1-24 牛とネズミ
エイキチは、ライトから頼まれたアンテナの掃除を、しにビルの頂上まで登ってきたのだが、
そこにあったのはただの木材の束にしか見えないアンテナ(笑)だった。
二人は呆れて、目の前にあるアンテナをライトに向けた、苛立ちを混ぜて蹴る。
エイキチは二度蹴った。
それを見てアセビも二度蹴った。
パラパラと小枝が降ってくる、けど雑に積まれた木材は一本も崩れる様子がなかった。
接着剤のクッション性が強いのか、エイキチの力加減が凄いのかは、わからないそんなことを考えるより先に、落ちてきた鳥の巣をキャッチする。
主に木の枝でできた鳥の巣は思っていたより重くて、エイキチの力でも地面スレスレで、足を広げた踏ん張る形で、衝撃を緩和した。
ドサッ!
「ウオッ!結構重いのな、………アセビ見てみろよ。」
そして、少しだけ金属片や針金が混じって少しだけ光っている鳥の巣、中心のくぼみの中には、やっぱりヒナがいた。
そのヒナたちはこんな世界でも、小動物らしく、身を寄せ合っていた。
「どうだ、お前の助けたヒナだ、次はどうしたい、また助けるか、俺のオススメは食うことだが。どれでも良い…」
少し…いや、かなり性格の悪い、ゲームだが、俺は何となくソレを言っても大丈夫だと、このビルの過程で知っていた。
飢えた犬に手を差し出したり、
突拍子もなくて、かなり危なっかしい子だけど、優しい。
「ジュルリ………ん〜〜、エイキチ、助ける」
「そんなことで悩むなよ!そして…そのよだれ拭け、ヒナが…もう絶望してる。」
多分優しい子だと信じてる。
「どこに助けるよ、アンテナとちょっと似てるし、そこの避雷針に刺すか!」
「エイキチ、それはなんかダメな気がする、」
「まあそうか、床に置いたら犬に何されるかわからないし〜……あそこだな!」
ある程度ビルの屋上を見渡して、安全そうなところを探す。
見つかったのは鉄格子の中にある室外機の上、この強風だロープで巻きつけてやったら、バリケードもあって、ヒナにとっても親鳥にとっても、これ以上にいい場所はないだろう。
俺はそこら辺で見つけた棒にタオルを巻きつけた、旗をついでに立ててやることにした、ソレにはアセビも賛成した。
「カッコいいからな。」
「な、」
「ついでに目印にもなるし。」
「じゃあ最後に。」
アンテナに近づいていって、巣の残骸が残っているあたり、盗聴器があるであろう位置に登った。
「おーいライト、治ったか?」
沈黙が続き、かなり時間差があるのかと思って、少しの間聞いてやると、
『治ったよ、ザーありがザー…』
「報酬は後でもらうから、今は良いじゃあ、帰るからな。」
『えザーそんなのザー聞いてないッザーー』
なんか途切れ途切れのライトの声が聞こえた気がしたが、俺はニヤリとしながらビルを下っていった。
帰還方法もまた、変わらず階段を降りることだ、行きは怖い帰りは良い良いの通り、
行きは初めての道だったが、帰りは楽だ、
もう一度通った道を逆に戻るだけだし、
もっと言えば、階段を早く上がるのと早く下がるのでは、雲泥の差が起きる、当たり前のことだ。
「ヨシ登ってきたみたいに競争するか、アセビ。」
「ン、する!」
階段一歩手前の、点字ブロックの上で足を揃えて、互いに走り出す準備をした。
アセビはスカートの裾を、帯の中に入れて図らずか、バレエ衣装のモコモコなチュチュになっていた。
エイキチは探索用の厚底の靴を変えた。
エイキチの声がスタートの合図になって、始まる。
吹き抜けの穴の方から、二人の距離を見てみると、エイキチがかなり後ろで高い場所にいて、グングンと離されていった。
何故か、足音は一人分しか聞こえなかった、そうエイキチは一歩も歩いてなかった。
何を隠そう、俺には秘策がある。そんな事も梅雨知らず短くて細い腕を必死に降って走る姿が、面白くて鼻で笑える。
「俺の秘策!それは!……手すりを滑べる事だ。」
手すりは金属製、そして断面を見れば上が広い正三角形になっている。
そこに履き替えた靴の、タップダンスシューズで乗る事で、階段を降りる事なく、摩擦を感じず速度で降りることができる。
その何かが滑って、近づいてくる音を聞いてアセビは振り返った。
高速で近づいてくる男。
「どうしたよ!そんな遅さで勝負になると思ってんのかよ。」
煽りも聞いたアセビは、自分もと俺の真似をしようとして手すりに登り始めたが、
滑ってきた俺がキャッチする。
「流石にあぶねぇよな。うっかりでもこっから落ちたら、50階以上真っ逆さまだぞ。」
そう言われて、下を見てしまったアセビは、俺の服を掴み手に力が籠った。
「怖いか?」
「…分かんない、」
「そっかまあ良い、しっかり掴んどけよ!」
抱えている方の腕では、バランスを調整する事もできないから、
反時計回りする回転階段はスピードが乗れば乗るほど、右側に引っ張られる力が上がる、
それらの対処法として、
姿勢を低く保ち、右手を広げてバランスの調整をしていた。
左手側に抱っこしたアセビは、初めの方は俺の体に顔を埋めていたが、無意識の恐怖心にも慣れたのか、
最後は景色を見て楽しんでいた。
上から埃まみれのガラスを、透けた日の光が下ってきただけなのに。
吹き抜けの内側に貼り付けられたガラスが、汚れた形だったり、壊れた形だったりを、自身の証を光に描き、
ちょっと汚いビルに降りてきただけの光が、
数々の年月を得て、幾星霜この一瞬だけは、賜物としか言いようのない、海中の様だった。
ビル内での帰還は、二日で終わった行きの四日と比べれば半分以上…慣れてきたのか、
一度通った道だから、逆につまらなすぎたのか、
時間が経つのを感じなかった、早いもんだ。
…本当に……早かった。
「「ハハハハハハハハ!これ綺麗!
本当に綺麗だな!」」
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