1-21 運動会
ジョボボボボボボ…ジワーー、
アセビは熱々に熱せられた、物をエイキチの投入口にあてがう、そのまま少しだけ時間がかかって、アセビ持つ物の細くなった穴から、勢いを増した液体が飛び出した。
あったかい液体と外気との温度差で発生した白い湯気が上がる。
「アッ、オイアセビ!ちゃんと入れろよッ」
微量に濡らして、汗を流している様なテカリある顔で、久しぶりに貰えたご褒美が待ち遠しくて下唇をゆっくりと舐める。
「アッツ!アッチイ!!、オイアセビ!加減をしろ傾け過ぎなんだよ。」
アセビのプルプルする腕で、熱湯の入ったヤカンをカップラーメンの投入口に入れる、その動作が危なっかしすぎて、ヤカンの持ち手を俺も持った。
だが時すでに遅く、周りにはアセビの容赦のない入れ方で飛び散った茶色の半透明の汁が、床に斑点模様を描いていた。
「アセビ、お前のにも入れるから、好きなの持って来い。」
コクッ
アセビは大きく頷き、カップラーメンの山をガラガラと崩しながらも手を突っ込んで、一つ選んでくる。
選んだのは白い色のカップラーメン、よく罰ゲームとかで食べる用のスイーツ味のカップ麺だった。
「コレッ」
「おお、初めてでそれいくって、かなりクレイジーじゃねぇか」
アセビがカップ麺の容器の蓋を、ギリギリと全力で引きちぎる。待っていた俺がカップ麺に熱湯を入れようとすると、その上に袖を上げた腕を出してきた。
「ハイハイそう言う、ボケはいいの、」
俺がアセビの腕をペッとはたいて適当にあしらうと、アセビはよくわからない表情で薄手のカーディガンの袖を下ろした。
数分、容器に書かれた時間きっちりが経った、その間二人は漂ってくる湯気についた匂いや、麺がふやけていき微小な具が膨れていく過程を見て、よだれ留めることなく垂れ流して待ち続けた。
「…いただきますッ!」
「あ、いただきます、」
パパンッ
乱れた拍手が食事開始の合図となり、二人の前に並んだカップラーメンに食らいついた。
何本かの麺を箸で掬い、息を何度か吹いて湯気を上げ麺の温度を急激に下げる、コレをすることで麺が一気に引き締まる、そして一気に大量の空気と麺を啜る、久しぶりに聞いた麺を啜る音と、流れ込んでくる汁の感覚、全てがうまい。
出来るまで数分間も待った食べ物を、一分のかからない時間で、残りが数口で食べ終える程度になる、
そんな時、そろそろ食べ終わってるかとアセビの方を確認すると、いつもなら俺より早く食べ終わっている、アセビの食事のスピードが異常に遅かった、と言うか汁を啜っているだけだった。
「アセビどうした、挑戦的すぎたか?」
アセビにそう聞くと、首を横に振る、
カップ麺が置かれていた目の間の場所に目を向けてやると、持ってきた箸が綺麗な状態で置かれていた。
咄嗟に思考を回転させて、今までの食っていた場面のアセビの手元を思い返して見ると、全てが素手だったことを思い出す。
コイツもしかして、食器を使えないのか!?
…よくよく考えればそうか、あんな家で食器を使わせていたなんて考えられない。
「アセビッこっち来い、」
アセビを呼び、目の前に対面する様に座らせる、アセビの手からカップ麺を奪い取ると、自分の箸を入れて麺を掬う、熱湯の中から出てきた麺は美味しそうな匂いの湯気を出して、アセビを誘惑する、アセビの喉は勝手に音を鳴らして、唾を飲み込む、そしてアセビの前に差し出される。
「食え!」
大きな目で麺を追う様に見ている、その麺を乱暴にアセビの口元に押し付けて、食わせる、一度は口に入っていくモグモグ口を動かして何本かの麺が落ちていくが、アセビの口の吸引力では吸えなくて、全ての麺が汁の中にぼちゃんと落ちる。
そして飛び跳ねた汁がちょうど、俺の目の中に入り、網膜を直接、攻撃される。
エイキチ人生初のワンパンKO
「…じゃあどうすんだよ!」
俺は拳で叩いて、地面に窪みを作る。
「……エイキチ、もっと上に持って、」
「あ、上?まあ良いけど。」
さっきと同じくらいの量のカップ麺を箸で掬って、アセビの頭を越してちょうどアセビ大きく開いた口に、麺のしたが入る様な距離、
正確にアセビの口に入れてやると、下からチュルチュル吸って、麺の上の方まで上がってきた。
突然の不可能で不可解な縦移動に、
エイキチは爆笑した。
「ハッハハ!オマエッ、そんな食い方どこで覚えたんだよ、アッハハ……」
何度かその動きを繰り返して、茶色の汁がついた麺も食うと、エイキチのツボに入って爆笑して完食した。
そんな楽しい食事を終えて、
俺たちはまた、あの仕事をする。
下衆な宝探し、
使えそうなものはないか、高く売れる物がないか、純粋な心なんて失って、金銭欲と楽をすることしか考えていない、汚れた汚い欲だけに塗れた手術だ、他人の部屋・他人の家、安心できる唯一かもしれない居場所を踏み躙る様な、いやらしい顔で物色して、盗み取る窃盗だ。
ゴソゴソ
「また?」
「当たり前だろ、なんのために売り物を
相手の陣地に置いてきたと思ってんだ。」
最近は話すことも多くなってきた、コレは大きな成長だ、こんな関係性を続けていければ、きっと…多分……
今の時間に仕事に要らなかった無駄なことを考えて静かに、無情感な孤独感を感じた俺には葛藤がある、
……でも良いのかコイツにこんな生き方を教えて、でも俺が教えられる事なんて、コレぐらいなものだ、俺の教えれるのは俺の生き方だけ、ひっついてくる奴が変わってる奴ってだけで、俺の生き方は人に嫌われる生き方だ、
アセビは俺と違って、そんな人間じゃない、良くは分からないが虐待を受けていても、腐らずに優しい目を持ってる。
やっぱり俺なんか、じゃあ…」
と考えている最中、
目の前ある空のダンボール、破られた袋、
無益な空箱たちにあまりにも引かれる利益が無く、軽く悪態をついて、缶を投げた。
「何もねえな……
あ?、前から何か来てるな、」
バウバウ
複数の飢えた獣が、興奮した叫び声を上げて、鋭利な自前の刃物がついた口蓋を開け閉めする音が響いて、明確な脅威が近づいてくるのと、
同時に水分の少ないドロっとした、粘着質の物質が手に張り付いてきて、空虚な売り棚の中から食いちぎられた様な喰痕の残る包装箱を拾い上げた。
「チッ、犬か、匂いに寄せられたか。」
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