより正確になっていく。
近づけない、
遠距離攻撃の手段を持っていない、エイキチからすれば万事休すに思えた、戦闘の一場面だが。
盾を掲げたエイキチは、
「お前らのちっちゃい銃じゃあ、壊せなくてもなぁ!俺だったら素手で壊せんだよォオアア!!」
ガキン!!
さっきから音がなっていた。
その事にはハウンド達も気づいていた、相手の盾を剥がすことができていると、……
……違った。
銃の為に作られた遮蔽物、ある一定ラインの銃弾は耐性機能をギリギリまで衰えずに、防御することができる程度の物を、
まるで切れ込みが入った薄いTシャツを破くみたいに、両手の腕力だけで引き裂いた。
「二個なら
戦術はクロスライン、通常は二人で作る陣だがハウンドは四人、元々離れていた二人は角度を作らずエイキチに対して水平の方向で撃つ、それに対して車まで近づいた者は、車線が被らないように車が対角にならない場所で撃つ、そして二重のクロス線が出来る。
最大攻撃力のフルオートを一発も落とさずにしかも、集中火力も高く二箇所に強く打ち込める、強い戦術だが、弱点もある。
クロス線が進み、交わる所、角度が極限まで無くなる時に防ぐことができれば、盾はわずか二枚で防ぐことが出来る。
盾でなんて、普通は出来ないことだ。
ダイレクトに銃弾の重みがかかる!
でもコンぐらいだったら耐えられるぜ。
エイキチは重みを感じながらも、鼻頭に皺を作る、笑みを浮かべた。
ハウンドも足を止めない、相手が二つの盾を持つなら四方向からのダブルクロスラインを形成しようと動いた時、獣はその匂いを逃さない。
今だ!
目が光ったかと思う剣幕、
両腕に力を入れて、体の前で捻る。
鉄の塊を持ちながら、空中にジャンプしたのだ、そしてまだ、あり得ないことに投げる。
無慈悲な速度で飛んできた、鉄に一人は悲鳴を上げながら激突し、沈黙、もう一人の一番ゴツい奴は回避行動をとりつつ、銃をフルオートに切り替えて、撃ちまくり僅かに軌道を変える。
ッチ、
舌打ちをした、
ッチ、早いッ、銃をいつでも撃てる予備動作はすでにしていたのに、奇襲で一手遅れた。と
「反応で一歩遅れたな、」
頭を掴み、遮蔽物にめり込ませる。
薄れゆく意識の中で、唸った獣の声が聞こえたと思うと、カクンと首が、重力に導かれて倒れる。
それと同時に少し膨れた袖の中から、片手銃
が落ちた。
「なッ…」
エイキチも驚いたのだろう。
確実に魂を取れると思った作戦が、もし狙いを間違えていたら、もし一歩遅かったら、今頃銃で…と考えて半歩遅れて、黒テカリする片手銃を拾った。
動きながらの人間の視点は、かなり狭まると言われる、二割三割の力で早く走るだけでもそうなるのに、命を削り合う戦闘中なんて特に、視界なんてのは顕微鏡の先ほどに狭まる。
だがこの場でも、広く状況を見ていた、レッドベレーが一人呟く。
「マズイ…予想はしていたがここまでヤルとは、マズイ俺の盾が減って…化け物が、
アレを持ってくるしかない、でも持ってくる時には近づかれる。」
誰にも聞こえていない、はず。
その時、自分とバケモノの合間に立つ、数十メートルは離れている、その残り一つが叫ぶ。
「オイ何か無いのか!」
命からがらの仲間の声を、聞いて一番に出てきた思考は、「何を言ってるんだ」だった。
「バカが敵の目の前で作戦を言うわけがないだろうッが、」
息を整えて、ゴミの存在を吐くと、ハウンドの戦術を作った、崇高な己の思考に潜る。
切り札はある、
足りないのは残り一ピース、
逃走の時間稼ぎ。
「バカ?…そうだ、まだ一人いた。
サバンナのシマウマも、一番早いやつが生き残るんじゃ無い、一番遅くなければそれだけで良いって言うぜ。」
君が悪い笑み顔を、仲間にも相手にも隠して静かに笑う。
「…うわ〜〜〜、バケモンがー〜!」
って出来るだけ情けない声をあげて、わざとよろよろした足取りでレッドベレーは逃げた。
「…逃げたか」
舌打ちをしそうになったが、寸前で止まる。
相手は部隊だ、油断も隙もない連中だった。そこにちょっと拳に我慢させて、一人逃すだけで一対一が完成する。ならば、
大抵のものでは死なない男、のエイキチでも流石に、一人を深追いして、もし罠があったり、背後から撃たれるなんてことになったら、終わりだ。
思考はあくまで冷静だった。
今、この状況を人目で見たりすれば、攻撃に怯えて逃げた臆病者、それとまだ撃ってくるヤツ、優先度が段違いだ。
「まずは一匹一匹、潰してやる。少なくともアセビに銃を向けたお前らに、助かる道はねぇ。」
エイキチのセオリーは変わらない、まずは撹乱、エイキチが暴れたおかげで、手の届かない範囲に並べられていた遮蔽物も、もうバラバラに散らかっている。
ガンッ!
エイキチが遮蔽物に隠れたと思ったら、突然固い物がぶつかり合う音がして、遮蔽物が舞い上がった。
それが何個も、何個も、
同時に起こったようにも見えるそれの種明かしは、ただただ早く走ったエイキチがただただ落ちている遮蔽物にアッパーをしてるだけだ。
遮蔽物を空中に投げて、相手に落とす。
潰されたくない相手は堪らず逃げる。
そうすれば狙いは落ちる。
「さっきの奴ぐらい、冷静な奴なら効かなかったかもしれないけどなッ!」
既に肩の上まで構えた拳をギリリと握りしめた姿、もうもうと噴き上げる土煙を全身で切り裂いて、現れた。
ド!
かろうじて避けていた迷彩服だが、意識が向かってくる遮蔽物に完全に向いてしまった時に、なす術もなく、背後から獣の拳が飛んできて。
そして一撃決殺。
ヘルメットが変形する。
そしてまた一人動かなくなった。
「あと一人は、逃げたやつ、か。」
もう邪魔するものは居ない、まっさらな綺麗な車を見て、エイキチは牙が引っ込む。
「ん?でも別に追いかけなくてもいいのか、逃げたんならもう車を襲ったりはしねぇもんな。」
かなり無理ある理論で、納得のポンを片手に押した。
その時、逃げた方角にあった、古臭い遺跡の中で、埃をかぶっていた布が剥ぎ取られ、怪しく光る鉄砲が顕になった。
「待ってろよ、ボス」
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