1-22 体育祭
目前にあった、曲がり角から5匹の野犬が飛び出してきた、けたゝましく鳴き声をあげて蹄をフローリングで滑らせながらも四脚を壊れそうな速度で動かし疾走して、獲物を見つけた野獣の眼光を向けると、鋭い牙を見せて襲いかかって来た。
「アセビ!退け!」
小中型動物は、先に小さい物を狙う性質がある、今一番狙われるのはッ、
俺の想定通り、飢えたイヌ畜生共は、アセビを発見すると体勢を低くし加速して、その速度で地面を駆ける弊害か、足の振動で粘度の高い涎を飛び散らせながら、汚い顔で飛び跳ねた。
「あ、」
アセビの目の前には、目を細めて口を大きく開けているのが嬉しそうに見える生き物がいる、でもその口の裏には鋭い殺意がある事は知っている…昔から知っている。
痛みを和らげる方法も、
あくまで普通のことをする様に、手を横にしてイヌに手を差し出した、そしてもう一本の手を伸ばして頭を触りそうになった、
瞬間、
空中にいたイヌを進行方向のちょうど垂直に足が飛んできた。
エイキチは足を高く上げて、ほぼ真横の角度で標的を捉えると、最速で足を伸ばした、靴底に頭が当たり、骨の折れるエグい音を立てて飛ぶと棚に突っ込んだつもりが、弾かれてまたグロい音を立てて、動かなくなった。
「…1匹」
俺は連戦を続けた、
次は2匹が少し遅れてアセビのいた場所に飛び込んだ、がもうそこにはエイキチが立っている、片手に持ったままのダンボールを犬の視界の前に出して興奮の注目を引く。
犬は見事に釣られてダンボールを2匹で噛む、俺はその一瞬で、イヌ2匹の重さを片手で持ち上げて、後方の回転階段のほうに投げる。
イヌはそのダンボールを最後の晩餐に噛んだまま、回転階段の中心を外れて、何度か回転、階段の壁や飛び出た手すりに激突しながら、やがて床にペチャっと落ちた。
「3匹……」
武器を失ったエイキチは改めてしっかりと構えをとる、目の前の2匹のイヌに向かって。
バオバオ!グルルルル、ヴォーー!!
角から飛び出してくる時から、今までずっと突撃してきたイヌの背後に回って様子を見ていた黒い犬、がそのもう一歩後ろにいた、白いイヌに背中、犬で言うとケツを押されて、戦闘の口火を切った。
「オルァア!」
俺はそんなイヌに容赦なく、その開いた口を閉じさせる様に顎を殴る。
パキッ
エイキチのコンクリを砕く剛腕の直撃を喰らい、生き物として異様な音が鳴り、吹き飛ばされ白いイヌの足元に力なく転がる。
白いイヌは少し飛んできたイヌを避けるだけで前には動こうとしない、やっぱり
「お前がボスか、細い体だなその体を見るに、食料を求めてビルに上がったのは良いけど、階段を降りれなくて降りれなくなったんだろ。」
エイキチに襲いかかってきたイヌ共の体を見れば、筋肉が少なく、脂肪なんて無くて、背中から背骨と肋骨が見えるぐらい、痩せ細って足も今にも折れてしまいそうなほど、プルプルと震えていた。
「覚悟はできてんだよな?」
グルル、バウバウッ!
俺が拳を打ちつけて覚悟を問うと、
犬も答える様に牙を見せて唸って見せた。
俺がまた足で蹴ると、それは予想していたのか、警戒していたのか、わからないが避けた、コレで本格的にわかったコイツがボスってことも、このビルの先の景色も、
体勢を低くして地面を這う様に高速移動して
瞬時に足首や太ももを狙ってくる、
イヌの速度は恐ろしいほど早く、しかも足元の攻撃をしづらいところに行き、地味に攻撃をしてくる、犬にしてはかなり手強い。
でも犬以上の速度で動ければ、問題は無い、
最初アセビにイヌが飛びついてきた時も、コンクリを砕く筋力を瞬間的に走力に振って走れば、犬を超えた速度で動くことも簡単だ、
足元にいた白い犬を高速で動かした足でボールみたいに操り、足を巧みに使って蹴り上げる。
空中にいる犬の毛並みが悪くて、肋骨の透ける、腹の中心を蹴る、犬の構造なんて知るはずもないが、多分心臓のある位置に足を叩き込み、地面に蹴り伏せる。
キャンキャンキャン!
キャーー………
バウバウ!
しばらくの間、気絶をしていた一番に突撃してきて顎を壊されたイヌは、まだ少しの数の背後にいた犬を連れて、バウバウまだ立ち向かうように威嚇している、僅かに耳を震えさせて。
飢えているイヌたちに俺は白いイヌの遺体を蹴り与えると、それを力の弱い顎で咥えて去っていった。
「犬、怯えてた」
アセビも手を震えさせて、そう言ってきた。
「まあそうかもなぁ」
子供には大人には聞こえない動物や物の声が聞こえるって言うし、と思った俺は少しふざけながら、
「俺にビビったか、それともこの先いるのがクマとかか?ソレならマズイけど、
子供の戯言で終わればいいんだけどな。」
安心させてやろうと
勝負に勝った狂気的な愉悦顔を抑えて、必死に作った優しい笑顔で楽しそうに話した。
俺は少しの間、震えが治まらなかったアセビを抱いて、ほんの少しの間休んでから、イヌたちは向かっていない方向に進んでいった、
すると道の先に一つ大きな看板が立っていて、そこには大きな上矢印と、大きな文字と数字で『この先屋上 120階』と描かれていた。
「アセビ、多分もうそろそろだぞ。」
疲れて息を切らしている、アセビを励まして最後の廊下ゆっくりと見渡しながら歩いて、最後の階段を登ろうとした直前、
完全に閉じられた
頑丈そうな鉄筋のシャッター
ガッシャッッッッッッン
「へ?」
俺は想像していた空気の澄んだ街を一望できる様な、景色とはかけ離れていて、情けない声を出してしまった。
疲れて、そのまま歩いていたアセビは目の前のシャッターに気づかずにおでこをぶつけて、おでこを赤く腫らした。
「ンンン!! イタ、」
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