1-29 二匹狼


 ガショガショ、カチッ。

暗闇の中、リズミカルに叩かれた鉄の音がする。

ライフル銃のスライドを動かして、薬室の中に異常がないか弾が詰まっていないか確認する、銃をまるで自分の体のように、使い慣れているの熟練した動きだ。

その屈強な男達の一人がしゃがれた小声で話す。


「またアミにかかったみたいだな、…しかも車一台で…一人旅か、行くぞ。」


4人…もっと増えている…8人の同じ背格好の集団、半分の人数は灰色と緑色が混ざったような迷彩柄を着ていた。そのまた半分は男の背後から徐々に湧き上がってきた黒い人間だった。


いや、違う。

黒い人間は、影が自走しているみたいにヌルヌルと滑らかな動きをしていて、倍の人数に見えていた、動きの鋭利さゆえに見える正確な幻だった。


建物の影から、その四人の男が出てきて、日に照らされやっと何者か見える、自衛隊から盗んだ迷彩服に、襟元につけられた狼のワッペン、特徴からするにハウンドと呼ばれる、個々に名を上げた殺し屋が手を組んだ、新進気鋭の盗賊集団だ。


四人の粗暴そうな見た目とは裏腹に、静かな進軍、時はさほど経たず、黒色のバンが見えた。


「獲物はたっぷり積んでそうだなぁ」

合図でもしたのか同時に、個々がいやらしい舌なめずりをする、一人は上唇を舐め、一人は下唇を舐め、口の端を舐めるものもいて、また一人は犬歯を磨くように舐めた、その姿はまさに狼。

その中から一人、背はさほど変わらないが、少し痩せ型の、赤いベレー帽をした男が口を挟んだ。

「だが落ち着け、この国道を一台で来たと言うことはそれだけ力があるってことかもしれない。〜かもしれない殺人…だぞ。」


「ああ当然、二人だけでいく、」

一番ガタイもゴツく、良い顔をした多分この集団のボスが聞き入れ、次に話なんて聞かなそうな集団が聞き入れる。


「テメェらバンには絶対撃つなよ、報酬が減っちまうからな。」


四人全員が無言で頷き、一呼吸おいて、

一秒後、一斉に、一歩踏み出した。


部隊の歩き方では無く、今度は足を力強く踏み込み、地面を蹴るようにして歩く。激しく音を出すのには威嚇の意味もあるんだろうと思う。

車を取り囲むように二人は歩く、ドアの片側にだけ一人がつくと、銃を構えながら両の目を開き、車内を確認する。


そこには先ほどと変わらない、エンジンかけっぱなしで車内のあったまった車しかなかった。


「誰もいない!」

一言言うと、近づいていた二人は瞬時に背後を警戒する、背中を寄せて周囲を見渡す。

相手は挟み込みを読んでいて、動いているならば更に外から挟むはず、だから的確な良い判断のはずだった。


「上だ!」

レッドベレー男の声が聞こえて、反射で顔を上げる。

上の目の前には、異様な笑顔をした男が。


拳を振り下ろされた。

土埃をあげて、拳と地面とがぶつかったはずなのに火花が散った。


いつ何時も自分たちを支えてくれている地面ですら陥没する威力、人間にかすりでもしたら、もうどんなスーパー医者でも手の施しようがないだろう。

規格外の攻撃のために訓練していた、軍隊式のローリングする回避行動が間に合って二人とも助かった。


今の一撃で、全員の脳から危険信号が出た。

そして攻撃を避けられると言うのは、エイキチからしても意外なことだった。


コイツらめんどくせぇッ

冷や汗をかく。


エイキチが得意の速さで、早く決着をつけようとしたところ、次の瞬間には射線が二つ、首と頭を狙って伸びてきた。


それはエイキチの首を掠めて、車の両横を抜けて、アサルトライフルの弾は1000メートルぐらい先に落ちる。

反射の限界は超えていて、野生の感で避けたのだろう。


攻撃を避けた二人の位置からでは、どう狙っても車に掠めることになる。一瞬ボスの命令なんて無視して打とうかとも考えたが、仲間の足止めをした時を使って、一旦掃ける。


今までの攻防は互いに、予想外のスタートダッシュの結果だった。からこそ学ぶものもあった。次こそ、本当の死合。


エイキチの顔からも、冷や汗が引いていた。


一呼吸、置かせてもらえない。


今度は四方向からのダブルクロス射撃、ビンゴだったらとっくに景品総取り出来る、抜き方。


車を止められた時から目をつけて、近くに運んでいた、緑色の遮蔽物の壁に隠れる。

だがハウンドもエイキチよりは遅いが静かに動く、

逃げ場所がないように撃ち続けて、ゆっくりとゆっくりとだが、追い詰めれば射線は必ず通る。


「クソ、相手は4人どれも銃の腕が安定してる。そしてこの統率力、カリスマと作戦も固い…コレはマズイなぁ。」


ってか今の攻撃で一人も倒れてねぇなんて、まじか?自信無くすぜ。


背後から銃弾が追ってきていて、咄嗟に力の制御が出来なくて、掴んだ時にひし曲がって持ってきた遮蔽物の鉄片だ。

それが乗った手を眺めて、もう一度強く握り込んで見た、グシャと多分音がなったんだろうが、聞こえるはずはない、


掌の中にはやっぱり、千切れ掛けの鉄片があった。興味も無くなったようで、捨てると

強く閉じられた一つの拳を見る。


銃痕の残る音が無数に、流れ続けている。

嵐の中、俺はまだ少しでも残った時間で策を練る。

考え続ける。


それに四対一だ、遮蔽物の盾もいつかは突破される。


一人ってのもツレェな、どんだけ頑張ろうが行動は一回だけだ。俺が一回行動したら誰かが攻撃してくる。それに比べて相手は4回、もしかしたら同時に攻撃してくる。


バキン


一人ならそれも出来ない、

相手が油断、過剰に反応するのどっちかしねぇと、二回は動けねえ。


積極的に戦闘に参加していた時以来か、久しぶりに感じる身を削り合う、殺気に心が踊る。

拳が鳴る。


この拳で何人の人間を、壊したか。


俺は薄汚くいやらしい、舌なめずりをしかけた、でもポッとした温かい、小さい物が、自分の中から突如出てきて、手を差し伸べてきた。

まるで天使かと思う白い装束に、長い藍髪、

の少女。


止める。止まる。止まった。


安心させてくれた、昔の自分の肉を犠牲にしても、相手の骨を断つ、どんな手を使ってでも勝つ、ワイルド精神に支配されそうだった俺を、


また止めてくれた。



「一人なら……か?」


バキン!

大量の銃弾に晒されて、流石の遮蔽物といえど、段々と外装が崩れてきて、剥がされていった鉄片が落ちてくる。


そして、エイキチのそこまで大きくも無い頭でも一つの案も出てきた。

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