1-25 子供たち
ブロロロロロロ……
原付が走る、薄い黄色に塗られた、柔らかく感じるフォルムに可愛らしいサイズ、その乗り物にして、異様なほどの重低音がなっている。多分改造がされているんだろう。
ハンドルのブレーキをゆるく握り、エイキチとアセビの体重が乗った車輪が止まる。
アセビは原付から飛び降りて、エイキチの横をピッタリ着いて歩く。
エイキチは鬱陶しそうにケーブルをてきとうに足で退け、タコあしの電波塔まで少しの距離、歩いて向かった。
ちなみに、原付はエイキチが路肩まで押して歩き、足で退かして行ったと言っても、まだ車両の置き場としては居心地のいい場所では無いところに、無造作に放置される。
「最初からこうしておけばよかった…そうすれば、このクソ長え道を、足で行き来しなくて済んだのによ。」
この街は、ケーブルが道を狭めている、そして車両の幅では進めなくなるところからライトの居場所までは、歩きになるしかなく片道30分はかかる。
帰りもあると考えると、ライトには小さい用事であっても、少なくとも1時間は時間を食う。
そこでだ、原付と言う超絶便利な乗り物をずっとバンさんに担がせていたのに、自分は埃を被らせておくだけで最善の活用法に今まで気づかなった、自分に嫌気がさす。
原付がありタコまではすぐだった。アセビを前にして、梯子をコツコツと慣れた足取りで上がると、目の前のサイズ感もありちょっとだけ猿みたいだな、と女児に対して失礼な事を思った。
この一旅なんと言ってもビルの屋上が目標地点ということもあり、上下運動することが多かった、二人は階段を上り下り登り降りを繰り返し、遂には身体がその環境に適応した。
創作の中の話なのに、二人とも腕と足が少しだけ逞しくなった気がする。
(本当に猿に近づいたのかもしれない、生命の逆神秘。)
アセビが先に登った、梯子の最上階にスラッと伸びた長い足がかかり、体は下に垂れる。顔の真横にある手すりをいやらしく手で触ると、急に逆手で掴み腕を曲げる、そして腕の反動を利用して、踵を支点にして体の上部を跳ね上げる。
側から見てもわかる、無駄に軽やかな身のこなし。
何処からともなく拍手の音が聞こえる、自分の足元ぐらいから、…アセビだった。
無表情で一定のペースでずーっと、手を合わせる。
エイキチは、曲芸じみた動きを披露した後だと言うのに、空中にいる何かを目で追う様にして上を見た。
俺は今回も無事に戻って来れた、
憂に満ちた影が、オレンジ色の夕日にくり抜かれた
カーンジャーン…カーンジャーン
四方から強烈な隙間風が吹く、この街は元々大都市のビル群だった。
が、今になっては誰もいないし、ビルも隠れて見えない、コードでぐるぐる巻きにされたビルだと大体のシルエットから、かろうじて分かる、電波塔から四方八方に伸びる様に、家やオフィス、その他も同じ形で、ビルとして段々と形成されて行ったんだ、それで今の景色に至る。
風はまるで、罠にかかったみたいに壁に複雑に打ち付けられやがて、街のちょうど中心にあるココに、この気候一帯の風が収束する仕組みだ。
「やっぱりコイツは何もねぇな。」
エイキチはタコと見つめ合う。
「隙間風が吹くぐらい?」
「そーかもなッ」
目を落としアセビと目を合わせる。
気がつくと、ここに来るまで歩いていた時間よりも長く止まってしまっていた。エイキチは指をポキポキ鳴らして、ドアをこじ開けた。
立て付けが悪くて音が鳴ってるのか、エイキチの腕力で鉄の扉を捻っているのか、分からないがドアから悲鳴の音が鳴る。
バキ
「よお、鍵閉まってたぞ。」
部屋の門を潜った時から、急に雰囲気が変わった。アセビを見ていた弧を描く優しい目なんて無くして、一直線の切り目になり威圧感を出している。
そんな顔で普通に仕事の報告をするようです。
「目標前の道路が日光で灼熱だったぞクソメガネ、ソレのおかげかビルの中に人は入って無さそうだ、上がって行っても重要そうなものはなかったが、ピアノホールで変な物を見た。上層まで行ってやっと全貌が見えて壁も床も柱も破壊は進んでいない、お前の部屋とは大違いでな。最上階付近ファッション店に野犬が数匹、成犬は後数ヶ月もすれば死ぬ。でも成犬の中で数匹、防衛本能が働いている者がいた多分後ろに仔犬が数匹いる。群れも数年もすれば死滅するがその子犬の子が産まれるなら危険が長引く。お前の体に害獣剤入れて食われに行けば万事解決だろ、食われてこいよ。
まあそんな事より、屋上手前で変な色のシャッターを破壊した、仕事頼むなら事前に上げとけ、屋上にてアンテナを発見後、即障害物を除去。ソレ以降はお前も知ってるだろう巣の中身は適当に捨てておいた。ビル内部の帰りにかかった時間は二日、報告はこの程度だ。」(実際はもっと話しています。)
エイキチの真面目な顔、それはまるでサラリーマンが上司に自作のプレゼンを披露している時のような、相手もサラリーマンが急いでいて間違えて女性専用車両に乗ってしまった時、急な
同じ言語なのに、普通の人では到底理解する事も、聞き取ることも出来ない早口。
しかも鋭利な悪口も織り交ぜられている、まさに、マシンガン
火中にいる、そここそライトの腕の見せ所だ。
ライトの身体能力は普通の子供以下だ、
普通とは言ってもこの世界で生まれれば大抵が少しずつ居場所を奪われていく苦しい世界にもまれる事だろう、その世界で育った子供は、目の前の世界で生き残るために適応する。
そのおおよそ10歳程度、の子供と比べるとライトは貧弱だ。
だがここまで生き残ってこれたのには、
エイキチや大部分の生存するための肉体能力だけでは無い、頭脳的な能力が深く関係する。
複数個あるが、ライトの特筆する能力は、まず情報処理能力だ。声を聞いているのは当然として、チラチラと口元も見つつ、正確なメモを取っているのだ。
ライトはエイキチの方を見ると、相手の口の動きを見て、何を喋っているのかを知る、読唇術もしてるんだろう。
そしてメモは、ノールックでパソコンで取っている。
大きな画面に映っているのは仕事の記録として適切に、改変しつつ無視すべきところは切除して、悪口部分には個別のページで、一問一答式で対応している。
(犬に食われればいい→俺が死んじゃうと情報網が死んじゃう笑。の様に)
これら全てを同時に、生き残るために得た能力だ。
「うーんわかったわかった…何となく分かった、じゃあちょっち時間もらうよ。」
そう言うとまた、椅子に深く腰をかけた。
「あんな大口叩いたんだ。やれよ」
それを見てエイキチは、凄んだ。
何度か手を組んだり、依頼を受けたりした中ではある。あの性格も知ってはいたが、エイキチはあの時、依頼を頼まれた時の生意気な態度と、今回の事前情報の少なさのせいでアセビを危険にさらせた事に、結構イライラを募らせていたのかもしれない。
エイキチは気づかれない様に、近くにあった書類を踏みつけて、平然とじゃあという感じで、手を振った。
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