1-15 オマエラ

「おかえりさま、」


元気な笑顔で、何の曇りもない眼で言ってくる、こんな顔で言われたら、

…ちょっと前まで家族とか友人に言うような言葉を全くの他人に言うことに恥ずかしがっていった俺がより恥ずかしくなる。


項垂れてかなり気持ち悪そうにしているエイキチに向かって、カトレアは異常なほど昨日の夜の事を話し続ける。


「エイキチ〜、良い夢を見させてもらったよ

ありがとうね。あの子やっぱり可愛いわ〜、

特に特に、あんよが可愛くて小さいのに爪もちゃんとしてて、子供の足の裏ってあんなに柔らかい物なんだね〜」


恥ずかしくなる。


「体からまだミルクみたいな匂いがして、少し汗の匂いもしたけど、それも匂いが薄くてね、水みたいに澄んでて、あ!もちろん変なことはしてないわよ。…でも」

最初はあんなに曇りなき眼だと思っていたのが、今では犬を可愛がりすぎて異常な行動をしてしまう飼い主みたいな気持ち悪いさと異常な愛情を感じさせる。


少しの間の沈黙の後、カトレアは、

「やっぱ子供っていいわね。」

純粋な目に戻った。


根本的なところでは実はカトレアが一番真面目だとも思う、けど…流石に異常行動が多すぎるところがたまに傷だ。


「……水くれ。」

その正気に戻ったのを見計らって、

グロッキーなエイキチは水を要求をする。

「あいよ!」


カトレアは地面を軋ませて、体も重いだろうに、バーカウンターの裏まで行って、水の入ったグラスをもらえた。


その時、

警戒心が強かったアセビを段々と気になる物やお菓子でつっていきやっと、メタルのアセビと遊んでいる声が聞こえた。


「コレなんてお嬢ちゃんに似合うと思うんだけどな、」

メタルが持っているのは、白とカラフルな色の、縦縞が入った傘。

確かにあの色合いならアセビに似合うなと思っていたが、メタルの巨体が相まって、遠近感が狂ってそう見えていただけだった。


アセビに持たせようとすると傘はだんだんと大きくなっていき、アセビの手に持たされた時にはビーチで使うようなパラソルだったことに気づく。


アセビが持つが、ほっそい腕では到底持てずに、結局メタルが先端の方を持ち、アセビがが下の方を握り、こっちの視線に気づいたアセビは少しだけ自慢げに見えた。


「おー似合ってるよ…やっぱりお嬢ちゃんにはちょっとだけ大きすぎたかなぁ、」


アセビは握ったパラソルに向かって、

よく聞いてた言葉できいた。

「コイツ何者?」


「コ、コイツ!?」

「あんた何て言葉教えてんの!」

カトレアは子供らしくない言葉に反応して、片手を振り上げながらメタルを問いただした、そしてメタルも必死に説明をする。

「違う!コイお嬢ちゃんが傘に向かってコイツって」

その場でアセビは間髪入れずに、

二人に向かって。

「オマエラはだれ」


二人はあまりのSHOCKに顔面を蒼白にして、背景に稲妻が走り、顔を中心に集中線が引かれる。


その言動の元凶とも言えるエイキチにカトレアは声を上げた。

「あんた!

ちゃんと言葉使いも教えなさいよ!」


「知るか!

アセビが勝手に覚えたんだろうが!」


走って店を出たことで体力を使い切ったカトレアは足をカックンカックンつまずきそうになりながらも、向かう。

エイキチもエイキチで、酒で三半規管をやられて、世界が右回転をしていて、自身が左回転をしてるような、歩行不可能な状態で、地面を探しながらでも向かった。


二人の走力が合わさってちょうど、言葉を荒げた場所から中心で、頭のぶつけ合い、言い合いに発展する。

「あの子にアンタの言葉使いを教えるんじゃないよ、あの子は可愛い可愛い女の子なのよ。」

「あ!!?黙ってろ、オマエの勝手を押し付けんなよ、こっちは一生この店に来ないでもいいだぞ。」


二人の醜い言い争いを見せないように、メタルがアセビを避けて置く。


言葉と拳の暴力によって、激辛した小競り合いだが、だんだんと縮小化してきて、もう二人してバーカウンターで項垂れていた。


「ゼーハー、今日きたのは何のようだい。」


「オゥロロロロ、寝袋が欲しい。」


「寝袋かい?これ以上は車のスペースが無いんじゃないか?仕事に影響が出るほど荷物が多いって愚痴ってたじゃないか。」


「アレあるだろ、クルクル丸めて紐で縛ればちっさくなるやつ、アレが欲しいんだ。」

俺は空中に寝袋の形を指で書いて、

正確な色や形をを説明する。

「車中泊は体がきついし、毎回二人分の布団を敷くのが思っていたより時間がかかりすぎた。」



「コレからはどこに行くんだい、」

「ライトに合わせる、

アイツだったら、本人から聞くより情報を聞ける。」

聞いてるうちにバーカウンターを立ち上がると、

「そうかい、収納スッキリ寝袋君、だね持ってきてやるよ。」

「おう、助かるよ。」

そう言って取りにってくれる、俺もグロッキーながら、片手を上げて変然と感謝の言葉を口にする。

コレで仲直り、二人はそんなことは言っていないが、思い合っていた。


氷の入ったグラスで水を飲んで待っていると

目を覚ましてから、やっと静かになった気がする。


店の中は静かで、でも換気扇の風から微かに聞こえるメタルの声。

「俺の名前はメタルそれで、あの女の人はカトレア、ちゃんと覚えるんだぞ。」

アセビに何かを吹き込む声だ。


「変なこと教えんなよ!」

ニヤけながらも、メタルにそう言うと、

また地面を軋ませて、息を切らして走ってきた。

「アンタだよ!!」

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